映画祭8日目の23日(水)。朝から晴れ渡り、気温もグングン上昇! やっとカンヌらしい陽気が戻ってきた。“コンペティション”部門では、ウォルター・サレス監督の『オン・ザ・ロード』とレオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』の正式上映が行われ、招待上映部門では、イタリアの名匠ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ミー・アンド・ユー』が上映された。“ある視点”部門には、7人の監督がメガフォンを取ったオムニバス映画『7デイズ・イン・ハバナ』などが登場!

◆『オン・ザ・ロード』はビートジェネレーションを代表する作家ジャック・ケルアックの自伝的小説の映画化!

 1998年の『セントラル・ステーション』でベルリン映画祭金熊賞を受賞し、2004年の『モーターサイクル・ダイアリーズ』も高く評価されたブラジルの監督ウォルター・サレスのコンペ出品作『オン・ザ・ロード』(フランス・イギリス・アメリカ・ブラジル合作)は、現代アメリカ文学の原点といわれるジャック・ケルアックの名作小説「路上」の映画化で、ケルアック自身をモデルとする主人公のサル役は、『コントロール』でジョイ・ディヴィジョンのイアン・カーティスを演じて一躍脚光を浴びた英国の気鋭俳優サム・ライリー。
 朝の8時半からの上映に続き、11時15分から行われた本作の公式記者会見には、ウォルター・サレス監督、サム・ライリー、そして共演のギャレット・ヘドランド(ニール・キャサディがモデルのディーン役)、クリステン・スチュワート(ルーアン・ヘンダーソンがモデルのメリールウ役)、キルスティン・ダンスト(キャロリン・キャサディがモデルのカミール役)、ヴィゴ・モーテンセン(ウィリアム・S・バロウズがモデルのオールド・ブル・リー役)、トム・スターリッジ(アレン・ギンズバーグがモデルのカーロ・マルクス役)らが出席した。
 「この映画を製作するのに8年かかった」というウォルター・サレス監督は、「全ての出演俳優をこの映画の共同製作者だと考えた。我々は原作に忠実でありながらも、原作から大きく離れていったんだ。終わらない即興作品を作るつもりで仕事をしようと努めたよ」とコメント。また、“裸のランチ”などで知られ、波瀾万丈の人生を歩んだアメリカの伝説的作家ウィリアム・S・バロウズをモデルとする役を演じたヴィゴ・モーテンセンは、「出演に先立って、もう一度原作を読み直し、原作の非常に現実的な側面に気づかされた。今、若者は経済危機を拒絶し、権力を拒否している。そういった意味でも、この映画はちょうど良いタイミングで製作されたと思う。若い人もそうかもしれないが、僕の世代の人間は、この作品にノスタルジーを感じるかもしれないし、この時代とその時の出来事に自分を重ねるかもしれない。原作で感動したのは、解釈に大きな自由があるということ。ウォルター・サレス監督は、原作にはない新たな登場人物を加えている。単なる原作のコピーでは満足しなかったんだよ」とコメント。

◆映画祭も後半を迎え、取りざたされる賞レースの行方
業界誌の星取表から賞の行方を占ってみると…

 映画祭期間中は毎年、日刊で映画祭の模様を伝える情報誌が幾つか発行される。英語の“スクリーン”誌とフランス語の“ル・フィルム・フランセ”誌が双璧だが、どちらも最終ページに長編コンペティション部門作品の星取り評価表を掲載しており、批評家たちのパルムドール予想も本格化してきた。現時点で評価が高いのは、ミヒャエル・ハネケ監督の『アムール』とジャック・オーディアール監督の『ラスト・アンド・ボーン』。そして、クリスティアン・ムンジウ監督の『ビヨンド・ザ・ヒルズ』、トマス・ヴィンターベア監督の『ザ・ハント』、ケン・ローチ監督の『ザ・エンジェルズ・シェアー』が続く。アッバス・キアロスタミ監督の日仏合作『ライク・サムワン・イン・ラブ』の評価は、世界各国の記者が星取りをしている“スクリーン”誌では高いが、フランスの批評家たちによる“ル・フィルム・フランセ”誌では芳しくない。ジャーナリストたちも参考にしている星取り表(両誌の評価は結構別れる)ではあるが、賞の行方は審査員のメンツ次第。この星取り評価表が受賞に反映されないことも多い。
 それに、映画祭終盤にはデヴィッド・クローネンバーグが登場するし、期待の新鋭監督リー・ダニエルズやジェフ・ニコルズなどの話題作がずらりと並んでいるので、まだまだ予断を許さないというのが実情だ。
(記事構成:Y. KIKKA)