3月3日(金)映画『美しき運命の傷痕』のプロモーションの為、主演のエマニュエル・ベアールとダニス・タノヴィッチ監督が来日し、都内で記者会見を行なった。

本作は『トリコロール』シリーズや『ふたりのベロニカ』の巨匠キェシロフスキの遺稿を映画化したもの。三姉妹と、その母の激しくも美しい、愛と再生の物語を描いている。

初めてのダニス監督との仕事はどうでしたか?
ベアール:「非常に俳優が好きな監督だと思います。テーマが案じているように本作は難しく、苦しみの中で鋭く描いた作品です。監督は苦痛を伴うような女性を演じる私達にユーモアや笑いや命を与えてくれ、叙情的で詩的、そして画家的な感性を持って撮ってくださいました。また、俳優に全幅の信頼をおいてくださっていて、それによって勇気をもらい、新たな才能に気づくこともできました。」

本作は男性の監督によって撮られたとは思えないくらい女性をじっくりと描いていますが、女優さんに特別なアドバイスなどはされたのですか?
監督:「前作の『ノー・マンズ・ランド』とは違うタイプの映画ですが、新しい世界に足を運べるというのが映画づくりの醍醐味だと思っています。また、女性も男性も人であるのは変わりなく、感情や物事に対する反応は多かれ少なかれ同じです。前回もそうでしたが、力量のある良質な俳優さんと仕事をしている時は見ていればいいだけなんです。私は出演してもらう俳優を決める時、その方がどういう人間なのかを見るようにしているのですが、ベアールのような情熱的な方は見たことがないです。」

ご自分の存在についてどのように考えていますか?
ベアール:「私にとって映画は”生”そのもので、たくさんの愛情を持って続けています。自分という存在がいかに地に付いて作品に生かされているかが大事だと思っています。演じる時は、作風やキャラクター、どういうゾーンのストーリーかを追求していくのですが、物語の中でキャラクターがそうなれと望んでいるからできるものなのです。また、映画というものはチームがあってこそできるものです。これからも新しい作品が始まるごとに旅に出て、同じ宗教や文化の中に身を置いて作品を作り続けると思います。」

キュシロフスキの遺稿ということでプレッシャーは感じましたか?
監督:「全くなかったですね。映画作りは、私にとって楽しいものです。キツければキツい程、おもしろみが増します。今回は女性真理に迫っている脚本で驚きましたが、自分が書かない真逆のものだったから興味がわきました。実際にお会いしたことはないのですが、彼の作品は観ていますし、彼が残した「自分はアーティストではない。答えをもっているわけではない。問いかけをしていくのだ。」という言葉は特に私の糧になっています。」

ベアール:「生前お会いする機会はなかったです。でもシナリオを読むと、俳優として演りたいという衝動に駆られます。作品を作るというのは長い道のりで、命を与え、音を与え、肉付けしていきます。シナリオの構造はしっかりしていますが、それだけでは作品にはなりません。なので、この作品に関してはダニス監督の作品だと思っています。」

3姉妹を描くにあたって、こだわった演出はありますか?
監督:「観客が様々に受け取れるようになっていると思います。私にも3人の子供がいますが、同じ育て方をしても性格が全然違います。血はつながっていても、人それぞれ個性は違うんです。差があるからこそ美しいんです。それを伝えたかった。また、それぞれ色をつけたのですが、ベアールは情熱の赤しか考えられなかった。色をつけたのは、物語が求めたからとしか言いようがないです。」

今回、この作品を出演作に選んだ理由は何ですか?
ベアール:「作品そのものの前に監督の目に惹かれ、そしてストーリーやキャラクターに少しずつ惹かれていきました。一番感動したのは、女性の運命が描かれているところです。いろいろな感情の起伏を経て、再会するまでにいたるまでの感情の動きが細やかなんです。結果的には作品そのものに惹かれたと言えますね。」

(umemoto)

□4月8日(土)よりBunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマにてロードショー!!他全国順次公開
『美しき運命の傷痕 』