20世紀を代表する思想家、ジョルジュ・バタイユの遺作「聖なる神」を映画化した『ジョルジュ・バタイユ ママン』が7月15日より銀座テアトルシネマにて公開される。これに先駆けて、主演のイザベル・ユペールが来日。日仏学院で行われた試写会で、日本が誇る鬼才・黒沢清監督とのトークショーが行われた。

作品を観終えたばかりの観客達に「難しい映画だということは分かっています。次はコメディに出ようと思います(笑)」と挨拶したイザベル・ユペール。以前からイザベル・ユペールに敬愛の想いを寄せているという黒沢監督は「ユペールさんは、ゴダール監督の『パッション』『勝手に逃げろ/人生』、シャブロル監督の『主婦マリーがしたこと』など、80年代のゴダール、シャブロルの新作を観られるようになったきっかけとなる存在で、ヌーヴェルヴァーグを担った一人。どこかをじっと見ていて、その後ふと別のものを見る瞬間は何度見てもゾクっとします。この眼差しで何を見ているのか、何を伝えようとしているのか、と魅了されているうちに最後まで観てしまう。その謎にひたり続けています。」
また、ユペールは黒沢の作品について「非常に想像力のあふれる独特の空想の世界を持っており、おとぎの国のようなオリジナリティーと現代的な面白い世界観を持ち合わせていると思います」と語った。

黒沢「今までの作品では、他人と打ち解けず、他の人たちとは違う方向を向いて、ぽつんと一人でいる印象でした。でもこの『ジョルジュ・バタイユ ママン』では、初めて人の中に溶け合おうとする姿を観た気がします。といっても俄然積極的ではなく、周りの人達に影響を与え、変質させる。でも、彼女独特の眼差しは変わらず、今まで通りの部分も観れると思います。」
ユペール「私はこの撮影の時は、炎のようにゆれる人物を想像していました。他人が触ると火傷してしまい、自らも燃えに燃えて、最後には消えてゆく。人物の存在は周囲の眼差しによって有り様が決まります。それが悲劇であり、根本となる。それは、俳優が色々な役を演じる時の存在に共通するものだと思います。」

黒沢「撮影は、カナリア諸島で行われていますが、ここはどういう場所なのでしょうか。」
ユペール「当時と現在では見方が異なると思いますが、現在はセックスが観光化している場所で、ここで撮影したのは正解だと思います。若い男の子がうろついている場面は演出ではなく実際のものです。」

黒沢「俳優にとっては、場所が変わると動きも感覚も違ってくると思いますが、ユペールさんは様々な国で撮影してきて、状況そのものの変化は感じますか。」
ユペール「演技には影響はありませんが、俳優として別の場所で撮影することによって、メタファーが強調される感じがします。それと、知らない地に行くと、集中力が高まります。映画というのは光と影から成り立っていると思いますが、場所が違うと光も変わります。その光の違いというものは敏感に感じています。」

黒沢「今まで巨匠といわれる監督の作品に出演してきましたが、今回はほぼ新人監督。如何でしたか。」
ユペール「監督の良さと、撮った映画の本数というのは関係ないと思います。それぞれの監督に言語というものを感じます。すべてのものを駆使して求めるものを作るのが監督。オーソン・ウェルズは25歳で『市民ケーン』を撮り、これには彼の思いが凝縮していると思います。なので監督の経験の多い少ないというのは問題ではないのではないでしょうか。バタイユは独特の世界をもち、特異な地位を与えられた大作家。このような原作を映画化したことは大きな賭けだったと思います。」

黒沢「炎をイメージしたということですが、他の作品の時もイメージをおいているのでしょうか。」
ユーペール「いつもキーワードがあるわけではありません。創造の世界の栄養となる、それぞれの役柄を描くためのヴィジョンはあります。でもそれは夢のように、はっきりイメージが残っていても、言葉では説明しにくいぼんやりとしたものであることもあります。」

トークショーではすっかりイザベル・ユペールのいちファンとしての顔を見せた黒沢監督。
ユペールのようにありたい、という思いを込めて描いたという主人公(中谷美紀)が登場する新作『LOFT』は今秋公開予定。
(t.suzuki)