人間、欠けてる部分があることで
すばらしい出会いがあるんです

『ミシュカ』の監督・主演のジャン=フランソワ・ステブナンさんと、その奥様で今回エル役で出演しているクレール・ステブナンさんにインタビュー。青い目に優しさをたたえたジャンさんは、なんと空手を25年前からやっているとか。

Q.『ミシュカ』を見て、家族について考え直させていただきました。このテーマで映画を撮ろうと思ったのはなぜですか?
ジャン「子供の頃から大家族に憧れていたんです。私は一人っ子だったので。だからジプシーの家族が大人数でワイワイやったりというのを、いいなあと思って。映画を作る作業も家族みたいなところがありますね。今回も横浜に来ていろんな人と知り合いましたが、偶然に知り合うということは素晴らしいことですよね。『ミシュカ』の中でも、5歳の子供から75歳のおいじいさん=ミシュカまで、いろんな人が出会いますよね。フツーのシンプルな人間が出会って道中を共にすることにより、いろいろモメながらも、それぞれの状況が良くなっていく・・・。たいへん素晴らしいと思います」
Q.ミシュカは息子との関係がうまくいっていない、ジェジェヌは親孝行する前に父親を亡くし娘とは遠く離れている。それぞれが欠けている部分を、偶然の出会いによって埋めていく・・・ステキですよね。
ジャン「そうですね。人間は分子でできていますが、その中には必ずなにかかけた部分がある。でも欠けていることで逆にうまくいくことが人生にはあるんです。欠けていることで、無意識に誰かが手助けをしてくれて状況が好転する。人はそういう出会いでエネルギーを与えられるんです。
 この映画に出てくるのはフツーの人たちです。たとえば私の娘が演じたジャヌは、不良でもないし、もちろん警官でもないし英雄でもない。フツーの人を描くのが、僕にとって大切なことなんです」
Q.主演と監督をなさっていますが、その役目は御自分の中でうまく分担できますか?
ジャン「僕にとってはとても簡単なことなんです。過去20年のあいだに、三本の映画を撮りました。僕はまず脚本を書きます。その上で制作費を確保し、監督としてスタッフを家族のように指揮する。監督した上で演技をするということは、今まで内部に蓄積してきたものを放出することなので自然なことなんです。たとえば撮影の技術的なことも、自分も演じているから説明することが簡単になる。まるで振り付けをするようにみんなを指揮することができるんです」
Q.では、クレールさん。この映画に出演なさっての御感想は?
クレール「いろんな思いがありました。今回は私たちの子供も出演しているんです。私はもともと恥ずかしがりの性質なので、そういう状況で演じることは複雑な気持ちですね。でも、撮影現場でなにか問題があった時、どうやって解決していくのかも見ることができて勉強になりました」
Q.クレールさんが監督の奥様で、娘さんのサロメさん、息子さんのピエールさん、ロバンソンさんも出ていらっしゃるんですよね。御家族で出演なさっていかがですか?
クレール「絆を強いものにしてくれました。映画の出演者としての絆も、家族としての絆も。この映画も、家族で出ることで、より自然になったんじゃないかと思います」
Q.ところで、ミシュカ役のジャン=ポール・ルションさん。魅力的な俳優さんですね。
ジャン「人間的に素晴らしい人で、“生命の木”というイメージです。いろいろ葉っぱがあって、それがひとつの木になっている。いろんな魅力があって大樹になっている。彼は見た目も魅力的ですが、内部から出てくるものがもすごいです! この脚本をとても気に入ってくれたので、私は特に“こうして欲しい”という演出はせずに、彼が感じたままを演じてもらいました。すばらしい人には特別な指導は必要ないので・・・」
Q.この映画で特にお気に入りのシーンを教えてください。
ジャン「この映画の中に、ジョニ・アリディという歌手が出てきます。彼はフランスで人気の、皇帝のようなスーパースターなんです。田舎のシーンで、普通のおじさんが“アリディが来るんだよ”といって待っているシーンがありますよね」
クレール「私もそのシーンが好きです。撮影の日、月世界のような砂だらけの場所で、みんなで彼の到着を待っていたんですよ。そうしたら、彼がヘリコプターで空からやってきたんです。本当に天から降りてくるような感じ。3歳の息子のピエールも、テレビで見たアリディが来るのをソワソワしながら待っていたんです。私たちにとって、あれは特別な日でした」
Q.“ミシュカ”という名前はどこから?
クレール「私たちが以前、絵本を読んだんですね。その中に出てくるクマが“ミシュカ”という名前だったんです。それが気に入って。その絵本はミシュカが、森の中をさまようお話だったんです」
ジャン「“ミシュカ”、音楽的ともいえる語感がいいでしょう」
Q.最後に、これから『ミシュカ』を見る人にメッセージを願いします。
「この映画の上映を待ちきれません。というのは、撮影した場所と上映場所が遠ければ遠いほど反応がヒューマンな反応があるからです。最初の映画を撮った時、オレゴンで上映があったんです。フランスから12000キロくらい離れていて、その時もすごい反響があってうれしかったんですね。だから今回の上映も、心配であるとともに待ちきれないです」

かきあげこ(書上久美)