7月23日(金)から10日間にわたって埼玉県・川口市で開かれたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010 コンペティション部門の受賞結果が発表された。

【8月1日付デイリーニュース】
7月23日(金)から10日間にわたって開催されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010が8月1日(日)、閉幕した。

 「バンクーバー・オリンピックの82より多い、85の国と地域から過去最高の応募がありました。そんな選りすぐりの作品の審査はさぞ大変だったことでしょう。Dシネマ映画祭にかつて参加した監督は、その後もさまざまなところで活躍されているとうかがっています。多くのクリエイターが飛躍され、また映画祭が回を重ねるごとに大きく成長することを願ってやみません。本映画祭を成功に導いてくださった多くの方々に感謝します」という映画祭実行委員会会長である上田清司埼玉県知事の言葉で授賞式はスタート。

 まず短編部門(国内コンペティション)が発表され、最優秀作品賞のトロフィー、川口市民賞の副賞50万円とSKIPシティアワードが『隣人ルサンチマン』の檀拓磨監督へ、奨励賞のトロフィーと同副賞30万円が『家族デッキ』村田朋泰監督と『ゴリラの嘘』草刈勲監督へ贈られた。

 毎日、映画祭に通い、様々な国の映画を見て、その映画について友人と語るという至福の日々を過ごしたという草刈監督は「この賞に恥じないように頑張ります」とあいさつ。村田監督は「小津(安二郎)、(ビクトル・)エリセなど静かな映画に影響を受けた。大学に入ってヤン・シュヴァンクマイエルの作品を見て、アニメーションを始めました」。壇上に上がるや「緊張するなぁ」と小声でつぶやいた最優秀作品賞の檀監督は、「映画映像は言語を超えたコミュニケーションだと思っています。なにか伝わったとしたらこれ以上嬉しいことはありません」と語った。

 短編部門の審査にあたったのは、審査委員長の桝井省志プロデューサー、映画パーソナリティの襟川クロ、俳優で監督の佐野史郎。

 「私は監督でもありますが、今回は、いい監督はいないかという俳優の切実な気持ちを持って審査に臨みました(笑)」と語る佐野が選評を述べたのは、村田監督のアニメーション『家族デッキ』。「アニメーション部門ができてもいいと思うが、本作はそんなジャンルを超えた出来。また今年1月に、チェコのヤン・シュヴァンクマイエル、イジー・バルタの工房を訪ね、(クレイ)アニメーションの制作を目の当たりにしたことで、村田監督の作業がいかにすごいものかをうかがい知ることができました」と体験談も披露しつつ話した。『ゴリラの嘘』を選評した襟川は、「短編なのに長編を見たかのよう」と監督・脚本・出演の草刈に告げた。桝井審査委員長は檀監督の『隣人ルサンチマン』を、「映画にはテーマが必要だと思う。隣に住む幼児虐待の家族とのコミュニケーションという、現代のテーマを短い作品のなかで完結させた。グランプリにふさわしい、期待したい監督」と評し、短編部門の表彰を締めくくった。

 長編部門(国際コンペティション)では、最優秀作品賞のトロフィーとソニーDシネマアワード副賞300万円がジョルジョ・ディリッティ監督の『やがて来たる者』へ、監督賞のトロフィーと同副賞100万円が『透析』(原題)のリウ・ジエ監督へ、脚本賞のトロフィーと同副賞50万円が『鉄屑と海と子どもたち』(ラルストン・G・ホベル監督)へ、審査員特別賞のトロフィーと同副賞50万円が『テヘラン』 ナデール・T・ホマユン監督へ、SKIPシティアワードが完山京洪監督『seesaw』へと授与された。SKIPシティアワードの受賞者には、次回企画で彩の国ビジュアルプラザの映像制作支援施設や設備を一定期間利用できる権利が与えられる。

 「映画の持つ内容と技術に感心した」と審査員の一人、ロジャー・ガルシアから選評を受けたSKIPシティアワードの『seesaw』の完山監督は、「大きなスクリーンで2回上映できただけでも嬉しい。西田プロデューサーをはじめ一緒に戦ってくれたすべての方々に感謝します。重い賞ですが、皆で受け取るならちょうどいい」とコメント。

