2009年7月13日、月曜日。
6月26日から台湾で開催されていた「2009台北電影節(台北フィルムフェスティバル)」で、12日にグランプリ含む四賞を受賞したばかりの『あなたなしでは生きていけない』が上映された。

本作は台湾の有名な俳優、レオン・ダイ監督の第2作目。
かつて実際に起きた事件をモデルにした、ある貧しい父親と娘の愛に溢れる物語である。
本作上映後、製作・脚本・主演(父役)を務めたチェン・ウェンピンが登壇すると、観客が歩み寄り、花束を手渡してグランプリ獲得を祝福していた。

Q:なぜ原題のタイトルはスペイン語なのでしょうか。また、物語で二人が暮らしている港の倉庫は本物でしょうか。

A:まず倉庫についてですが、実際に取り壊す予定の倉庫があり、それを使いました。
次に原題をスペイン語にした理由ですが、最初に英語のタイトルを考えても、良いものが思い浮かばなかったのです。英語で考えてみたタイトルは平凡で、ある曲のタイトルのようになってしまいます。
そこで、純粋なスペイン語ではなく、中南米で使われているスペイン語でタイトルをつけました。直訳すると「生きられない、あなたなしでは」になりますが、中国語で語ろうとしている意味に近かったのでこのタイトルに決めました。本作の雰囲気は中南米に近寄っていることもあるので、そのように決めました。

Q:ウェンピンさんが演じたウションが港で潜水するシーンや、ウェンピンさんが演じたバイクに重たい荷物と娘を後ろに乗せて走るシーンは、ご本人が演じていたのでしょうか。

A:はい、全て自分で演じました。予算が非常に少なく、他に潜水士を雇うお金がなかったのです。監督には「保険に入ってる?入ってるなら、どんどん潜って下さいね」と言われましたね(笑)。去年、台湾は8回も台風がきて、潜水シーンの撮影の時にはいつも台風が上陸していたので、大変苦労しました。2ヶ月かけて、満足いくシーンができました。

Q:倉庫などの暗い屋内と、屋外のシーンの撮影ではカメラを使い分けているのでしょうか。

A:はい、2台のカメラを使い分けています。実はカメラ担当の方は、出演もしています。私の仲間役も本当は監督であり、カメラマンでもある方なのです。予算が少ない関係で、私たちはお互いに、自分が出演しないシーンではカメラを回していました。本作では人物設定もそうですが、撮影中も貧しかったですね(笑)。

Q:2003年に起きた歩道橋の事件がヒントになっているそうですが、台湾の社会状況を教えて下さい。

A:主人公は高雄の出身ですが、南部は野党の勢力が強い地域なのです。社会の底辺で生活するような貧しい人々が多いです。また、台湾には様々なエスニックの集団が住んでいます。顔は同じなので見た目では分かりませんが、文化や言葉が違います。また、客家出身という人物設定ですが、客家の人々は、弱者と見られ、差別されることがあるのです。だから客家出身者は、身分を隠したがっていて、普通の人と話す場合や、自分の子供と話す場合も、客家語を話さないように控えています。
しかし近年は、エスニックの集団同士の対立はおさまりつつあり、自身のアイデンティティを主張するようになってきました。台詞の多くに客家語を用いているのは、「弱者たちにどんどん立ち上がってほしい」というメッセージを込めているからです。

Q:ご自身が主役を演じていますが、そのいきさつを教えて下さい。

A:2005年に書いた脚本を、レオン監督にお願いして読んでいただいたところ、「感動しました。私に監督させて下さい。主役はあなたにやってもらいますね」と言われました。当時は冗談だと思っていましたし、演技は初めてなので不安でしたが、プロデューサーの私は資金調達をしなければいけなかったので、「私が主役をやれば節約になる」という思いもありました(笑)。

2009台北電影節(台北フィルムフェスティバル)でグランプリを含む四賞を獲得したばかりの本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭で19日(日)14時から再び上映される。

(Report:今井理子)