第20回東京国際映画祭の「アジアの風」部門作品、『婚礼の前に』は、婚約者同士であるキルギスの山村出身でパリに暮らすアイダルと、フランス人のイザベルが彼の故郷に戻るところから始まる異文化間の葛藤を描いた作品である。
製作国は、ロシア、キルギス、フランス、ドイツと多くの国が並んでいることにも注目である。
ティーチインには、キルギス出身で今作が初の長編作品となる監督のヌルベク・エゲン、モスクワ出身であるプロデューサーのエヴゲーニヤ・チルダートワが登壇、映画上映後に観客からの質問に応じた。
普段、私たちにはあまり馴染みの少ないと言えるキルギスを舞台にした映画とだけあり、ストーリーに関したものからキルギスの風習に関してまで広い質問が寄せられた。

【Q&A】

Q:物語のアイディアはどこから?
ヌルベク・エゲン監督「私はかつてロシアの映画学校に通っていて、映画の歴史を学ぶ中で特にフランス映画に惹かれたので、映画の中に外国人を登場させようと思った時に当然フランス人となりました。プロデューサーとは大学時代からの友人で、フランス人を登場させる事を手助けしてくれました。」

Q:製作国はヨーロッパが並んでいますね。
エヴゲーニヤ・チルダートワ(プロデューサー)「監督とは昔からの知り合いで、私の娘と同じ敷地内で勉強していたのです。彼の作った短編を観て面白いと思い、今回本格的なものを作ると聞いたので製作を手伝いました。シナリオを書いたのは私の娘なのです。私は娘と一緒に脚本を書いただけではなく、自分の立場を求めたり、異文化衝突という現代的テーマが気に入ったのです。そしてそれに共感したフランス、ドイツのプロデューサーが協力してくれました。」

Q:ラストシーンが印象的でしたが、村に残らずパリで二人で暮らすというのは村に残って暮らす事がリアルではないと考えたからなのでしょうか?
ヌルベク・エゲン監督「これは特にキルギスの観客に考えて欲しいのですが、現在キルギスは4人に1人が外国に出ている状態なのです。果たしてこういう事でいいのだろうか、という疑問を投げかけたかったのです。」

Q:キルギスの村の人々は、プロの役者は何割いたのでしょうか?
ヌルベク・エゲン監督「プロの俳優が3割、実際にそこに住んでいる人が7割です。」

Q:「新郎が誘拐されたら結婚するかもしれない」というセリフは、どのような意味ですか?
ヌルベク・エゲン監督「我々の伝統あるいは哲学に基づいたもので、20世紀まで結婚は親が決めるものでした。恋やロマンスは存在せず、話がつかない場合は誘拐という形で結婚を決めたのです。」

監督は、「キルギスではないところで公開するのが、とても不安だったが皆さんがこの映画の事を理解してくれて、俳優も気に入ってくれたという事がわかったので嬉しいです。キルギスは非常に美しい国なので、是非いらして下さい。」と、プロデューサーは「キルギスの才能を紹介する場を与えて頂きありがたく思います。」と上映の喜びを述べた。

美しいキルギスの風景、風習と異文化との相互理解の難しさ、自分の居場所など様々な事を考えさせられ、貴重な作品である。

(池田祐里枝)