戦後、数々の時代の局面でシャッターを切り続けてきた伝説の報道写真家・福島菊次郎を追ったドキュメンタリー映画『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』。
本作を応援して頂いている方々をゲストにお招きし、毎週トークイベントを実施しておりますが、先日18日(土)にその第三弾を銀座シネパトスにて実施致しました。

今回ゲストにお迎えしたのは、クリエイターのいとうせいこうさん。
長谷川三郎監督とともに熱いトークを繰り広げ、最後にはガッチリと握手が交わされました。

◆映画『ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳』 トークイベント
●実施日時: 8月18日(土) 
●場所: 銀座シネパトス 
●登壇者: いとうせいこうさん(クリエイター)、長谷川三郎監督

いとうせいこうさん(以下、いとう)
もう、居住まいを正すしかない!という映画ですね。

長谷川三郎監督(以下、長谷川)
いとうさんは、福島菊次郎さんをご存知でしたか?

いとう
名前は聞いたことがありました。でも写真集は観たことがなかったです。
ジャーナリストとしてずっと現場に出ている人は、名前が残らない人が多いんですよね。
長谷川さんもドキュメンタリーをやっていらっしゃるからわかると思いますけど。

長谷川
日々求められているものを、現場に行って記録していく。ということですね。
僕は1970年生まれで、福島さんのことは知らなくて、1960年代、70年代に福島さんが撮られた25万枚もの膨大な、しかも対象を真っ向から捉えた写真を観て衝撃を受けたんです。

いとう
民衆側から、撮るものを抹消しようとする権力側があるんです。
1960年代70年代は、消されまいとしていた。しかし、1980年代になると、マスコミにも消そうとする権力側が増えてくる。そうすると、いろんなものが全部消されていってしまうんですね。で、いろいろなものが消されてしまっていた時に 福島県の原発事故があった。今、我々はツィッターなどマスコミでない発信方法を手に入れて、新聞やテレビが報道していることは本当なのかとマスコミに対抗することができる様になった。
それでも、毎日そんなことを考えている訳ではない。全く考えない1日だってある。
でも福島さんを見ていると消されることを1日たりとも忘れないでいようとしている。
「毎日諦あきらめないでいる」というのはなんということか!と思い知りました。
更にすごいのは、福島さんはテレビを見てうんちくを言っているというのではなく、90歳で現場に行って言っているんです。しかもとてもユーモラスにご自身の言葉で語っている。
本当に、自分たちでなんとかしなければならない問題なのだけど、「すみません!菊次郎さん、もう少しお神輿かつがせて下さい!」と言いたいです。

長谷川
僕もドキュメンタリーをつくっているので、菊次郎さんには同じ表現者として力をもらいました。映画でも言っている様に「国が真実を隠した時に、カメラマンは法を犯してもいい」というように、自分のカメラは何のためにあるのか?
とおっしゃっていました。誰の側に寄り添っていくのか?と。そんなことも教わった気がします。
そして、事実を隠蔽するというのは、福島県だけの話ではないということも。
生活の身の回りにもたくさんの嘘があるはずだと教わりました。

いとう
そうですね。そして、事実を抹消しようとする勢力に対抗するには、この映画のようなものが非常に大切なんです。監督はテレビで活躍されているからよくご存知だと 思いますが、テレビだと規制がたくさんある。だから映画。しかも、シネコンではなく、 ここ銀座シネパトスや(『ニッポンの嘘』上映館の)新宿K’s cinemaや広島・八丁座のような映画館。
ここにこうして集まっているのは、集会ですよ。銀座、新宿、広島ともっと広がっていくといいと思います。

長谷川
僕も映画の可能性を感じました。暗闇の中で福島菊次郎に出会ってほしい。
若い世代は、消化出来ないものもあるだろうし、福島さんをご存知の方々は改めて思いおこしてほしい。これからの日本と向き合うヒントにしてほしいと思います。

いとう
シネパトスは、劇場出たら、すぐそこに赤ちょうちんがあるからね!
みんなで寄って話し合えばいい。けんけんがくがくしたらいい。その行為までを含めて「映画」ですから。