10/28今回が第20回目となる東京国際映画祭がついに最終日を迎えた。前日に台風が関東に上陸し、天気が心配されたが、無事に台風も過ぎ去り、見事な快晴にめぐまれた。授賞式の前のレッドカーペットには、今回の映画祭にコンペティション部門で出品された映画の監督やキャストの面々が次々に登場し、場を沸かせた。

授賞式では、ジョン・カビラさんと久保純子さんが司会を務めるなか、各賞が発表された。

まず、第4回黒沢明賞に選ばれたのは、プロデューサーとして偉大な功績を残し、『小さな恋のメロディー』『炎のランナー』で知られるディビッド・パットナム氏。

ディビッド)「私が学生のころよく映画を見ていました。そして、黒澤監督の作品もたくさんみさせていただきました。黒澤監督は私にとってはまさに“巨人”であり、私なんかは足元にも及びません。そんな私がこのような賞をいただいていいものかと大変恐縮です。実は私は、黒澤監督と直接お会いする機会は一度しかなかったんです。その出会った場というのは葬儀の場で、たまたま監督のとなりに座ったんです。私はそのときどうしてもサインが欲しかったのですが、紙もペンももっていませんでした。なので、私は自分の持っていたハンカチを取り出し、たまたま後ろで口紅をもっていた女性がいたのでそれをお借りして、その口紅で、ハンカチにサインしていただいたんです。なので、うちには額縁にハンカチをいれて飾っています。最後に一言言って終わりたいのですが、私は10年前に映画から身を引きました。そして今は、教育に関わる仕事を多く行っており、ユニセフの会長も務めております。そして、近年学校を建てたのですが、その学校の壁には、マルクス=アウレリウスの言葉である“真実なければ口にするな、正しくなければ、行動にうつすな”という言葉が書かれています。わたしは、若い映画人たちに言いたいことがあります。今、映画は大変厳しい局面にあると思います。しかし、映画にはやはり、なんらかの方向性を示したり、何かを訴える力というものがあります。ですから、マルクスの言葉を少し変えさせていただいて、“真実でないならどうか口に出さないでください。そして、自分の思うことが正しいと信じられないのなら、そんな映画をつくらないでください”」

次に、日本映画ある視点部門特別賞に選ばれたのは『子猫の涙』。登壇したのは森岡利行監督。

森岡監督)「今回、初めて脚本を書きました。この映画のアイデアは以前、北野武監督からコメントをいただいたことがあり、そこから得ました。最後に、この作品を選んでくれた方がた、観客のみなさんに感謝いたします」

そして、ある視点部門作品賞は『実録・連合赤軍—あさま山荘への道程』。若松孝二監督が登壇した。

若松監督)「この問題というのは、当時日本の90%の人が釘付けになったものです。映画には時効がありません。だから、今から何十年かあとにもこの映画を見て、赤軍の真実とはなんなのか、なぜこの事件がおこったのか、ということが分かるんではないかと思うんです。この映画は、大変過酷な状況で撮影したので、じっと耐えてくれたキャスト・スタッフにはとても感謝しています」

次に、アジアの風部門から最優秀アジア映画賞は『シンガポール・ドリーム』。
今年は例年にも増して、アジアの風部門には多くの映画が集まっており、地域や文化の違いなど、映画の中にも地域の個性というものが光った。しかし、その中にも、ある種共通したテーマというものが見られ、それは、家族の問題であり、また女性の視点から描くという作品も多かった。その中でも、特に力づよさというものが感じられた『シンガポール・ドリーム』がみごと最優秀作品に選ばれた。ただ、他にも、『ダンシング・ベル』も審査員の評価は高かった様子。そして、もしアジアの風部門に主演女優賞があれば、『さくらんぼ 母の愛』に主演したミャオ・プゥさんに送りたいということであった。

最後はコンペティション部門。

まず観客賞に選ばれたのは、『リーロイ!』で、アルミン・フォルカ—ス監督をはじめ、5人の方々が登壇した。

アルミン監督)「この賞をいただけたことを、本当に名誉に思います。ドイツに帰ったら、きっと日本のみなさんが恋しくなってしまうと思います」

次に、最優秀芸術貢献賞に選ばれたのは、『ワルツ』で、サルバトーレ・マイラ監督はじめ三名が登壇。

サルバトーレ監督)「これは、私自身と映画に関わった人みんなに与えられた賞だと思います。このような実験的な作品が評価されたということは、市場を意識しない作品が承認されたということではないでしょうか。これからも、常に新しいことを探求していきたいです」

次に、最優秀主演男優賞は、『トリック』のダミアン・ウル君。今回は代理としてアンジェイ・ヤキモフスキ監督と美術監督が登壇した。

アンジェイ監督)「ダミアンがこのことを知ったらどれだけ高くジャンプするかはちょっと想像がつかないですね。今回ダミアンもつれてこようと思ったんですが、彼のお母さんに、“ちょっとは勉強もさせてください”といわれてしまい、つれてこれなかったんです。」

また、最優秀主演女優賞は、『ガンジー、わが父』のシェファリー・シャーさん。代理としてフェロス・アッバース・カーン監督が登壇した。

フェロス監督)「日本に来れるだけでも十分幸せなことなのに、このような賞までいただけて、ほんとうにうれしいです。この映画に関わった人みなさんに感謝申し上げます。」

次に、最優秀監督賞は『デンジャラス・パーキング』のピーター・ハウィット監督。ご本人が登壇した。

ピーター監督)「なんてことでしょう!さっき、私の作品は審査員のみなさんには好かれないかなぁという話をしていたところだったんです。30年間もこの仕事に関わって着ましたが、このような名誉にあずかることは初めての経験で、大変嬉しく思います。この映画には、キャスト・スタッフの方々には本当に安いギャラで協力してもらいました。とても感謝しています」

そして、審査員特別賞は、『思い出の西幹道』。リー・チーシアン監督はじめ3人の方々が登壇した。

リー監督)「まず、脚本家として、また妻として私を助けてくれた妻に感謝したいと思います。この映画の話は13年も前からしていたのですが、まさか13年後にこうして映画が完成するとは思ってもみませんでした。これは自分自身も巻き込まれた、中国が毎日変わっていく激動の時代の話です。本当に、映画化したかったので、それが叶ってうれしいです。どんなことでも思ったことはやり続けるということが大事なんですね」

最後は、東京サクラグランプリ。このグランプリを受賞したのは『迷子の警察音楽隊』。エラン・コリリン監督と主演のサッソン・ガーベイ氏が登壇した。

エラン監督)「何から言えばいいんでしょう。東京国際映画祭のみなさんは本当にワンダフルで、本当に感謝しています。またここに戻って来たいです」

サッソン氏)「私たちは日本に来るのは初めてなのですが、大変有意義な時間をすごすことができました。このような賞をいただくことができて本当にうれしいです。みなさんに感謝いたします」

第20回をむかえる今年の東京国際映画祭のコンペティション部門には668作品もの応募があり、その中から厳選された15作品が映画祭では上映された。そして、『迷子の警察音楽隊』のグランプリ受賞というかたちで幕を閉じた。

(Report:Kazuhiro TAKAHASHI)