3月1日、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭の最後を飾る作品として、金子修介監督の『ばかもの』が登場した。
原作は、芥川賞作家の絲山秋子の小説『ばかもの』(新潮社刊)。この小説に惚れ込んだ脚本家・宮川一郎の一昨年12月の急逝を受け、映画化が実現。19歳の主人公と27歳の女性との出会いと別れ、再会という10年に及ぶ長い関係を通して、人間の脆さと家族や周囲の人々との絆を描いた作品だ。

「おかえりなさい」「ただいま!」の挨拶と共に登壇したのは、ゆうばり映画祭は共に5回目という金子監督と仁科貴。
平成『ガメラ』シリーズ、『デスノート』シリーズや『プライド』など話題作をコンスタントに撮り続けている金子監督は「『ばかもの』の監督、金子修介です」と語感のユニークさで会場を沸かせた。
「2001年以来9年ぶりですが、今年は雪が物足りないね。1991年の2回目に一緒に来た大林宣彦監督は、“雪も白くスクリーンも白く、その白いスクリーンに夢を映す映画は素晴らしい」って名言を残したけど、思いつかないですね。“寒い雪景色の中から一歩映画館に入ると熱い熱気がある映画祭”名言になるかな?」と映画祭に対する思いをアピールした。

仁科は「ゆうばり映画祭には、役者になろうと思っていない頃から来ていました。作品に出演しての登壇は初めてなので本当に嬉しいです」と顔をほころばせた。父親である川谷拓三と一緒に来場したのは1995年とのこと。「親父がビデオ部門の審査員で呼んでいただいて、オープニング作品だった金子監督の『ガメラ−大怪獣空中決戦』を一緒に観ました」と思い出を語れば、金子監督も「ミシェル・ヨーがゲストの一人で、後で「Congratulations!」って言われたんだよね(笑)」「スタンリー・トン監督もいらっしゃいましたよね」まさに多彩なゲストが訪れる映画祭ならでは。
『ガメラ』では、ゆうばり映画祭仲間と共にギャオスがアルタの上から出現するシーンのエキストラとして出演したという仁科。「ブルーレイで観ると確認できるかも(笑)」と金子監督。その現場にはいなかったが、当時の映画祭仲間には、現在ゆうばり映画祭の常連である中田圭監督(『乱暴者の世界』)や三宅隆太監督(『呪怨 白い老女』)がいた。仁科はその後、金子監督の『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』の出演を経て『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総進撃』ではメインのキャストを務めた。

今回の『ばかもの』で仁科が登場するのは後半の中華料理店のシーン。金子監督は「現場で山田洋次監督だったらどう撮るか考えながら演出しました」仁科は「ロケ先に『家族』と『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』のDVDを持参して明け方まで観てから撮影に臨んだんですが、あんまり関係なかったですね(笑)」
『ばかもの』上映後、再び金子監督と映画祭のプログラミングディレクターの塩田時敏が登壇。“映画祭の審査員を断られた”という塩田のコメントを受け、金子監督は「以前大変な事があって二度と嫌だと思った」と裏話を披露。
「2001年、ヤング・ファンタスティックグランプリ部門の審査に携わった時、『VERSUS —ヴァーサス—』に投票したのが僕一人。審査委員長の千葉真一さんは「命を大切にする映画を選びました」ってコメントするし(笑)僕が上映作品全体に向けて言った総評「映画は監督の力も大きいが俳優の力も大きい」がVERSUS軍団の誤解を招いて、「金子が反対して『VERSUS』が賞を逃した」と思われたらしいんだよ。晩の飲み会の席で主演の榊英雄監督に「どうして『VERSUS』がグランプリじゃないんですか」と詰め寄られてね(笑)」それをきっかけに榊監督と交流が出来、作品にも出演依頼する仲に。榊監督は『ばかもの』でも警官役で友情出演している。「だから審査員は勘弁して欲しかったんだけど、9年たっていいネタになりました(笑)」

金子監督は、『ばかもの』の原作の解釈については自分流で、他の監督が撮ればまた違った物語になっていただろうと語った。「原作には『長い間』としか書かれていないヒロイン不在の時間を、時代の移り変わりと共に俯瞰視的に“男の10年の物語”として描きました。そこが原作と齟齬にならないか気を配ったところです」

『ばかもの』の主演は成宮寛貴と内田有紀。それぞれ、酒に溺れ自堕落な生活の中もがく主人公と、奔放な行動で主人公を翻弄する年上の女性を熱演。仁科は人生が破綻した主人公の光明となる中華料理店の店主役。地に足を付けて生活する人間のしっかりとした存在感を好演して見せた。

昨年8月に湯布院映画祭で初のお披露目となった『ばかもの』。今回のゆうばり映画祭、4月の高崎映画祭での上映を経て、2010年公開予定となっている。

(Report:デューイ松田)