●男優賞は、信頼していた人々から村八分にされる実直な男を巧みに演じた『ザ・ハント』のマッツ・ミケルセンが受賞!

 男優賞は、20日(日)に正式上映されたトマス・ヴィンターベア監督の『ザ・ハント』に主演したデンマークの人気俳優マッツ・ミケルセンが獲得。自国のみならず、『007カジノ・ロワイヤル』『シャネル&ストラヴィンスキー』『タイタンの戦い』『三銃士 王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』など国際的にも活躍している演技派俳優だ。マッツ・ミケルセンは、離婚し、思春期の息子との生活を立て直そうとしていた矢先に、勤務先の幼稚園児が何気なくついた小さな嘘によって周囲の人々から虐待を疑われ、次第に孤立していく主人公のやりきれない感情を巧みに表した彼の演技には心を揺さぶられたので、その受賞には大いに納得! 授賞式で「審査員の皆さんに感謝を伝えたいです。とても感動しています。この賞を全ての映画ファンと、トマス・ヴィンターベア監督、そして、この映画に多少なりとも関わってくれた方々全員と分かち合いたいです。こんな愛の世界に僕を導いてくれて、皆さん、ありがとうございます」とコメントしたマッツ・ミケルセンは、受賞者会見では、「今回の受賞は私にとっても、この映画にとっても重要な出来事です。月並みな作品では良しとされなかったでしょうからね。カンヌ滞在中、他の作品を見る機会はありませんでしたが、たくさんの仕事をしました。今度はぜひ審査員メンバーに加えていただき、たくさんの映画を見に来たいです!」とアピール。

●女優賞は、ルーマニア映画『ビヨンド・ザ・ヒルズ』に主演した若手女優2人がダブル受賞!

 女優賞は、正式上映が19日(土)の15時半からの1回のみだけだったクリスティアン・ムンジウ監督の『ビヨンド・ザ・ヒルズ』に主演したルーマニアの若手女優2人、クリスティナ・フルートゥアとコスミナ・ストラタンがダブル受賞した。寒村の女子修道院で清貧生活を送ることを選択した親友の元を訪れ、翻意を促そうと躍起になり奇矯な行動に走るアリーナ役を熱演したクリスティナ・フルートゥアは、授賞式で、「情熱を捧げて、この映画を一緒に作った全ての人に感謝いたします。また、この作品と私たちスタッフを導いてくれたクリスティアン・ムンジウの素晴らしい力量をも称えたいと思います」とコメント。また、信仰に生きながらも、元恋人の突然の出現で心揺らぐヴォイチタ役を演じたコスミナ・ストラタンも、「私も同様に、監督に感謝しています」と謝意を述べた。

●脚本賞は、『ビヨンド・ザ・ヒルズ』でノンフィクション小説を自ら脚色した監督クリスティアン・ムンジウが受賞!

 脚本賞は、タチアナ・ニクレスク・ブラン著のノンフィクション小説を自ら脚色して映画化したルーマニアの俊英監督クリスティアン・ムンジウが獲得した。『ビヨンド・ザ・ヒルズ』は、同じ孤児院出身の少女2人が、異なる道を選択したことで生じる葛藤と軋轢、周囲の動揺、そして事件が起きるまでを巧みな心理描写で描いた秀作なのだが、クリスティアン・ムンジウ監督のパルムドール受賞作『4ヶ月、3週と2日』の完成度があまりにも高かっただけに、小粒な印象を与えてしまった感は否めない。クリスティアン・ムンジウ監督は授賞式で、「この場にいられることは非常に嬉しいことです。ですが、この物語は現実の出来事を題材にして作ったという事実、人々が実際に苦しんでいる、ということを忘れないでください。過去の過ちを取り戻せないならば、未来に希望を託したいと思います」とコメント。受賞者会見では、クリスティナ・フルートゥアとコスミナ・ストラタンを伴って登壇したクリスティアン・ムンジウ監督は、「この賞をいただけるなんて大変光栄です。それに、この作品はコンペティション部門の中でもっとも長い作品だったので、少々驚いてもいます。製作中はしょっちゅう台詞を変えたので、女優陣には本当に助けられました」と述べ、監督の両脇に座った女優の2人も頬を紅潮させながら「撮影から2ヶ月経って、今、私たちはこの賞を受賞し、この場にいます。いまだに信じられません」と感激の弁を語った。

 長編コンペティション部門以外の各賞の受賞作は以下の通り。
☆短編コンペティション部門:パルムドール
『サイレント』:L・レザン・イェシルバス監督(トルコ)

審査員を務めたのはベルギーの映画監督ジャン=ピエール・ダルデンヌ(審査委員長)以下、総勢5名で、シネフォンダシヨン部門の審査も同じく担当。

☆カメラドール(新人監督賞):ベン・サイトリン監督『ビースツ・オブ・ザ・サウザン・ワイルド』(アメリカ)

 オフィシャル部門、併行部門の垣根を越えて、監督処女作を対象とする“カメラドール”は、ニューヨーク生まれの29歳の新鋭監督ベン・サイトリン監督が獲得した。受賞作の『ビースツ・オブ・ザ・サウザン・ワイルド』は、バスタブと呼ばれる、ルイジアナ州南部の湿地帯に浮かぶ三角州を舞台に、病いに冒された父親と暮らす貧しい6歳の少女ハッシュパピーがハリケーンの到来から大切なものを守ろうとする姿をイマジネーション豊かに描いた神話風の物語で、“ある視点”部門の上映作品(今年のサンダンス映画祭の審査員グランプリ受賞作でもある)。審査員を務めたのはブラジル出身で、シネマノーヴォの旗手となった映画監督カルロス・ディエギス(審査委員長)以下の総勢6名。

 また、高等技術院(CST)が技術者を対象にして選出する“ヴァルカン賞”は、『ザ・ハント』のシャルロッテ・ブルウス・クリステンセン(撮影)が受賞した。この他にも映画学校の学生作品を対象とするシネフォンダシオン部門では1位〜3位までの賞が決められたほか、全キリスト教協会が選ぶエキュメニック賞なども選出された。また、併行部門の“批評家週間”(初長編作品もしくは監督第2作目が対象)と“監督週間”でも、それぞれ各賞を与えている。
(記事構成:Y. KIKKA)