2月18日の公開から5か月が経とうとしている中、日本各地でまだまだロングラン上映が続く伊勢谷友介監督作品「セイジ 陸の魚」。6月29日より開幕した台北映画祭(台北電影節)では、Filmmaker in Focusとして伊勢谷友介を特集、その中で「セイジ」は特別招待作品として上映されることになり、伊勢谷監督と龜石太夏匡プロデューサーが現地に駆けつけ記者会見と舞台挨拶を行いました。
伊勢谷友介監督にとって初の台湾渡航となりましたが、降り立った空港や映画祭会場には多くの現地ファンが詰めかけ、伊勢谷監督も積極的にサインや握手に応じ台湾の方々との交流を図りました。会見では、人の救済とは何かという難しいテーマながら、観た人がアクションを起こすきっかけになって欲しいという熱い思いを真摯に訴え、また3.11の震災時にいち早く援助の手を差し伸べた隣国に感謝の念を表した伊勢谷監督と龜石P。そして、時に軽快な受け答えを交えたフランクな人柄に台湾マスコミからは「親切な大スター」として好意的に大きく報じられました。
また400席が即完売となった「セイジ」の特別上映では、前半では声を出して笑いラストシーンでは涙を流すなど台湾らしい熱いリアクションで場内は沸き、上映後40分にわたるティーチインでは製作者の生の声に熱心に聞き入ってくれました。公式行事以外では、小籠包など台湾ならではのグルメや、夜市や中正紀念堂を見学、招待された国への見聞を十分に深めた滞在となりました。台北映画祭は7月21日まで開催。「セイジ」は期間中あと2回上映される予定です。
下記に会見と舞台挨拶の抜粋をご報告いたします。
8月15日(水)には「セイジ 陸の魚」Blu-ray&DVDがいよいよ発売となります。

■6月29日(金)オープニング作品「PLAY」Ruben Ostlund監督作品 鑑賞
  フォトコール&オープニングレセプション参加  @台北中山堂
  「ディスタンス」(是枝裕和監督)上映後ティーチイン @新光シネプレックス
■6月30日(土) 記者会見 @台北中山堂
  監督第一作「カクト」上映後ティーチイン @新光シネプレックス
■7月1日(日)  監督第二作「セイジ 陸の魚」ティーチイン @新光シネプレックス
■登壇者:伊勢谷友介監督(36)、龜石太夏匡プロデューサー(41)

<記者会見/抜粋>
伊勢谷:命をかけて作った映画をこうして台湾の皆様に観ていただけることを大変嬉しく思います。
龜石:呼んで頂いて本当にありがとうございます。

司会:伊勢谷さんというと台湾ではまず俳優として有名です。どうして監督になろうと思ったのですか?
伊勢谷:僕は元々映像を作りたくて俳優になりました。経験を積んで龜石始め沢山の方々と出会い、夢の映画を作らせて頂くことができました。あと、今は社会的に見ても人間の生き方というはどういうものなのか、きちっと表現をしないといけない時代だと思ったんです。どういう形で人間の社会がありえるのかを真剣に考えて、それを表現する形として映画を撮りたかったというのが今回の映画の趣旨です。

司会:「セイジ」の原作を映画化する上で難しかったところはどこですか?
龜石:非常に淡々とした物語ながら、すごく強い言葉を持つ原作だったので、それをそのまま脚本に乗せるのではなく、どう映像化していくかに非常に苦労しました。
伊勢谷:セイジのセリフで「人間が多過ぎるだけだ」というのがあるんですが、今地球上で人間の生活が限界に向かっている中、大いなる問題がある時に言葉で論じているだけでは非常にネガティブなことだと僕は思っています。僕はなんとかセイジに行動をさせたくて、物語の結末はセイジから命のバトンを受け取った少女が次に繋がるアクションを起こす、という風に落とし込みました。そこでやっとセイジというキャラクターが腑に落ちたんです。

