ファーストフードを1日3食1ケ月間食べ続けると、人間に何が起きるのか!?肥満の増大が深刻な社会問題となっている昨今、そんなバカバカしくも、実は笑ってなどはいられない実験に、身体をはって挑んだ男がいる。彼の名は、モーガン・スパーロック。CM、MTV、企業映像作品などで注目を集める新進映像作家だ。そんな彼が、初監督、プロデュース、そして自ら禁断!?の実験者を務めた衝(笑)撃のドキュメンタリーが、『スーパーサイズ・ミー』だ。2001年のサンダンス映画祭では大きな反響を巻き起こし、モーガンは、見事最優秀監督賞を受賞。アメリカでは限定公開ながらも、ベスト10入りのスマッシュヒットを記録し、その波は世界各国に広がろうとしている。12月25日からのロードショー公開を前に、本作の立役者モーガン・スパーロックと、彼の恋人であり実験後自ら考案した特別料理と献身でカロリーに蝕み尽くされたモーガンの身体を回復させたベジタリアン・シェフのアレキサンドラ・ジェイミソンが来日し、外苑前のOFFICEにて記者会見を開催、また実際にアレキサンドラが作ったレシピに基づく減量メニューも振舞われた。会場に現れたモーガンは、その場を埋め尽くすマスコミ関係者を前に「もう一部屋必要だね」と満面の笑みを浮かべた。以下、事実は小説よりも奇なりをまさに体現してみせた作品の裏側について、二人が語ったことをレポートしよう。

Q.この作品を作ろうと思ったきっかけは?
モーガン・スパーロック(以下モーガン)——アイデアを得たのは2000年の感謝祭の時に遡る。僕は実家で母が作った手作り料理を腹いっぱい食べ、カウチで寛いでいたんだけど、その時にテレビでマクドナルドを訴えた二人の少女のニュースが流れてたんだ。そこにマックのスポークスマンが登場し、「少女たちの肥満・病気は我々の製品とは全く関係が無い。我々の製品は、ヘルシーかつ栄養価が高い」と言ったんだよ。それでだったら、30日毎日食べたって何の副作用もない筈だと思い、アレキサンドラ(以下アレックス)にこのアイデアを話したんだけど、彼女は喜んでくれんくてね(笑)。

Q.モーガンから、それを聞いた時にアレックスはどう思ったの?
アレックス——もう絶対止めて、駄目よ!って即座に答えたわ。その時は、もしかしたら自分でもちょっと過激な反応なのかなと思ったけど、結果的には私の懸念は全て当ってしまったのよ。

Q.何故監督自らが被験者になることにしたの?
モーガン——これには三つの理由があるんだ。まず最初に、自分でやりたくないことを人に頼んでやらせるのは厭だったんだ。それと僕は、何年間もESCNやFOXスポーツでスポーツの実況中継をしてきた経験があって、カメラの前で話すことは職業だったんだよ。だからわざわざお金を払って、誰かを雇う気は全くなかったんだ。そして3点目、これが最も大きな理由なんだけど、他の人に頼んだ場合、その人を100%信頼することは難しいよね。もしかしたら、家に帰って自室に篭ってこっそりアスパラガスとかを食べるかもしれない。でも、自分でやれば徹底できるからね。

Q.実験終了後、アレックスが開発した解毒メニューについて聞かせて?また、解毒メニューのお味はどう?
アレックス——彼は30日間に渡って、あまりに多くの糖分と脂肪分、カフェインを摂取し過ぎていたので、それらを排除したメニューを、そしてさらに、体に溜まった悪いものを流しさるプログラムを考えたのよ。栄養価が高く旬の有機野菜を沢山取り入れてね。兎に角彼は、カロリーだけは摂取していたけど、それって栄養価の無いカロリーばかりでね。体は良質の栄養を欲していたから、それを与えることがプログラムの根底にあったんです。
モーガン・スパーロック——30日間のマックの後だから、もう最高だったよ。2ヶ月間食べ続けたことで、身体の異常値は正常に戻り、体重もかなり落ちたけど、それでも最終的に元の体重に戻るまでは14ヶ月もかかったんだ。

Q.映画の中で、ドクター・ストップがかかっても貴方は実験を続けたけど、その時の心境と理由は?
モーガン——正直、とても怖かったよ。21日目あたりでは体調も最悪で、夜中に急激な胸苦しさを感じたこともあったしね。医者に会うと、一人どころか三人が皆口を揃えて「もうやめろ、もう既に証明できたんだから即刻やめるべきだ」って言われてね。それで家族や友人たちに随分相談したんだけど、最後に電話したのが僕の兄だったんだ。兄と言う人種は、最高のアドバイスと最低のアドバイスをくれるもので、この時彼は「これって皆が一生食べてる普通のものだろ?後9日で、本当に死ぬと思うかい?」って言ってね。それがとても理論的に思えたので、後9日は続けることにしたのさ。最もそれを母に話したら、「愚かさと勇気の線引きは弁えなさい」と言われちゃったけどね(笑)。

Q.近年、ドキュメンタリー映画の人気が高まっているけど、このジャンルについてどう思う?また、マイケル・ムーアについては?
モーガン——ドキュメンタリーの人気が高いのは、アメリカのみならず世界中の人たちが、メディアから受ける情報が真実かどうかと言う疑問を持ちはじめたからだろうね。テレビは多くのものが水で薄められた情報だと思うし、皆もそう感じてるのかもしれない。そうした中で、ドキュメンタリーは唯一残された聖域、他人の意見や検閲を受けずに自分なりの作品が作れる場だと考えているんだ。
 この映画のプロモーションで世界各国を回ったけれど、どこの国でも例外なく僕を取材しない媒体があるんだ。もしかしたら彼らの大きなスポンサーがマックで、取材したら広告を引き下げると言ってるのかもしれないよね?本当に怖いと思うのは、たかがハンバーガーやフライドポテトを売ってるようなメーカーが、これだけメディアにに対する影響力を持つってことは、他の企業は一体どんなことを隠してるのだろうかってことだよね。表現の自由と言っても、今の社会ではあくまでスポンサーの許す範囲での自由なんじゃないかと思えるんだよ。
 マイケル・ムーアを僕は大好きだし、彼がいてくれて本当によかったと思うよ。何故なら、我々は立ち上がって疑問を呈する者を必要としているからさ。我々はあまりにも受動的になりすぎて、与えられるものを疑問無く受け入れてしまったと思う。もう少し怒りを感じたり、疑問を投げかけて答えを得るようにしなければならないんだ。そういった意識の改革から、大企業が牛耳っている体制が変革されるとね。

 作品は、アニメやデザイン的に特化した画面処理を用いつつ、軽快にそして笑いの要素を満載に展開するが、何時の間にか見ている者の笑顔はひきつってくることは必至なのだ。実に危険(なのはあくまで現実の方だが)で刺激的な、映像体験ができることは請け合いだ。なお、『スーパーサイズ・ミー』は2004年12月25日よりシネマライズにてロードショー!また1月より、外苑前のレストラン【caminetto】では、この日ふるまわれた解毒メニューが体験できるとのこと。なおこの日に試食させてもらったのだが、野菜嫌いの自分でも美味しく食べられる内容だったと重ねて記しておく。
(殿井君人)

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スーパーサイズ・ミー
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