夫の浮気相手の青年、浮気相手を調査する探偵、探偵の恋人、次第に惹かれあっていく探偵と青年。現代の南京を舞台に、儚く漂う人々を描いた本作は、人間の根底にある孤独感と幸せを希求する姿をありありと映し出した鬼才ロウ・イエ監督のカンヌ映画祭脚本賞受賞作品。5年間の製作禁止令を受けながらもゲリラ的に撮影した本作は、孤独、哀しみ、欲望など複雑に絡み合う幾多の想いを映し出した愛の物語だ。

今回来日をはたしたロウ・イエは、2006年に公開した前作『天安門、恋人たち』で中国当局より5年の映画製作禁止を命じられたことについて、「前作では、1989年の天安門事件を描いたことと、
作中で性愛の描写が多かったことによって上映の許可が出なかった。しかし、愛は政治とは関係がなく、それを描かないわけにはいかなかった。国によって規制の対象は異なるし、例えばイランではイスラム圏独特の理由からある種の作品は禁止されることは理解できる。しかし、監督という職業を禁止されるということには、どうしても納得ができない」と自らが5年の禁止を待たずに本作の製作に踏み切った理由について言及した。

一時期、日本で流行した“婚活”について、「婚活という言葉とは別に、結婚をするというのは、社会が安定していくという枠組みを、結婚という制度によって作りたいというもの。それとは反対に、今回の作品に登場するそれぞれの人間関係は社会の安定からは程遠い、自由な愛を求めたものである」と語った。

最後に、今回の作品で描かれる人々の愛の形や生き方について、「登場人物たちは、自分の自由を求めて生きている。しかしその中で彼らの願いとはうらはらに、多くの試練にぶつかってしまう。自由を求め続けているが、自由というのは本当に探すのが難しい。なぜ難しいかというと、あるときは社会の縛りからくるものであり、あるときは自分自身から発生するものでもあるからだ。この映画を観てもらえれば、それが分かる」と締めくくった。