近未来。自分の記憶を消すことで、多額の報酬を得ている男マイケル。だが最高報酬を約束されて契約終了後、彼に渡されたのは19のガラクタ・アイテムだけだった。それらのアイテムは何を意味し、また消された彼の3年間に何があったのか?現代SFで最も重要な作家フィリップ・K・ディックの原作を、ジョン・ウー監督が映像化した『ペイチェック/消された記憶』。アイテムも原作よりも倍増され、よりミステリアスでエモーショナルな物語が語られていく。激しいバイク・チェイスに中を舞う鳩と、ウー監督らしさが溢れる要素も健在だ。
 3月からの日本でのロードショー公開に先立って、ジョン・ウー監督と記憶を失ったまま謎に巻き込まれていく主人公マイケルを演じたベン・アフレックが来日を果たし、2月23日新宿・パークハイアット東京にて記者会見が開催された。
 現在ハリウッドで、人気・実力ともトップ・クラスの二人は、この作品が初顔合わせ。 「ベンはカリスマ性があって、人間的にも実にチャーミング。暖かいハートの持主で、生きることへのパッションに満ち溢れている。本作のマイケルは、所謂スーパーヒーローでは無くて、血の通った男であり、そういう意味でもベンはピッタリだったんだ。ちょっと、ケーリー・グラントを思わせるかな。フィルムメイカーとしても、尊敬しているよ」と、本作にぴったりはまったベンの魅力を語ったウー監督。
 一方、ベンも90年代くらいから観はじめた香港映画の中でも、特に『狼 男たちの挽歌・最終章』『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』の新鮮な魅力に心を鷲掴みにされて以来、ウー監督の大ファンだったそうだ。「今度『狼〜』のポスターに、サインしてもらわなくちゃ(笑)」とファン気質を出し笑いをとったベン。今回の現場を振り返り、ウー監督について「あらゆる面で素晴らしい監督なのだけど、その中で特に一つを言うと、撮影に臨んだ時には全てご自身の頭の中で編集が出来上がっているってことだね。監督の中には、それが判らずに無駄なショットの撮影をする者も少なくなく、そうした撮影は演じる者にとってはストレスになるのだけれど、ウー監督は何を撮っているかを全てを把握していて無駄が無いのは本当に素晴らしい」と、その卓越したビジョンには心底惚れこんだようだ。
 実はウー監督は、ジャンルとしてのSFにはあまり興味が無いという。それでは、本作に惹かれたのはどういった部分なのだろうか?「正直、SFファンというわけじゃないね。私が惹かれるものは、物語なんだよ。本作もストーリーが面白く、脚本がスマートだったんだ。キャラクターや、アイテムの捉え方が実に上手いと思ってね。そして運命は、変えられるものだというテーマにも惹かれたね。個人的にはSFに多い暗く落ち込むような話はあまり好みじゃないので、ハッピーで前向きな未来を持てる作品にしようってね。それで、当初の脚本にあったVFXシーンの8割はカットして、エモーショナルなドラマづくりを心がけたんだよ」。
 本作のテーマは、記憶とテクノロジー。ところで、ベンにとって消してしまいたい記憶はあるのだろうか?「無論、消してしまいたい記憶は沢山あるよ。でも、ウー監督が本作の中で語っているように、記憶はいいものにしろ悪いものにしろ、その人の人生を形作るものだということだよね。だからどんなものでも、消してはならないんだよ。本作は、テクノロジーの進歩への警鐘を描いているんだ。遺伝子操作や生まれてくる子供の性別の選択は、現実に行われ始めているけれど、神の領域に近づくことが果たして賢い選択なのかという問い掛けでもあるんだよ」。
 なお、『ペイチェック/消された記憶』は2004年3月13日(土)より日比谷スカラ座1他にて全国一斉ロードショー!エモーショナルなSFドラマが探り当てる記憶の迷宮の真実は、是非劇場で確認して欲しい。
(宮田晴夫)

□作品紹介
ペイチェック/消された記憶
□公式頁
ペイチェック/消された記憶