2009年7月12日、日曜日。
『Lost Paradise in Tokyo』が上映され、本作の監督・白石和彌と、
特別ゲストとして、数々の名作を残してきた監督・行定勲が登壇した。

2人の出会いは、行定監督の作品であるテレビドラマ『カノン』で、初めて一緒に仕事をした7年前にさかのぼる。

Q:当時のお互いの印象等を教えて下さい。

行定監督:

以前から、白石監督と一緒に仕事をしてみたいと思っていたんです。実際に仕事をしてみて、とても助けられました。

白石監督:

行定監督との仕事は衝撃的でした。映像表現の可能性や、1カット1カットを豊かにしていくことを、1から色々と教えていただきました。私にとって行定監督は特別な存在です。現場では怖くなかったですね。たまに機嫌が悪いことはありましたが(笑)。

——本作について以下の質問も。

Q:本作を観て感じたことを教えて下さい。

行定監督:

凄く良かったです。白石がどんな映画を観てきて、思考して、どういう作品を作りたいかが感じら
れる、白石らしい作品だと思いました。弱者を描くというのは難しく、それだけの映画になってしまったり、下手すると“偽善”になってしまいますよね。また、地下アイドルやオタク文化というキャッチーなところだけをすくうと、嫌な話になってしまうこともあります。しかし本作は、彼らを演出しながら笑って見ている、応援していることが感じられます。まじめに生きている人の姿は全部滑稽だということを、白石も上からではなく、同じところから語っていると思いました。また、笑う余裕がなく、ゆっくり観てられないほど、緊張感がある展開で良かったです。

Q:本作の中で、知的障害のある兄が描く落書きは、モデルとなる絵があったのでしょうか。

白石監督:

はい、美術担当の今村力が探してきてくれました。実際にある施設で、作品中の兄のように、放っておくともの凄い量の絵を描いてしまう方がいました。そこではその紙を封筒にしたり、プレゼントしたりということをしていましたね。兄の落書きは7割がその方の絵をモデルにしていて、さらに本作のモチーフである“亀”等を2,3点追加したのです。

Q:素晴らしい演技をしていた<聡子>役の女優・内田慈について教えて下さい。

白石監督:

彼女は東京中心に小劇団で活躍している方です。お会いした瞬間に彼女で決まりだと思いました。風の噂ですが、行定監督も気に入っていると聞いたので、彼女を抜擢して間違いないと思いました(笑)。

行定監督:

はい、悔しかったですね〜(笑)。私は普段、映画より演劇を見る割合の方が多いので、彼女が脇役の頃から知っていました。私も彼女と一緒に仕事をしたいと思っていたのに、白石が先に主演に抜擢してしまったので、「もう使わない!」と彼女にも言いました(笑)。

Q:次回作についてお聞かせください。

白石監督:

まだ具体的ではありませんが、地方のシャッター商店街に生息する、高校生の男女を描いた作品を作りたいです。

(Report:今井理子)