映画祭6日目の21日(月)。今日もぐずついた雨模様だが、本日が正式上映となる作品が多く、“コンペティション”部門では、フランスの伝説的な監督アラン・レネの『ユー・ハブント・シーン・エニシング・イェット』、イランの名匠アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』、フランスの女優イザベル・ユペールを主演に迎えたホン・サンス監督の韓国映画『イン・アナザー・カントリー』の3作品が上映。“ある視点”部門では、ドキュメンタリー畑出身の女性監督アイダ・ベジックの『チルドレン・オブ・サラエボ』など3作品を上映。そして“ミッドナイト・スクリーニング”部門には、三池崇史監督の『愛と誠』が登場(日本では6/16からの公開だが、残念ながら監督&キャストのカンヌ入りは叶わず)!

◆『二十四時間の情事』『去年マリエンバートで』等で知られる巨匠アラン・レネは、今回で6度目のコンペ参戦!

 トリュフォーやゴダールと並ぶヌーヴェル・ヴァーグを代表する名監督で、1980年に『アメリカの伯父さん』で審査員特別大賞、2009年の『風にそよぐ草』で映画史への貢献とキャリアに対する特別賞を受賞しているアラン・レネの3年ぶりの新作『ユー・ハブント・シーン・エニシング・イェット』が、朝の8時半から上映された。
 有名な劇作家アントワーヌの死後、彼の戯曲「エウリディケ」に出演した名高い俳優たちが彼の家に集まる。それは、生前のアントワーヌが彼らに声明を残し、若者たちの劇団による「エウリディケ」のリハーサルフィルムを観るようにと頼んでいたからなのだが……。
 12時半から行われた公式記者会見には矍鑠としたアラン・レネ監督(この6月に90歳の誕生日を迎えるが、まさに現役バリバリ!)、出演俳優のサビーヌ・アゼマ、アンヌ・コンシニ、ピエール・アルディティ、ランベール・ウィルソン、ドゥニ・ポダリデス、イッポリット・ジラルドらが出席。タイトルについて問われたアラン・レネ監督は、「最初はほんの半分冗談でこの言葉を使い始めたんだが、それが編集者と私の間の標語のようになり、それが結局のところフィルムケースに記され、最後にラボがこのラベルを送ってきた。それでこのタイトルを採用したというわけ。特に深い意図はなかったよ」と煙に巻くコメント。撮影監督のエリック・ジェティエに関しては、照明技術の素晴らしさをほめ讃え、「本物の魔術師と一緒に仕事をした気分」だと語った。また、本作に出演し、自分自身の役を演じたフランスを代表する人気俳優たちが、口々に監督を絶賛する姿も印象的で、和やかな会見だった。
 ただ、出演俳優の1人で、フランスが誇る国際派スターのマチュー・アマルリックが記者会見に登壇せず、残念に思っていたのだが、なんと夕方に駅前の路上で、マチュー・アマルリック本人とバッタリ遭遇! 以前にインタビューしたことを覚えていてくれた彼は、生憎の雨にも関わらず、快く写真撮影に応じてくれた。そのナイスガイぶりには、ちょっと感激。

◆アッバス・キアロスタミ監督の『ライク・サムワン・イン・ラブ』は日本を舞台に、日本人キャスト&スタッフで撮影!

 1997年の『桜桃の味』がパルムドールに輝き、2010年の『トスカーナの贋作』ではジュリエット・ビノシュに女優賞をもたらしたイランの巨匠の5度目のコンペ作となる『ライク・サムワン・イン・ラブ』。
 異常に嫉妬深い恋人(加瀬亮)と手を切れずにいる女子大生が、出張系風俗のアルバイトで、元大学教授の老紳士(奥野匡)の家に派遣されるという物語で、ヒロイン役にTVの特撮ヒーロー・ドラマ「侍戦隊シンケンジャー」のシンケンピンク役で知られる高梨臨を抜擢。撮影は柳島克己で、横浜市と静岡市でロケ撮影を行った作品だ。昨夜のプレス向け試写では、窓ガラスが割られた直後に終るあまりにも唐突なラストシーンに、会場ではどよめきが起きていた。
 14時半から行われた公式記者会見には、アッバス・キアロスタミ監督、高梨臨、奥野匡、加瀬亮、堀越謙三プロデューサーが登壇。映画のラストの選択について、監督は「窓ガラスに衝撃を与えるシーンで頭に浮かんできたのは“THE END”の文字でした。私の映画には始まりも終わりもありません。私の作品は、まさに人生で起こる事そのものだからです」とコメント。『アウトレイジ ビヨンド』の撮影の合間を縫ってカンヌ入りした加瀬亮は、監督から「役作りはするな」との指示を受け、髪の毛を少し伸ばし、無精髭を生やすことを求められたと語り、「走って現れるシーンの直前に、その場で20回ジャンプさせられた」エピソードを披露。舞台俳優で今回が映画初出演となる84歳の奥野匡は、「台本なしの撮影に戸惑った」と語り、日本の習慣において相応しくないと感じた“仕草”の撮影を拒んだこともあったと明かした。
(記事構成:Y. KIKKA)