映画祭10日目の21日(金)。“コンペティション”部門の正式上映作品は、ラシッド・ブシャール監督の『アウトサイド・オブ・ザ・ロー』、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『ブンミおじさん』。
“ある視点”部門には、韓国の異才ホン・サンス監督の『Ha Ha Ha』が登場。また併行部門の“監督週間”ではクロージング作品が上映され、長編の受賞作品は明日の22日に上映される。

◆『アウトサイド・オブ・ザ・ロー』の上映に対して極右団体が抗議行動に出るとの情報で、突如、厳しくなったセキュリティー

 21日の朝から突如、セキュリティーが厳しくなった。今までは持ち込みオーケーだったペットボトルの飲み物類は有無を言わさず取り上げられ、バックの中身も入念にチェック。メイン会場近辺の路上には武装した警官隊の姿まで見受けられるモノモノしさ。聞くところによると、独立運動時代のアルジェリアとフランスの対立を描いた『アウトサイド・オブ・ザ・ロー』(上映は朝の8時半、15時、19時の3回)が、フランスで論議を呼んでおり、この作品の上映に対して極右団体が抗議行動に出る可能性があり、そのための警備強化ということだった。
『アウトサイド・オブ・ザ・ロー』は、2006年のカンヌ映画祭で5人の俳優たちが主演男優賞に輝いた第二次大戦映画『デイズ・オブ・グローリー』の主要キャストと監督が再び組んだ作品で、ジャメル・ドゥブーズ、ロシュディ・ゼム、サミ・ブアジラが演じるアルジェリア人3兄弟の目を通して1930年年代半ばから1962年の独立にいたるまでのアルジェリアの独立運動を描き出した歴史ドラマ。
 11半から行われた公式記者会見には、ラシッド・ブシャール監督と3兄弟役の俳優、母親役の女優が登壇。保守派政治家や在郷軍人などから「史実を歪曲しすぎている」と非難されていることについて問われた監督は、「非常に驚いている。映画は議論を始める契機となるものだが、それは冷静な環境下で行われるべきもの。植民地時代の過去は、今でも微妙な問題であることは意識しているが、作品を見てもいない人までもが過剰反応していることに驚きを隠せない」とコメント。アルジェリアでは、この作品が受け入れられたことを強調して言い添えた。

◆カンヌ市長がジャーナリストをランチに招待する恒例の“プレス・ランチ”が開催!

 今年も世界中から映画祭に集ったジャーナリストと、長編コンペティション部門の審査員たちをカンヌ市の市長がランチに招き、南仏の伝統料理でもてなす“プレス・ランチ”が開催された。会場は市内を一望できる旧市街地の高台にあるカストル博物館前の広場。毎年、地方色豊かな伝統衣装に身を包んだ市民が立ち並んで音楽を奏でる中、市長自らが参加者をお出迎えしてくれるアットホームな雰囲気の催しで、メイン料理はプロヴァンスの伝統料理。魚のタラとゆで野菜のアリオリ(ニンニクソース)添え。ロゼと赤のワインも飲み放題で、お土産として映画祭のラベルが張られた特製オリーヴ・オイルが配られる太っ腹なイベントだ。ハードスケジュールをこなさねばならぬ報道陣にとっては、一息つける楽しい場になっている。
 ところで、映画祭も終盤を迎え、賞レースの行方が取りざたされ始めた。毎年、映画祭期間中は日刊で映画祭の模様を伝える情報誌が幾つか発行される。英語版の「スクリーン」とフランス語版の「ル・フィルム・フランセ」が双璧だが、どちらも長編コンペティション部門作品の星取り評価表を掲載している。現時点で評価が高いのはマイク・リー監督の『アナザー・イヤー』とグザヴィエ・ボーヴォワ監督の『オブ・ゴッド・アンド・メン』。残念ながら北野武監督の『アウトレイジ』は、芳しくない評価を頂戴してしまった。ジャーナリストたちも参考にしている星取り表(両誌の評価は結構別れる)ではあるが、賞の行方は審査員のメンツ次第。この星取り評価表が受賞に反映されないことも多い。
 (記事構成:Y. KIKKA)