1988年の初公開以降、20年ちかくもの間熱狂的なファンの支持によって上映されつづけてきた、ジャパニーズ・カルトムービーの草分け的作品『追悼のざわめき』。
美しいマネキンとの家庭を夢見る主人公をはじめ、小人症の兄妹、女性の股に似た木片を愛する乞食、妹の死体を喰う兄といったどこか疎外され孤独やコンプレックスを抱えている登場人物たちが、大阪のもっともアンタッチャブルな地域・釜が崎を舞台にうごめき、どこかに存在する愛を求めて破滅へと彷徨ってゆく姿が描かれ、画面を横行する猟奇的で暴力的な表層は、大きく物議を醸し映画ファンに大きなショックを与えた。
長きにわたって作品を上映してきた中野武蔵野ホールの閉館から3年を経て、デジタルリマスター版で復活した。

9月1日の公開初日、シアター・イメージ・フォーラムの前には中野武蔵野ホールでの上映時を彷彿とさせる開場を待つ観客の列ができていた。劇場内の通路にも人が座り込み、多数が立ち見の満員状態なか行われた舞台挨拶には、監督の松井良彦、主演の佐野和宏、仲井まみ子、製作の安岡卓治が登壇した。

今回のデジタルリマスター版の作品について松井監督は、「観た後に、オリジナルとはまた違った感慨が訪れると思います。人間描写の面でもオリジナルではできなかったことが、今回実現できたと思います。」と述べ、新たに書き下ろした楽曲を提供した音楽の上田現に感謝の意を述べた。

役者であり、ピンク映画の監督としてもピンク四天王に数えられる佐野和宏は若き日の自身が主演した本作について「上映があると毎回こんなにお客さんがたくさん来てくれて本当に嬉しい。この作品に出れたことを誇りに思っている。」と感慨深げに語り、「撮影現場も普通の映画ではいかないような場所で撮ったり、ゲリラ撮影もあったりと常に緊張感が漂っていた」と当時を振り返る。

また、佐野扮する青年に惹かれる小人症の女を演じた仲井まみ子も、制作当時の熱気を帯びた現場の魔力に魅了された一人。撮影現場を見学に行き、試行錯誤を重ねながらスタッフ一同が創作への思いをぶつけあってるのを目の当たりにして出演を決めたのだという。「出演を依頼されたけど断るつもりだったのに、不思議にひきつけられてしまった。シナリオを読んで自分の中の何かが変わった感じがしました。最後、撮影が終わってしまうのがとってもさみしかったですね」となつかしげに語る。「この作品に出演したことで私の人生が大きく変わったことがうれしかった」とキラキラした笑顔を見せた。

松井監督をはじめ多くのスタッフと疾走を続けてきた製作の安岡卓治の、「すごく不遜なことなんですが当時は「映画のためだったら何をしてもいいんだ!」と思っていました。」という言葉も深く印象的に響き渡る。「スタッフ、キャスト、監督を含めこの作品がそれぞれに与えている意味は大きいと本日改めて痛切に感じています。こういう映画がまた自分たちに作れるのだろうか?自分を問う思いは未だに続いています。この作品を超えられるものをという挑戦は続いています。」と語った。

20年もの歳月を超えて、変わってしまったものと変わらないものがここにはある。この世界を突き抜けようと、なにかを掴もうと必死になって、表現をつづけるその思いは変わらない。この作品を自分たちの誇りとして胸に抱えて、なお新しい世界へと目を向けている彼らの表情はたまらなく晴れ晴れしく、美しかった。

(Report:綿野かおり)