 受賞が告げられると、壇上に上がり、喜びの言葉を一気に述べた審査員特別賞『テヘラン』のホマユン監督が、「フランスで脚本を執筆、イランで撮影し、日本では賞を取ることができた『テヘラン』の冒険。2回とも最高の状態で行われた映画祭の上映では、観客の反応を見て、自分もまた考えさせられた。また日本人の人間性にも深い感銘を受けた。もっといい映画を撮ってSKIPシティに戻ってきたい」と語り終わるのを待ち、プロデューサーである冨永理生子審査員は、「テヘランという都会を舞台にしながら、ドラマや登場人物のキャラクターが国、宗教、文化を超えた普遍性を持っていた」と賞賛の言葉を贈った。

 「今日のフィリピンにおける貧困と魔法のような希望を示す、シンプルだけどとてもよくできている脚本」とガルシア審査員がコメントすると、会場から支持の拍手が沸き起こった脚本賞の『鉄屑と海と子どもたち』。ホベル監督は「アテンドの方のスケジュールが正確で、とても日本的だと思った」と日本滞在での小さな驚きを語りつつ、製作に尽力したアルマンド・ラオ、メル・チョンロ、ベシー・バディリアらに感謝の言葉を贈った。

 「この作品に関しては審査員の意見が一致した」と『HACHI 約束の犬』のプロデューサー、ヴィッキー・シゲクニ・ウォン審査員が評した監督賞『透析』(原題)のリウ・ジエ監督は、「来年、日本公開が決まりました。ぜひたくさんの方に来ていただき、私の配給会社を喜ばせたい」とPRまじりにコメント。

 「見終わったあとに純粋にいい映画だったと思った」と増田久雄国際審査委員長が語る最優秀作品賞『やがて来たる者』(原題)は、ジョルジョ・ディリッティ監督の代理でトロフィーを受け取ったプロデューサーのシモーネ・バキーニは、「44年にボローニャ近郊で起きたのと同じようなことが、残念ながら今もアフガニスタンやそのほかの国で起きている。この映画は、それらについて考える機会を与えられたのではないかと思う」と語った。

 増田審査委員長は総評で、『闇への一歩』と『テヘラン』は拮抗し、『やがて来たる者』は観客の評価も高かったこと、映画祭では評価されにくいファンタジー『マジックシルバー』の完成度が高く、映画市場の小さいノルウェーでこのような作品が作られていることにいたく感銘を受けたこと。日本の作品と海外の作品には、テクニック的に差があったことなどを述べた。

 「高性能のデジタル・プロジェクターと撮影機が登場したことで、眠っていた作品をスクリーンに届けることができるようになった。本映画祭がデジタル映画に特化してさらなる発展を遂げることを願っています」と瀧沢裕二ディレクター。

 映画祭実行委員会副委員長の岡村幸四郎川口市長は、「21世紀をけん引するデジタル映画産業の振興、そしてそれを活用する若手作家の育成のためにも、国家的使命を持って映画祭を続けていきたい。来年は8回目。10回はやりたいと思っていますし、そこまでやれば止められなくなる。来年もまたお会いしましょう」と結んだ。

 期間中、克己して審査に取り組んだ審査員、そして受賞者の言葉は饒舌で、授賞式は約2時間20分にもおよんだ。

 コンペティション部門受賞結果は以下の通り。

●長編部門(国際コンペティション)
 最優秀作品賞 『やがて来たる者』 ジョルジョ・ディリッティ監督
 監督賞 リウ・ジエ監督 『透析』(原題)
 脚本賞 『鉄屑と海と子どもたち』(ラルストン・G・ホベル監督)
 審査員特別賞 『テヘラン』 ナデール・T・ホマユン監督
 SKIPシティアワード 完山京洪監督 『seesaw』

●短編部門(国内コンペティション)
 最優秀作品賞 『隣人ルサンチマン』 檀拓磨監督
 奨励賞 『家族デッキ』 村田朋泰監督
     『ゴリラの嘘』 草刈勲監督

期間中の様子は、映画祭公式サイト(http://www.skipcity-dcf.jp)にデイリーニュースが毎日掲載されますので、どうぞご高覧下さい。