それでは、長編コンペティション部門の受賞作と受賞者のコメントをかいつまんで紹介!
 
◆最高賞のパルムドールに輝いたのは、ミヒャエル・ハネケ監督による万人向けの感動作『アムール』

 〈カンヌ国際映画祭便り7〉で既にお伝えした通り、映画祭中盤の20日(日)に正式上映された『アムール』は、オーストリアの異彩監督ミヒャエル・ハネケが、名優2人を主演に迎え、自身の持ち味である“毒気”&“悪気”を封印して描いた“老々介護”の物語で、下馬評通りの結果となった。授賞式で、ナンニ・モレッティ審査員長に名前を読み上げられたミヒャエル・ハネケ監督が、主演女優のエマニュエル・リヴァを伴って壇上に上がると、舞台袖から主演男優のジャン=ルイ・トランティニャンが登場。会場を埋めた2000人もの観客が一斉に立ち上がって大拍手を贈った。ミヒャエル・ハネケ監督は壇上で、「出演してくれた俳優とこの場に立てることをとても幸せに思っています。みな一緒なので、いつもよりはあまり恥ずかしくはありません。審査員の方々と映画祭ディレクターのティエリー・フレモー氏に感謝いたします。彼はこの映画を今回カンヌで発表する機会を与えてくれました。この映画を作るために協力してくれた方、全員にお礼を申し上げます。そして、ずっと私のことをサポートしてくれた妻にも感謝を伝えたい。この映画の中に、私たちが以前に交わした約束をいくらか取り入れました。そして、主演の2人にも大きな感謝を送ります。彼らはこの映画の本質です」と受賞の喜びを語った。

◆次点のグランプリは、イタリアの実力派監督マッテオ・ガローネの『リアリティ』が受賞!

 18日(金)に正式上映されたイタリア映画『リアリティ』は、監督の前作とのギャップが大き過ぎて評価が割れ、映画祭終盤の賞予想でもノーマークだっただけに全くのサプライズ受賞であった(口さがないジャーナリストには、審査委員長がイタリア人だったからこその受賞とまで言う者もいた)。受賞者会見でマッテオ・ガローネ監督は、「受賞の詳細について書かれてあったことについては、あまり読んでません。他に良い作品がたくさんあったので、この受賞には驚きました。コンペティション部門はとても厳しかったけれど、とても幸せです。なぜならグランプリを受賞したことで広くこの作品を知ってもらえますからね」とコメント。

◆監督賞は、『ポスト・テネブラ・リュクス』を手掛けたメキシコの鬼才カルロス・レイガダスが獲得!

 正式上映が24日(木)の16時(マチネ)と22時半(ソワレ)という変則的な上映だった『ポスト・テネブラ・リュクス』は、ストーリーらしいストーリーはなく、カルロス・レイガダス監督が、自身の生まれ育った土地や生家を舞台にして彼の心象風景を綴った作品で、内容はともかくも、その映像美だけは実に圧巻だった。授賞式で名前を呼ばれるや、会場に大きなどよめきを走らせ、檀上で行った受賞スピーチの最後に「ここ数日間、作品を応援してくれたマスコミにお礼申し上げます!」と各紙の酷評に対して痛烈なコメントを放ったカルロス・レイガダス監督は、受賞者会見において、「私の作品は、世界中の人と連帯感を作り、それを共有し、見い出したいという私の願いから生まれています。自分の映画を多くの人が気に入らなかったとしたら、君は悲しくないのかいと聞かれたこともありました。多くの映画監督の目的は喜ばれることにあります。ですが、私の目的は違います。完全に自由に自分を表現したい、誰かに何かを託したい、それが私の映画を作る目的なのです」と述べ、大いに気を吐いた。

●名匠ケン・ローチ監督の『ザ・エンジェルズ・シェアー』が受賞した審査員賞!

 22日(火)に正式上映された『ザ・エンジェルズ・シェアー』は、〈カンヌ国際映画祭便り10〉でお伝えした通り、英国のグラスゴーを舞台にして厳しい現実を生きる若者たちの姿をライトに描いた爽快な社会派映画。授賞式で、「カンヌ映画祭と実に親切な審査員の皆さんに感謝をいたします。カンヌはいつも温かく迎えてくれます。そしてカンヌは“映画は単なる娯楽じゃない”ことを知らしめてくれます。厳しさに耐えている全ての人に連帯の気持ちを表明したいと思います」と喜びを語ったケン・ローチ監督。受賞会見では、『ザ・エンジェルズ・シェアー』について「この映画の登場人物のような人物と時を過ごすなら、と考えてみました。彼らは楽観主義者なので、僕たちを幸せにしてくれるだろうなとね。正確に伝えるなら、このテーマはコメディ形式で提示しなければならなかったのです」とコメントした。
(記事構成:Y. KIKKA)