それでは、長編コンペティション部門の他の受賞作と受賞者のコメントをかいつまんで紹介!

◆次点のグランプリは、ともにカンヌの常連であるトルコの実力派監督とベルギーの兄弟監督が同時受賞!

 トルコの実力派監督ヌリ・ビルゲ・ジェイランは、2003年に『ウザク』でグランプリに輝き、2006年には『クライミット』が国際批評家連盟賞を受賞。2008年の『スリー・モンキーズ』では監督賞を獲得し、翌2009年には長編コンペティション部門の審査員を務めたカンヌの常連監督。彼が脚本&編集も兼務した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アナトリア』は、素人俳優を起用し、ありふれた殺人事件を通して人間の弱さと哀しさを浮き彫りにして見せた秀作だ。トルコの草原地帯アナトリアの丘に延々と続く夜道を車が走るシーンを堂々たる映像美で描き出した野心作で、殺人事件の現場検証に向う車内で交わされる下世話な会話も出色だった。受賞者会見でヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督は、「この賞は私の期待をまったく超えたものです。私の長編映画は判りやすいとは言えないし、それに上映が最終日(21日)だったので、きっと審査員の皆さんもメディアも一般の観客も、もう疲れてしまっている頃だろうと思ってましたから。今回の受賞がトルコの映画界に役立ち、若い世代が育つきっかけとなればと思います」と受賞の喜びを語った。

 一方、2度の最高賞に輝くベルギーの兄弟監督、ジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌは、前4作品が連続でカンヌの主要賞を受賞(1999年の『ロゼッタ』でパルムドール&女優賞:エミリー・デュケンヌ、2002年の『息子のまなざし』で男優賞:オリヴィエ・グルメ、2005年の『ある子供』でパルムドール、2008年の『ロルナの祈り』で脚本賞を獲得!)、2006年にはカメラドール(新人監督賞)の審査委員長を務めた巨匠である。15日(日)に正式上映された『少年と自転車』は、自分を児童ホームに預けた父親を探し出し、再び一緒に暮らすことだけをひたすら願う11才の少年シリルの姿を描いた物語。彼の唯一の所有物であり、心の拠り所となる“自転車”に乗って街を駆け巡っていたシリルは、美容室経営者のサマンサと出会い……。子役の起用に長けたダルデンヌ兄弟に抜擢され、本作でデビューしたシリル役のトマ・ドレのいじらしくも健気な演技に心を打たれる秀作だ。共演は国際的に活躍するベルギー出身の女優セシル・ドゥ・フランスとジュレミー・レニエ(ダルデンヌ兄弟作品の常連俳優で、今回はシリルの父親役で登場。彼が脚光を浴びたのは15歳で出演した1996年のダルデンヌ兄弟監督作『イゴールの約束』で、この作品はカンヌで国際批評家連盟賞を受賞した)。授賞式で観衆に主役のトマ・ドレを紹介し、サマンサ役のセシル・ドゥ・フランスに謝意を伝えたジャン・ピエール&リュック・ダルデンヌ監督は、受賞者会見では「カンヌ映画祭に招待されただけでも素晴らしいのに、賞を頂けるなんて最高です」とコメント!

◆監督賞は、アメリカ映画『ドライヴ』を手掛けたデンマーク出身の鬼才ニコラス・ウィンディング・レフンが獲得!

 ジェイムズ・サリスの同名小説を映画化した『ドライヴ』は、ハリウッドの若手人気俳優ライアン・ゴスリングが、昼は映画のカースタントマン、夜は強盗の逃走を請負う運転手という2つの顔を持つ寡黙な凄腕ドライバーをクールに演じ、新境地を開拓したクライム・サスペンスの快作で、共演はキャリー・マリガン、ブライアン・クライトン、アルバート・ブルックス、オスカー・アイザック、クリスティナ・ヘンドリックス、ロン・パーマンら。そして、ライアン・ゴスリングに誘われて本作のメガフォンを取ったのが1970年生まれの鬼才監督ニコラス・ウィンディング・レフンだ。鮮やかな演出手腕を発揮した監督は、スタイリッシュで鮮烈な映像と音楽、そして衝撃的なバイオレンス描写で観客を魅了した。受賞者会見に主演俳優のライアン・ゴスリングを伴って登壇したニコラス・ウィンディング・レフン監督は、「パルムドールと同様、“監督賞”は監督の仕事を対象とした賞であるだけに、今回の受賞は僕に多くの可能性を与えてくれることでしょう」とコメント。さらには、本作の続編の構想があることや、今後もライアン・ゴスリングとタッグを組んでいくことも表明した。
(Report:Y. KIKKA)