『トリシュナ』のゲストをお迎えし記者会見が行なわれました。

■ 日時・場所 10月27日(木) 14:30〜 @ムービーカフェ
■ 登壇者 マイケル・ウィンターボトム(監督/脚本/プロデューサー)

マイケル・ウィンターボトム監督(以下「監督」):東京国際映画祭で私の作品を上映していただけることを大変嬉しく思っています。10年前に審査委員として参加させていただいて以来のこととなります。

Q: 3度目のトマス・ハーディの映画化ということですが、トマス・ハーディの魅力についてお話しください。
監督: 私は、トマス・ハーディの大ファンです。理由は二つあります。まず、彼は登場人物に対して非常に思いやりがあります。普通の人についてのストーリーであっても、王様や女王様の物語であるかのようにドラマチックで、悲劇や愛情がいっぱいつまった展開です。また、もっと大きな社会経済といったものを背景に、個人が社会の流れやイデオロギーに影響されている様子などを描いています。原作の主人公のテスの場合は、貧しい家庭に生まれ、少しは教育を受けているので両親よりはきちんとした英語を使うことができる女性。男性の女性に対する姿勢なども絡め、幅広い視点からこの女性が描かれています。

Q: 幅広いジャンルを扱っていらっしゃいますが、題材や原作を選ぶポイントは?
監督: ジャンルに関わらず、おもしろいと思えるテーマを選びます。映画作りは時間のかかるプロジェクトですから最後まで興味を持ち続けることができる内容であることが重要です。今回の作品の場合は、以前にインドのラジャスタンで撮影していた時に、そこの社会状況が、ハーディが「テス」で描いた世界にあまりにも似ていることに気付き、驚かされたことをきっかけにアイディアが生まれました。実際に撮影に入ったのは、それから9年も経ってからのことですけどね。アイディアはたくさんありますが、映画作りに至るものはその内のごくわずかであることも付け加えておきます。

Q: おもしろい題材や原作を選ぶコツは?
監督 特にコツや秘訣といったものはありません。実際に幅広いテーマを扱ってきましたし、それは良いことだと思います。これはいい映画になるとかならないとかといったルールはあってはならないと思います。スポンサーにだって、その映画が成功するかどうかなんてわかりません。映画作りの楽しさのひとつは、撮影過程の中でそういった発見があることです。作る前からどういった仕上がりになるかわかっていたら、その映画を作る意味がありません。他の人にとっても興味深いものになるのだと説得できるだけの、自分にとって興味が持てるものを見つけるまでです。
『トリシュナ』の場合もそうですが、撮影当初はストーリーの枠組みがあって、それを基準に役者とともにある意味即興で作り上げていく部分もありました。まずは、原作を脚色しました。それからラジャスタンやムンバイに行って、色々な人たちと会って話しを聞くなどリサーチを行い、そこで知り得たことによってシーン毎の脚本を作り修正を加えていきました。トリシュナとジェイ以外のほとんどの登場人物は、プロの俳優ではなく、一般の人にいつもの自分を演じてもらっています。

アイディアが出た当初は、キャスティングが上手く行かなかったこともあり映画化を断念したそうです。ところが最近になってフリーダ・ピントに出逢い、またリズ・アーメッドのことは少し前から知っていて、この二人がトリシュナ役とジェイ役にぴったりだと感じたことから9年前のアイディアを取り出して、改めて映画化に踏み切ったとのこと。つまり、この二人の役者ありきで制作が始まったわけです。

監督: フリーダは、撮影前から家族役の人々を尋ねて多くの時間を過ごして親しくなってくれたり、その土地の方言であるマラウィーを習得したり、それからダンスも一生懸命練習してくれました。率直で仕事がしやすい、素晴らしい女優です。