井上靖の故郷である伊豆・湯ヶ島など、日本の美しい風景を舞台に、親子の絆と愛を描いた本作は、海外でも絶賛され、第35回モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリに輝きました。
人と人との絆の大切さを知った今の時代にこそふさわしい、希望に満ちた普遍の愛の物語です。

なお、4月22日(日)に開催された日本シアタースタッフ映画祭でも『わが母の記』が“シアタースタッフ期待作10選”に選ばれ、本編上映後、本作で役所さん演じる主人公伊上洪作の担当編集者・瀬川役を演じた三浦貴大さんと原田眞人監督が舞台挨拶を行いました。

映画館スタッフが最も期待する作品として、映画祭の名誉会長を務める漫画家の松本零士さんが表彰状を授与。三浦貴大さんも“今後の活躍が期待される俳優”として登壇し、鑑賞後の観客の熱い反応に応えました。

■日本シアタースタッフ映画祭 概要
【日時】4月22日(日) 16:30〜
【場所】サイエンスホール
【登壇者】三浦貴大、原田眞人監督(敬称略)

【ご挨拶】

●原田眞人監督:
今日は、『わが母の記』公開1週間前ですが、このようなイベントに
招待いただき、大変名誉に思っています。

●MC:
公式サイトでも、母へのメッセージを募集していますが、
今日は、皆さんそれぞれが感じることが、きっとあると思います。

●原田監督:
母親だけでなく家族へのメッセージ、これから家族を作ろうと
思っていらっしゃる方は未来の家族へ向けたメッセージなど、
様々なメッセージを送り届けて頂けたらと思います。

●MC:
今までどちらかと言えばハードな男性向けの映画が多かった
原田監督ですが、今回は女性的な映画です。

●原田監督:
やはり自分も母から生まれたんだなという気持ちです。
昔、僕が映画ファンになったきっかけが、母親が映画好きだったことなんです。
陣痛を起こしたのも映画館の中でしたし、そもそも母の影響なんですよね。
しかも、1番記憶に残っている映画は『山河遥かなり』という、母探しの映画なんです。ですので、回りまわってやっと本来の場所に戻ってきたという気がします。

●MC:懐かしい日本映画の感覚が、たっぷり詰まっています。

●原田監督:
小津安二郎監督の作品や1959〜1973年の日本映画を見直して、そこから衣裳などを色々と取り入れました。
ですので、小津映画にオマージュをしています。
小津映画はローアングルで縦のラインが印象的なのですが、今回は竹藪のシーンなどで真似しました。

●MC:
深いですね。伊上家の居間も印象的でした。

●原田監督:
あれは、特に居間の数々の蔵書などもそうなのですが、井上先生が実際に住んでいた頃のままなんですよね。
本を出そうとすると崩れてしまうので、そのままにしといてくれ、というくらいでした。

そもそも、企画前から井上家の方々とは親しくなってから、井上邸にお邪魔したのですが、あの居間と書斎に入った時は、『2001年宇宙の旅』の人工知能ハルの中に入ったような興奮を感じました。
「この映画は井上邸を使えなければ、完成しないだろう」と思うくらい惚れ込んだ空間でしたね。

●MC:撮影後は全て元通りにしたのですか?

●原田監督:
撮影後は取壊しされて、今は更地です。
居間と書斎だけ旭川(井上靖記念館)に移築されました。
僕の作品では、男っぽい映画でも壊れゆく空間で撮ったものが多いんです。
今回はしっとりとした作品ですが、やはり無くなってしまうような空間でした。

人がほとんど住まなくなった家だったので、撮影時に井上家の方々は「父が生きていた頃は、家族が集まるのが好きだった。昔を思い出す」としみじみ仰っていました。役所さんも井上邸に入って、1時間くらい早く入って書斎でぼんやり過ごしながら、井上先生の気が下りてくるのを待っていたりしていましたね。樹木さんは不動産好きなので、家の中を逐一眺めて「いい物件だわ」とおっしゃってました(笑)。

今回は、樹木さんにあんなに圧倒されるとは思っていませんでした。
樹木さんの衣裳は今回全て自前なんですよ。ご家族の思い出が詰まっている衣裳を、「このシーンはこの着物で、この帯で」と。
それは作品の色合いに合っていました。お菓子も自前、これが美味しいんですよ。

●MC:海外でも上映をされるのですか?

●原田監督:
海外の反応もすごく良かった。アメリカ人でも韓国人でもインド人でも
「映画を見ている間、伊上家の食卓に家族と一緒についている気持ちになった」
と言っていただけたので、海外でも大丈夫だと思います。

(ここで松本零士名誉会長から、“期待作10選”の表彰が行われ、その後、三浦貴大さんが登壇されました。)

●三浦貴大さん:
はじめまして、三浦貴大です。こういう舞台に僕なんかが立っていいのかなとドキドキしているんですが、ここに立てて嬉しいです。

●MC:映画館スタッフが1番期待している俳優ということです。

●三浦さん:嬉しいですね。

●MC:原田監督の現場はどんな現場でしたか?

●三浦さん:
監督が醸し出す緊張感はすごかったですね。スタッフ・キャストともに良い緊張感があり、僕はすごく楽しかったです。

●MC:現場では、カメラの前で動揺しない方ですか?

●三浦さん:
この仕事を始めたころはすごく動揺していたんですが、最近はあまりしなくなりました。良い意味での緊張はしますが。

●MC:
(松本さんに)三浦さんは松本さんの漫画の登場人物のような雰囲気がありますが、例えれば、どんな存在でしょう?

●松本零士さん:
ハーロックのような美青年の方、かっこいいキャラクターの分類に入りますね。将来私が(映画を)作ることがあったら、よろしくお願いいたします。

●MC:映画好きの皆さんが集まっています。最後にメッセージを。

●三浦さん:
本当に最近、なかなかない作品で、見ながら色々なものを感じてもらえる映画だと思います。今はほとんどなくなってしまった
家族の形や、変わらずにある家族の絆などを、感じ取っていただければと思います。今日楽しんで頂けた方は、色々な人に宣伝していただけたらと思います。

●原田監督:
今日は皆さん楽しんで頂けたと信じていますが(会場拍手喝采)、このように期待されて、賞状もいただいて、ものすごく嬉しいです。
かつては映画館に通ったのに、今は行かなくなってしまった高齢者の方々も『わが母の記』観にに来てくれると思いますが、この賞にはそんな期待が込められていると思います。

若い観客も見た後すごく反応が良いです。鑑賞後には、おじいちゃんやおばあちゃんに電話したくなったとか、家族と会話したくなったとか、そういう反応があるのですが、劇場に来てもらうまでが大変なので、本当に若い皆さん1人1人が各自100人くらいを劇場に誘ってください(笑)。

3世代を描いていますが、3世代それぞれが家族で楽しんで会話ができる、そういう環境を作っていただければ、映画はもっともっと底上げされていくと思います。どうぞ応援してください。