司会:モデル、俳優、デザイン、監督、株式会社と色々されてきて、他にも何かやりたいことはありますか。
伊勢谷:いやもう・・これで手一杯なんで。勘弁してもらえますか(笑)踊りましょうか?
記者:伊勢谷さんと龜石さんは、意見の違いなどで衝突することは無いんでしょうか。
龜石:友人関係としてももう10数年なんですが・・喧嘩することは無いですね。
伊勢谷:僕がダメなところを彼は出来て、彼がダメなところは僕が出来るんです。脚本でも彼はエンターテイメントの部分を書けるんですが僕は書けないし、そういう意味では住み分けが良くできている2人です。
僕たち2人とも結婚していないんですが、この関係のせいで奥さんがいないのかもしれません(笑)
今日は土曜日なんで、是非素敵な女性と知り合えるようなスポットを紹介してください!
龜石:あと、最後に一言よろしいでしょうか。3.11の震災時、日本中が絶望感に包まれていました。その時、台湾の方々には迅速に支援して頂き、本当に心強く感じました。ここに2人から心からお礼申し上げます。ありがとうございました。(2人、深くおじぎ)

<「セイジ 陸の魚」上映後ティーチイン/抜粋>
司会:「カクト」と「セイジ」は主人公が旅を通して成長する物語、という所が共通していると思います。
人生は旅のようなもの、映画作りも旅のようなものと考えからでしょうか?
伊勢谷:確かに仰る通り、「カクト」も「セイジ」も主人公は旅をします。ですが、「カクト」では僕自身も含め‘内面の旅’でした。自分自身を知る旅です。主人公も僕も当時は自分の事に興味がありました。ですが「セイジ」の場合は、自分以外の人たちと触れることによって主人公が成長する物語になっています。そういう意味では、内向的なところから外的要因への変化があると思います。僕自身も「カクト」の時は自分自身の為に映画を作っていました。それから8年経って様々な経験を積み、表現の形とは最終的にはやはりみなさんに観てもらわないことには意味をなさないと感じるようになりました。僕自身の表現の主体性が変わったというのが一番大きな変化だと思います。
龜石:僕の変化は「カクト」の時は出演させて頂いたのですが、「セイジ」ではオーディションに落ちたことです(笑)
実際、映画の中に「いい20年だったね」というセリフが出てきますが、もしかして19年と11ヶ月苦しかったのかも知れません。僕の映画製作に関わった8年も大変辛く苦しいもので、何度も挫折し諦めかけました。ですがこうして映画が完成したことによってこの8年はとても素晴らしいものになったんです。これが生きるということかなと思うし、ちょっと旅と似ていると思います。

<観客とのQ&A>
観客:伊勢谷監督は自分が出演したいという気持ちにはならなかったのでしょうか。
伊勢谷:もちろんセイジを演じたかったです!ですが、僕よりセイジ役に相応しい俳優さんがいたのでお譲りしました(笑)僕はセイジを撮る前に「あしたのジョー」の力石役をやっていて、かなり身体を作ったのでそこには自信があったんですが、衣装合わせに現れた西島さんの裸を観てえええー!?と。あの身体は本当に素晴らしいですね。

観客:伊勢谷監督は「ツリー・オブ・ライフ」のテレンス・マリックの影響は受けているのでしょうか?
伊勢谷:彼の作品は大好きなので影響は受けていると思います。生き方の影響を受けた監督もいます。「ブラインドネス」のフェルナンド・メイレレスは撮影で破壊した環境の分、木を植えるんですが、すごく感銘を受けました。

観客:津川雅彦さんの役柄がとても気になりました。映画の中でどういう役割をになっているのでしょうか。
伊勢谷:セイジのことを理解している大人が周囲に必要だと感じて、元々そういう設定ではなかった源爺を盲目にしました。目が見えないからこそ他の人に見えないものが見える人物です。また津川さんは非常に目がギラギラとした方なので、サングラスを掛けて彼の目の存在感を消す必要がありました(笑)

<総括>
龜石:アジア圏の国に来たのはほぼ初めてだったのですが、すごく日本に近くて、日本のことを良く思ってくれている方々が多いと感じました。ご飯も美味しいですし、月並みなんですけどなによりも人の気持ちが優しいというのは僕達外から来たものが一番感じることです。こんなに近くにすばらしい国があることを知れたのは、僕の人生にとっても非常に大きかったです。また来ます。ありがとうございました!謝謝、台湾!

伊勢谷:台湾は本当に人が優しくて、中国と同じかと思いきやどちらかというと僕達と近しいと感じました。みなさんには丁寧に接して頂いて本当にありがたかったです。今後の作品の構想も、方向性が見え始めましたし、リバースプロジェクトとしても台湾の方とご一緒話も出来て、最後まで本当に充実した4日間になりました。今後も益々幅を広げて活動をしていきますので、ご期待下さい!台湾〜謝謝!!!