今年度ベネチア国際映画祭にてオープニング上映をはたし、中国全土で絶賛の嵐を巻き起こした武侠映画の超大作『セブンソード』が10月1日、早くも全国公開される。

武侠映画の第一人者であるツイ・ハーク監督が今作で取り上げたのは“七本の剣”のもとに集まった『セブンソード』と呼ばれる剣者たちの英雄伝説。生身の武術にこだわった本格アクション映画。剣士たちのドラマが剣と一体になって描きだされていく絶妙なストーリー、妥協をゆるさない監督が作り出す映像など、さまざまな魅力のつまったこれまでに無い武侠エンターテイメントに仕上がっている。主演は香港四天王の一人として絶大な人気を誇る『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』のレオン・ライ、マーシャルアーツの第一人者として世界に名を馳せる『HERO』のドニー・イェン、そして『天使の涙』の実力派女優チャーリー・ヤン。

作品の公開を目前とし、9月27日都内にて来日記者会見が行われ、監督のツイ・ハーク、主演のドニー・イェン、プロデューサーのナンスン・シー、音楽を担当した川井憲次が大勢のマスコミ関係者の前に姿を現した。

— 今回、山奥での過酷な環境下のもと撮影に望まれましたが、一番苦労されたのはどんな事ですか

監督:何ヶ月も前に撮影を終えたので大変だった事も今では思い出となっていますが、現地では気温が低く空気も薄かった為、くしゃみができない、大声で話せない、走れないなど、普段のありがちな行為がすべて禁止されていたので大変でした。

ドニー:監督の言われたとおり、撮影現場の環境にも苦労しましたが、それ以上に監督と仕事をする事が大変でした。ツイ・ハーク監督とご一緒するのはこれで4度目ですが、とにかく彼は常に進歩、革新を目指しており、俳優にも高いレベルのものを求めるので、その期待に応えられるか大きなプレッシャーでした。

— 日本では大作映画の音楽を多く手がけられていますが、今回の映画ではどのように取り組まれましたか

川井:今まではホラー映画を担当することが多かったので初めての本格アクション映画の世界をどのように表現すべきか、と随分悩みました。本作は2時間半と長いうえに、アクションシーンの曲は作るのに時間が掛かるので、期限の直前まで作っていました。

— 川井さんの作られた音楽についての感想

監督:前から川井さんの作品を聞いていていつか一緒に仕事をしたいと思っていたので、この映画を撮ることになった時、彼に頼もうと思いました。周りからは中国映画や武侠映画の音楽を作った事もない人になぜ頼むのかと不思議がられましたが、彼の音楽はとてもロマンチックで、他の人には無いスタイルを持っているので、今までに無い新しい武侠映画を作ろうという私の考えにぴったり当てはまりました。

ドニー:とても気に入っています。監督は音楽にも造詣が深く、先程言ったように相手に求める基準が非常に高いので、彼から指名を受けた事からして光栄だと思いますが、それに見事に応えたものができあがったと思います。

— 『グリーンデスティニー』のヒット以降、武侠映画が世界で認められるようになりましたが、武侠の世界に詳しい人と、まったく知らない人に向けて作る映画に違いはありますか

監督:武侠小説を読んだ事がある人にとっては映画の背景にある事柄を理解してもらい易いとは思いますが、映画は独立したものなので小説に頼ることはできないと思います。ただ、アン・リー監督の『グリーン・デスティニー』が世界で認められた事によって武侠映画のマーケットが確立された事はとても嬉しいですし、アジア映画にとっても大きな力になったと思います。

— キャスティングについて

監督:俳優を選ぶ時に2つ注意した点があって、1つは主観的に自分がその人を好きか嫌いか、役柄に相応しいかどうかという事。もう一つは今まで作られてきた武侠映画に登場したことがない人物像を出したかったので、それまでやってきた役柄とまったく違う物をスクリーンに出せるかどうかという事です。

ナンスン:普段スクリプトが出来上がって俳優に役をお願いすると、たいてい他の役の方が自分にあっているというような事を言われますが、今回は一度もそのような事が起きなかったので、その配役に相応しい人物を選べたのだと思います。

— 七本ある剣の中でドニーさんの持っている剣が一番重そうに見えましたが、苦労などはありましたか

トニー:監督は大変な完璧主義者でリアリズムを追求されるので本物の剣を使いたがり、その上その剣を正確なスピードで振り回さなくてはならなかったので、とても苦労しました。ですが、自分の武侠技術を信頼して任せてくれたので、役づくりに集中することができました。

— この作品は黒澤明監督へのオマージュと言われていますが…

監督:今、私が映画に携わっているのは黒澤明監督の影響が大きいです。
15歳の時に初めて彼の作品を見てアジア映画でも世界の人に観てもらえるんだと知り、最初の作品を撮るきっかけになりました。本作を通して彼への敬意を表す事ができたのなら、うれしいです。

「ドニーと韓国美女を演じるキム・ソヨンのシーンを撮る時、ドニーは韓国語が話せないから、キムの顔にカンニングペーパーを貼り付けてそれを見ながら喋っていたのよ!」とナンスンから暴露されて照れ笑いをするドニー。
それとは対照的に一つ一つ言葉を選びながら、真剣に答えるツイ・ハーク監督から作品に対する真摯な想いが感じられた会見であった。

(小林えりか)

☆2005年10月1日渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー

◇作品紹介
『セブンソード』