映画祭11日目の26日(土)。強い陽射しがようやく戻ってきて喜んだものの、夜になってまた少し降雨。でも、気温は下がらず、快適な一日! “コンペティション”部門の正式上映も今日が最終日となり、アメリカのジェフ・ニコルズ監督の『マッド』と韓国のイム・サンス監督の『テイスト・オブ・マネー』が上映された。“ミッドナイト・スクリーニング”部門には、イライジャ・ウッドが主演したフランク・カルフォン監督のホラー映画『マニアック』が登場。短編コンペティション部門の出品作10本の正式上映も11時&15時の2回に渡って行われた。
 嬉しいニュースは、今回の“長編コンペティション”出品作の日本での配給が続々と決まっていること。映画祭中にすでに半数以上の作品が買い付けられており、景気の冷え込みにより、高評価を得た受賞作ですら日本公開にいたらなかった2〜3年前の状況と比べると、雲泥の差だ。

◆上映作品も減り、マルシェ(見本市)関係者がごっそりと去って、街中はのんびりムードに!

 あれほど賑わい、混み合っていたクロワゼット通りも閑散としてきた。商談を済ませた配給会社や製作会社などのマルシェ関係者がごっそり去ったせいだが、授賞式を明日に控えた我々報道陣にとってはまだまだ気が抜けないのが実情だ。
 さて、本日は朝の8時半からコンペティション部門の『マッド』を鑑賞。監督&脚本した長編2作目の心理スリラー『テイク・シェルター』で昨年の“批評家週間”グランプリを受賞したアメリカの気鋭監督ジェフ・ニコルズがコンペ部門に初参戦、長編3作目にして脚本も手掛けた本作は、アメリカ南部を舞台に、謎の流れ者との交流を通して成長していく少年の物語で、マーク・トウェインの小説「トム・ソーヤーの冒険」を彷彿とさせる快作だ。
 ミシシッピ川沿い地帯に暮らす14歳の少年エリスと同い年の親友ネックボーンの2人が、ミシシッピ川に浮かぶ島に隠れ住んでいた逃亡者のマッドと偶然出会い、奇妙な友情を結ぶ。やがて2人はマッドを助け、島を脱出させようとするが……。
 子役2人の好演が実に光るノスタルジックな作品で、エリス役は、昨年のパルムドール受賞作『ツリー・オブ・ライフ』でブラッド・ピットの息子(三男坊)を演じたタイ・シェリダン。ネックボーン役は本作で映画デビューを飾ったジェイコブ・ロフランド。タイトルロールのマッド役をマシュー・マコノヒーが、その腐れ縁の恋人ジュニパー役をリーズ・ウィザースプーンが演じた他、サム・シェパード、マイケル・シャノンらがガッチリと脇を固めている。

◆奇しくも共に“ディープ・サウス”を舞台にしたコンペ出品作2本に出演し、完全復活を印象付けたマシュー・マコノヒー!

 11時15分から行われた『マッド』の公式記者会見に登壇したのは、監督のジェフ・ニコルズ、出演俳優のマシュー・マコノヒー、リーズ・ウィザースプーン、タイ・シェリダン、ジェイコブ・ロフランドと3人のプロデューサーたち。
 『ハスラー』『明日に向って撃て!』などのアメリカン・ニューシネマ作品に惹かれていると語ったジェフ・ニコルズ監督は、舞台となるミシシッピ川の自然の素晴らしさを述べた上で、「自然に対してこだわるのが、僕固有のスタイル。この作品では特に、“愛”を自然の一部として描きました」とコメント。ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれのリーズ・ウィザースプーンは、「私は川の近くで育ちました。兄弟と一緒にモトクロスをやったり釣りに出かけたり。だから、自分の家にいるような感覚でしたが、私にとっては珍しい役柄でした。こんなタイプの役を演じたことはなかったんです。本当のアメリカ南部を表現した映画というのはあまりありません。でも、脚本を読んだとき、この映画は本物だという確信がありました」とコメント。24日の『ザ・ペーパーボーイ』に続き、2度目の記者会見に臨み、本作の中心テーマである“愛”について問われたマシュー・マコノヒーは、「人が恋に落ちるときの、あの初心に立ち返ろうと思った。僕が演じたマッドは現実離れした男なんだが、冷酷な現実に立ち返ろうとすれば、心が張り裂けて死んでしまいかねない男なんだ」と返答。『ツリー・オブ・ライフ』に比べ、ずっと大人びた演技を披露したタイ・シェリダンは、「今回、多くのことをマシューから学びました。こんなベテラン俳優を身近に感じることができたのはとても素晴らしい経験でした。僕たちはみんな最初からとても打ち解けていました」と語った。
(記事構成:Y. KIKKA)