97年カンヌ映画祭審査員賞に輝く『ニノの空』のマニュエル・ポワリエ監督の最新作は、突然現れた昔の恋人の娘を引き取ることになった平凡な男トムとその家族を中心に、家族の絆と人と人との出会いを描いたヒューマン・ドラマだ。
 今回の映画祭には、マニュエル監督と『ニノの空』でも一緒に仕事をしているポールの妻シルヴィー役を演じたマリリン・カントさんが来日した。実は、監督とマリリンさん、そして主演のトムを演じたセルジ・ロペスさんは、フランス映画際横浜97で上映された『マリオン』でもコンビを組んでいるベスト・コラボレーション。温かい人間の絆を謳い上げた監督と主演女優のインタビューをお届けしよう。

Q.作品のきっかけは、施設の子供たちのドキュメントを撮られたことからだそうですが
マニュエル・ポワリエ監督——私は子供の感情にすごく強いものを感じるんです。私自身も子供時代のことが心に残っておりますし、今の社会でも子供は大人についてよく語りますよね。態度や生き方、そして町や空間に自分達が受け入れられるのかどうか…。それが私達の生活に反映されてくるわけですが、子供と言うのは感受性の強い部分を持っていると思います。施設のドキュメンタリーをやった時、家族がばらばらになるということに強い感情を抱き、深く考えさせられました。自分がもし、そういった子供の父親だったら、知らず知らずのうちにそういう状況におかれたら、どういう態度をとるだろうか。それが集団、個人で様々変わってきますがどの社会においても、子供に対する責任はあるんです。

Q.大人の俳優さんたちのアンサンブルもよかったですが、子供たちの表情や仕草が自然でした。子供達に対する演技指導等は、いかがでしたか?
マニュエル監督——一言で言うのは難しいですが、子供との仕事で大切なのは真実の関係だと思います。その中には信頼性があり、愛情があり、時には厳しくしなくてはならない。そして何かを共に作り上げていくというパートナーシップが出来上がり、それが現場にも浸透していきそれぞれの関係を深め、現場の雰囲気を作っていったんです。子供達にも撮影前に色々説明するわけですが、正直3・4歳の子供達にそれがどのくらい伝わっているかは疑問でした。でも、実際撮影をしてみると、女の子が家にやってくるシーンしかり、彼らは想像以上に多くのものをもたらしてくれたし、多くのことを理解していたようです。子供がいることにより、撮影中大切だったのは反応ですね。子供は素直ですし、その状況にどう反応するか予測できない。そうした台本通りの反応を子供がしなかった時に、大人の俳優達もそれにのっていかなくてはならない。例えば言うべき台詞を子供が途中で切ってしまったとき等も、マリリンはそれに対応できなくてはならない。全員がある目的に向かっていくからこそ出来るんです。子供との仕事は難しいけれど、それは本能の素晴らしい部分なんです。

Q.お二人は既に何度かご一緒に仕事をされていますが、今回の映画に関して監督はマリリンさんを念頭におかれて脚本を書かれたのでしょうか。また監督との仕事や演技指導等について、マリリンさんからお話ください。
マニュエル監督——脚本を書くに当たってはなるべく俳優のことは考えず、登場人物に集中するようにしてました。しかし彼女の起用については早い段階から考えていたのは事実で、彼女とシルヴィーの出会いがあったわけです。映画の中には、彼女とシルヴィーには多くの繋がりがあったと思います。ただ彼女は『マリオン』(横浜’97で上映)でもセルジ・ロペスと共演してまして、その時にこの二人の仲にいい雰囲気が出来上がっているのを感じましたので、それを継続させるという点で今回も二人を起用したんです。
マリリン・カントさん——マニュエル監督に関して言えば、演技指導というのはふさわしくないと思います。彼は映画の中に全て準備した段階に俳優をおき、人生がそのまま彼の生活に続いていくような雰囲気を出しているのです。リハーサルも少ないし、ワン・テイクで終わるんです。何が起こるかわかっていると感情を俳優自身が準備してしまいますが、その場で何が起こるかわからない。それで現場にある種の緊張感と自由をもたらしてくれる彼独特の仕方ですね。

Q.脚本を読まれて、マリリンさんはシルヴィーというキャラクターのどのような点に惹かれましたか?
マリリンさん——この役柄について最初に話をいただいたとき、正直にとても嬉しかったです。また監督と仕事ができるということと、シルヴィーが本当に愛情に溢れたキャラクターだったからです。ただ単に愛があるとかいった簡単なものではなく、彼女は人生を、子供、そして夫を心から愛そうとするのです。彼女の中にある雰囲気はとても平穏なもので、いらついた部分が一つも無い。必ずしも言葉で「好きよ」とか言うわけではないですが、彼女の動作・態度の中に表現されているんです。
マニュエル監督——そう、人間が好きなんだね。

Q.主人公一家以外も、ご近所の家族や施設のカウンセラーの方など多彩な登場人物が活き活きと描かれていましたよね。
マニュエル監督——今回の作品のメイン・テーマは家族です。そして一つの家族だけを紹介するのではなく、色々な家族があることを見せたかったんです。そして、もう一つは出会いです。それは友達もあれば、憲兵のように友達ではない場合もありますが、生活では多くの出会いがあります。そうした部分は書いていて面白いです。

Q.最後に今回映画祭に参加された感想などをお願いします。
マニュエル監督——『マリオン』で来日した時も素晴らしい思い出が今も残っていますが、ここでは皆さんがとても温かく受け入れてくれ、そして映画をに熱心だというのがあります。それは映画を作る人間にとって、とても嬉しいことです。今回の映画で感動していただければ、そして観に来た人たちと映画の間での出会いになってくれれば嬉しいです。
マリリンさん——日本に来れてとても嬉しいです。私は日本映画がとても好きで、北野監督や成瀬監督などがとても好きな監督なんです。そんな映画に対して長い歴史を持つ国にこれて嬉しいんです。作品に対してお客さんがどのように反応されるかはわかりませんが、日本の方々はすごくオープンな感覚を持っていますね。皆さん映画が好きなんですね。

なお、『ぼくのパパは、きみのパパ』は6月21日14時45分よりフランス映画祭横浜2002にて上映!。
(宮田晴夫)

□公式頁
フランス映画祭横浜2002

□作品紹介
ぼくのパパは、きみのパパ