ベン・アフレック監督第3作目となる映画『アルゴ』。トロント国際映画祭でのワールドプレミアを皮切りに、サン・セバスチャン国際映画祭、釜山国際映画祭などで上映され、本年度屈指の傑作としての声が上り、話題を呼んでいます。

10月12日には全米公開を迎え、週末に2,000万ドルを越える好スタートをきりました。その全米公開と同日に、人気ゲーム「メタルギア」シリーズのゲームクリエイターとして知られ、自著では「僕の体の70%は映画でできている」と語るほど映画に造詣が深い小島秀夫監督が『アルゴ』の魅力を語るイベント試写会が開催されました。満席の会場で、本作を「今年1番の作品」と語る小島監督の熱いトークが炸裂しました。

■日 程:10月12日(金) トークショー開始 20:35〜 
■場 所:ワーナー・ブラザース映画試写室
■登壇:小島 秀夫監督、志田 英邦氏

志田:『アルゴ』をご覧になっていかがでしたか?
小島監督:まず、今年だと『ドライブ』や『別離』などが良かったのですが、それらを凌いで『アルゴ』が1番です。
オープニングから伝わる恐怖、ハリウッドへの皮肉、入国審査から出国するだけなのに緊張感がみなぎっている空港シーンの緊迫感など、考えつかないような発想で映像にしています。

志田:ベン・アフレックについてはどんな印象でしたか?
小島監督:『パール・ハーバー』『アルマゲドン』『デアデビル』など主演作でいかにもアメリカ俳優といったイメージがあり敬遠ぎみでした。ただ、初監督作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』を原作ファンだったのでblu-ray発売を機に観てみたら、原作の雰囲気を上手く捉えていたんです。続く『ザ・タウン』で3段階くらい上に行った印象を受けました。強盗シーンは『ダークナイト』のクリストファー・ノーラン、カーチェイスは『ボーン』シリーズのポール・グリーングラス、ガンアクションはマイケル・マンばり。すっかり惚れました。『アルゴ』は最初不安でした。これまでの作品は舞台が彼に身近で、近い内容でもあったので、このスケールでは大丈夫なかと。作品を観たら、更に上に行っていました。

志田:俳優でもあり監督もするというところはいかがでしたか?
小島監督:『ゴーン〜』などでも分かりますが、俳優の気持ちが分かるので彼らを上手く使えている。また、「世界の監督と一緒にやってきたから、方法はわかっている」と語っていたように、良いとこ取りの演出が出来ているんです。最終的にはクリント・イーストウッドを越えて欲しい。何より、一番は嗅覚が鋭いですね。ホント友達になりたいですよ(笑)

志田:評価されない報われないヒーロー像についてはいかがでしょうか
小島監督:人を駒のように使うので、CIAやFBI職員はあまり良いイメージではないのですが、今回はオフィスにいる人も戦いがあって良かった。作戦を思いつくきっかけがこれはジョン・チェンバースさん(※1)が携わった『最後の猿の惑星』で、シリーズ最終作とも言われているものなので感慨深かったです。

志田:最近実話ベースの作品の増加についてはどう思われますか?
小島監督:物語の消費が進み、リアリティを感じられるものが減ったことが要因かも知れません。脚本選びのプロセスやロケハンの方法決めもリアル。70年代ファッションの再現もしっかりしていました。

志田:「メタルギア」シリーズにも参加しているタイトルデザイナーのカイル・クーパーさん(※2)によるオープニングはいかがでしたか?
小島監督:『トロン』『アイアンマン』の時はプロローグという自分の会社名を出しているのですが、今回は自分の名前なので相当入れ込んでいたんでしょう。「メタルギア」シリーズのオープニングでも使っている手法を用いていました。本国トレーラーのシュレッダーの紙をくっつけるところをモチーフにしたセンスは凄く良かった。
志田:「メタルギアソリッド」もハリウッド実写映画化が決定しましたが、ハリウッドの映画作りはどういった感じなのでしょう?
小島監督:打合せをした感じからすると、『アルゴ』作中のプロデューサーのノリはリアルでした。ベン・アフレックに「メタルギアソリッド」をオファーしたいと言ったらプロデューサーは黙っちゃいましたが(笑)

最後にご挨拶
小島監督:こんなに面白くてわくわくする映画はなかなかないです。映画の力を知る事も出来る映画。自信をもっておススメしたい。今の僕の20%はベン・アフレックで出来ています(笑)

※敬称は略させていただいております。
※1:『猿の惑星』などを手がけた特殊メイクアップ・アーティスト。『アルゴ』ではジョン・グッドマンが演じる。
※2:オープニング・クレジット映像を制作するモーション・グラフィック・デザイナー。代表作は『セブン』『スパイダーマン』など。