シカゴで働くロドスはイスタンブールに戻り、テレビ好きな製本業の父、猫を溺愛する母、家業を継ぐ兄とその家族と普通に暮らし始める。しかし、ある出来事をきっかけに平穏に見えた家族の歯車は狂いだし、衝撃的な結末が待ち受ける。本作上映後、監督のファティヒ・ハジオスマンオールが登壇し、Q&Aが行われた。

ファティヒ監督は「こんにちは。どうもありがとうございます」と日本語で挨拶。「誇張でもなく、本作を世界の様々な映画祭に応募した中でも“この映画祭に選ばれたい”と思っていたので、ノミネートの電話をもらった後に感激して泣いてしまった」と目を輝かせて語った。

Q:トルコでの映画制作に使われるフィルムとデジタルの比率はどのくらいですか?
A:おそらく50%ずつですが、デジタルでの撮影はますます増えていると言えますね。

Q:ロドスの父が本革での製本を頼みに来店した客に断る場面で“本革は扱っていない”と執拗にこだわっていた意味は?
A:映画の中で父が見た幼い子が馬の頭に銃を突きつける夢から、父は昔、馬を殺したのかもしれないということが考えられます。私たちは子供時代の経験から価値観が決まると思います。父もそうで、その出来事から自然や動物に敬意を払うようになったのでしょう。本作ではありきたりな表現を避けようと思い、私の周りの世界を観察してみると、比喩に満ちていると感じたので比喩による表現を心がけました。

Q:監督は今トルコに住んで映画制作をしているのでしょうか?
A:はい、今はトルコのイスタンブールに住んでいます。生まれも育ちもイスタンブールで二十歳の時にアメリカに渡り10年間暮らし、映画製作や舞台俳優などの芸術活動を行いました。ですからトルコに戻ってアメリカ人とトルコ人の眼差しを融合させて制作をしました。

Q:ロドスが自分のことを“南西の風”という台詞は、トルコを意識しているのですか?
A:トルコではロドスという名は珍しいですが、“南西の風”を意味するのです。

Q:登場人物の名前は文学作品に由来していますが、その背景は?
A:ロドスは先ほど言った通り“南西の風”を意味し、その“南西と正反対の風”を意味するポイラスを兄に名づけ、2人の対立関係を暗示させました。猫のハムレットは私がアメリカの大学で学んだシェイクスピアの作品から、鳥のシェヘラザードは東洋の物語中で最も知られたキャラクターの名前を付けました。トルコが西洋と東洋の交差点に位置し、双方からのルーツを持つという葛藤を描きたかったので、代表的でありきたりな名前を付けるという大きなリスクを犯してでも使おうと決めたのです。

Q:タイトルの『コンクリート・ピロウ』には何か暗示が秘められているのでは?
A:意味は“コンクリートの枕”です。私の父が貧しい地域から出てきたまだ子供の頃に建設現場で働いており、休憩時間にセメント・バッグを枕にして横になって休んでいたという話を聞きました。その話が私の中に強烈なイメージになっていたのです。またメタファーとしても重要で、コンクリートの枕では誰も快適に寝ることはできません。“人間は美しいものを見たがるが、世の中には悲劇もある”ということを現実的、哲学的に表現し、『コンクリート・ピロウ』の詩を語る場面には今でも世界は皆兄弟であるにも関わらず互いに苦しめあっている問題を解決したいという思いを込めました。

(Report:Masako Imai)