7月28日に棚田の風景が美しい茨城県常陸太田市にてクランクイン、その後も暑さ厳しい茨城県内各地にて撮影を重ねてきた『ディア・ドクター』が、撮影後半、連日の雷雨に見舞われながらも、9月3日に予定通りクランクアップを迎えた。

水郡線の某駅にて夜20時過ぎ、鶴瓶さんが無事にクランクアップを迎えると、スタッフからの気合いのこもった歓声と通勤客やエキストラのケータイフラッシュに応え、鶴瓶さんも監督はじめ皆とハグしながら「ここで主役を演じた以上、次からは仕事を選びます」と気合の一言。普段は静かな駅が興奮の渦に包まれた。
初主演を無事に務め上げた鶴瓶さんと、都会からやってくる研修医を演じた瑛太さんのクランクアップコメントは以下の通り。

●笑福亭鶴瓶さんコメント
主役を演じるということは、こんなにもヤリガイがあって面白いことなんやという発見と、これほど責任重大でシンドイものなのかという思い。その両方を、ひしひしと感じましたよ。本当にいい経験をさせてもらったと思います。
クランクインする前、主演するからには絶対誰にも負けない──「この人を起用してよかったな」と思ってもらえるような主役になりたいという思いがあったんです。笑福亭鶴瓶という人間が全部消えて、「伊野治」という人物だけがスクリーンに映ってるようにしたかった。落語と同じですね。落語というのも、喋っているうちに噺家の存在は消えてしまう。消えながらも、精神は自分であるということですから。そういう瞬間は、今回の撮影中にありました。秘密を抱えた伊野が、若い研修医役の瑛太に思わず本音をぶっちゃけるところ、井川遙さん演じる女医さんとのやりとり。余貴美子さん演じる看護士の大竹と絡むシーンはものすごくボルテージが上がったし、あとはやっぱり物語の鍵を握る八千草薫さんとのシーン。それはもう、鶴瓶じゃなく、完全に伊野として存在できてた気がしますね。

西川美和監督は、非常にチャーミングな人です。撮影中、何か迷ったことがあったときは、じーっと監督の顔を見てたんです。そうすると安らぐというか。それくらい惚れ込んでるんでしょうね、監督としてですけどね(笑)。スタッフともみんな、仲間みたいになってしもてね。それが嬉しい。だからこそ僕らは、西川監督が一番いいようにしようと思うし。それが結果的には西川作品になっていくんやと思いますね。
いつも僕の仕事は、基本的に「笑福亭鶴瓶」単品でしょう。でも今回は、本当にいいチームで、いい出会いで仕事ができた。ここで出会った人たちとは今後もいろいろ付き合っていくんやろなという予感がする。いろんな映画を凌駕するような、すごい作品になってるような気がします(笑)。

●瑛太さんコメント
現場の空気が、とてもよかったんです。正直、最初はすごく緊張していたんですが、「ああ、いい現場だ」と感じられる瞬間が毎日あって、どんどん自分が馴染んでいけた実感がありました。
うまく言えませんが、鶴瓶さんは本当に鶴瓶さんでした(笑)。本番直前までずっとにこやかにされていてもカメラが回ると、すぐ伊野先生になる。そんな鶴瓶さんの周りにいると、どんどん鶴瓶さんのことを好きになっていっちゃうんですね。この物語に出てくる伊野先生も、きっとそういう人なんだと思うんですよ。真剣なのか適当なのか分からないところはあるけど、どうしてそこまで他人を受け入れられるんだろう、という懐の深さがあって。今回、撮影が進むにつれて僕の中で鶴瓶さんと「伊野治」という主人公が重なって見え始めた部分は、すごくありました。途中からは完璧一緒になってたかもしれない。
 
脚本を読んだ時、一つひとつの言葉に詰まってる思いみたいなものが凄く伝わってきたんです。どの言葉も全部、ちゃんと(自分が演じた)「相馬啓介」という人物が言ってることだなと、素直に納得できた。それは現場でもまったく同じでしたね。そんな脚本が書けてしまう人だと思うと、西川監督に対して怖さみたいなものも感じます。正直見た目は可愛らしい女性に見えてしまうので、またそのギャップもあって(笑)。
西川監督の作品は、すごく独特な視線があるような気がします。人間を凄く真っ直ぐ見据えてると同時に、思いきり真裏からも描いているというか…。他の人にはない「西川美和」という視線の角度が存在しているような印象があります。そういう角度から、相馬というキャラクターがどう切りとられ、どんな存在になっていくのか。ちょっと怖いけれども、とても仕上がりが楽しみなんです。
 これまで、自分が出演した作品を初めて観るときは自分の反省点ばかりだったので。『ディア・ドクター』が自分で「あ、いいな」と思える作品になればいいですね(笑)。