「誰も知らない」の是枝裕和監督の最新作『歩いても、歩いても』の完成披露試写会が3月6日、シネカノン有楽町1丁目で行われた。舞台挨拶では、是枝監督をはじめ、阿部寛、夏川結衣、YOU、高橋和也、田中祥平、寺嶋進、樹木希林が登壇し、作品に対するそれぞれの思い入れに撮影エピソードを交えながら語った。

撮影は昨年の夏、約40日間にわたって行われた。撮影のエピソードについて訊ねられると、YOUが「すごく楽しい夏休みの思い出だった。そうよね、お母さん?」と母親役の樹木希林に訊ねる。それに対して、樹木は無言で返すと、娘役のYOU口を尖らせながら、「そうだったでしょ?ね?」と念を押す。また「希林さんは日本で一番尊敬している女優さん。性格は恥ずかしがりやで、人当りは好くないけど、でも本当に優しいお母さんなんです。まさか映画で本当のお母さんみたいな存在ができるなんて思っていなかったです」とYOUが語ると、樹木は「だまされないように!!」と返す。そんな本物の母子のような二人の関係は会場の笑いを誘った。

原田芳雄は家族の中で居場所を探せない父役を演じるために、待ち時間は誰とも過ごさず、わざとみんなに溶け込まないようにしたという。「脚本の中でもたくましい女性達は、現場でもたくましかった。針のムシロ、座敷朗のようで、居場所がない。定年退職した後に飲み屋のつけが一気に来た気分で40日間を過ごした」と本当は寂しいのに、強がりを言ってしまうお父さんそのもののようなコメントを残した。

ホームドラマというテーマを扱った作品を撮るにあたって、どんなことに心がけたかという質問に、是枝監督は「今回の作品では、男性はみんな小さなことにこだわり、女性はすごく強い一方で、残酷にもなれる。自分の周りの人々をきちんと観察して、リアルな人間像、家族像を描いた物語をいつか撮ってみたいと思っていた。撮影はすごく楽しく過ぎていきました。映画を観てもらう前に自信作と言うのはどうなのかと思うけれど、ひとつも嘘をつくことなく作った映画、今後も自分で何度も見返す映画が作れたとは思う」と自信を持って強く語った。

阿部寛は「是枝監督は人間のリアルさを細かく描いた作品を作り上げたと思う。ある家族のたった1日という断片的な時間を描いた映画の撮影中だからなのか、実際にはどんな風に自分の家族と過ごしてきたのかなと思い出すことが多く、なつかしい心の思い出に入っていくような感覚を味わった。また今までの自分の作品では見られない顔をこの映画で見ることができた。」と

樹木希林は「この映画には子供が3人出演しているのだけれど、子供の演技をどう監督が動かしたかで、監督の力量と資質がよくわかります」と淡々と語った。

(Report:Nori KONDO)