先日、あの日本を代表するフォークシンガー高田渡の突然の訃報が届いた。それはまさに高田渡が愛した吉祥寺で、自身を題材としたドキュメンタリー・フィルム『タカダワタル的』が凱旋上映されるというタイミングであったからなおさらその驚きの声は広がった。

映画と共に高田渡と日本中を行き、そして今となっては貴重な生前の数年間、多くの時間を彼と共にしたタナダユキ監督そしてプロデューサーの土本貴生氏が、吉祥寺バウスシアターでの舞台挨拶に登壇した。途中、中川五郎氏がぶらりときて映画を観たということで急遽挨拶を行い、さながらタカダワタルとの思い出や彼の死について語り合う夕べとなったのであった。

◆タナダ監督
「今日は本当に渡さんはいらっしゃらない予定で、でも当日になったらいせやに3時から5時ごと出没するので会いたい人はここに行って下さい、と言おうと思っていたのですが随分遠いところに行ってしまったな、と思います。小金井で行われた送る会でも渡さんがどこかにいるようなあったかい雰囲気がありました。映画について渡さんは「こういう映画があってもいいんじゃない?」と言っていました。「こういう人が生きているというので観た人が勇気がわくんじゃないか?と言っていました。私たちスタッフは2、3年の付き合いですが渡さんと出会えてみんな大好きになりました。ほんとうにみんな幸せでした。」

◆土本P
「スタッフは時間がなかったのでとりあえず泊まりにいけ、ということになって夜中の1時、2時に(高田渡さんの家)に行き、宴会を始めてそれから撮影に入りました。それでも渡さんは5時ごろ起きて焼酎の牛乳割を飲んでいましたね。(笑)まぁいつも飲んでいるわけではなかったのですが。DVDも出ることになったのですが、遺言で渡さんは入院して点滴をして主治医と面白い話をしているシーンをDVDに入れろと言っていました。」

◆中川五郎氏
「映画を観るのはつらいと思っていたのですが、上映後の舞台挨拶であることを知らずに最後まで観ることになりました。35年の付き合いがあり、亡くなってから丁度2週間経ち、いろいろな人と語り合ってたくさんの人に声をかけたりして送る会できている人の顔を観ると、彼へのありがとうという気持ちが伝わり、随分救われた思いがしました。渡さんは僕達みんなの宝物だと思います。」

劇場は、高田渡という1人の伝説となったフォークシンガーを通して老若男女年齢も関係なく会場を埋め尽くした観客達の想いが一つになったような、ほんとうにおだやかであたたかい雰囲気に包まれていた。それはまるで彼の死を嘆き悲しむことよりも、タカダワタル自身が、はははと笑って天国へ送ってほしいのではないか?そんな彼のファンなら誰しも思うだろう共通の想いがそこにあったからなのかもしれない。そしてそのタカダワタルも、いつものようにぶらりと一杯やりながら吉祥寺に来ていたのかもしれないが・・。数年来にない感動的な舞台挨拶であった。

(Yuko Ozawa)