5月20日、南の島に燃え尽きた一人の画家の生涯を描いた『アダン』の初日舞台挨拶が東京都写真美術館ホールにて行われた。

幼少の頃から絵の天才として期待されながら、画壇から遠くに身を置き、信じる道をひたすらつき進んだ孤高の画家・田中一村。昭和33年、50歳で奄美大島に渡った一村は、極彩色の自然に包まれて、画家として最高の最後の一枚を描こうと決意する……

主人公田中一村を演じたのは、自らも画家として活躍し、一村役を誰にも渡したくないと思っていたという榎木孝明。
「俳優をやっていて、やりたい役をやれるということはなかなかない。最高の仕事が出来たと思っています。今でも撮影中のことを思うと、夢の中の楽しい出来事だったように感じます」。
一村を側で支える姉・喜美子役の古手川裕子は「はじめは、榎木さんより年下なのになんで姉役なのかと思いましたが(笑)、画面を観ると、“私老けてるわ”と思いました。(笑)本当はもっと奄美大島での姉弟の関係が描かれていたのですが、半分位カットされていまいした。また機会があればカットしたシーンを全部入れて観て貰える機会があればと思います(笑)」
一村の幻影として現れる野性の少女アダン役は、3.074人の一般公募から選ばれた新人・木村文乃。アダンと似ている部分はとの問いには「アダンは普段も私の中にいます。ただスクリーンを通さないと見えないだけです」と答えた。
公開初日を迎え、感無量だという五十嵐監督。撮影時は金属のシャッターが飛ぶほど激しい台風で苦労したとのこと。
田中一村の映画の話は、榎木から持ちかけられた。「榎木さんの思いがここまで来させたのだと思います。撮影中、榎木さんが役作りで15キロ痩せましたが、その変化する様子はドキュメンタリーを撮っているようでした。人の思いがこうやって作品になるのだと感じました」
撮影現場では監督にカチンとくることも多かったという榎木。闘鶏のしゃもを描くシーンでは、「しゃもになれ!」と監督に言われ続けたという。「しゃも踊りをすることも突然言われました」。それを聞いた監督は「鈍感なので、カチンとこられていたとは思っていませんでした。ただ、お互いぶつかりながら良い形が出来上がればよいと思います。怒らせたことは反省しています。すみません。」というやりとりに、会場は笑いに包まれた。
(t.suzuki)