昨年のフランス映画祭横浜での上映時(映画祭タイトル『クローゼット』)には、観客からのリクエストが最も高く追加上映も行われたコメディ『メルシィ!人生』。待望のロードショー公開も決定し、昨年の映画祭時には体調状の理由で惜しく来られなかったフランシス・ヴェベール監督が初来日を果たし、5月28日に東京日仏学院で開催された特別試写会で上映後に行われたティーチ・インに参加した。作品を堪能した観客の拍手が鳴り止まぬ中、舞台に登場したヴェヴェール監督は「今回日本に来るのは初めて感動しています。遠い国の皆さんと今日はこんなに近くでお会いできて光栄に思います。」と挨拶、そして会場からの質問に、作品同様エスプリを効かせて答えてくれた。

Q.本作のアイデアは、どにように生まれたのですか?
——本作は政治的にも興味深いテーマだと思います。これはフランスでもアメリカでも事情は同じなのですが、隣人が20年前に馘首になった同じ理由で今回の主人公は職を維持するわけですけど、そんな社会習慣の10年分の変遷が面白いと思いました。人間性も大きく反映されてますが、ダニエル・オトゥイーユ演じる主人公のピニョン氏には、劇中の台詞にもありますが絶対にホモセクシュアルであるかのような演技をしないで欲しいと考えていました。変わるのは貴方ではなくて、貴方に対するの人の目なんですと。それが非常に面白い部分です。噂というのも面白いもので、いぢわるなものほど広がるのが早いですよね。私がもし、ドレスを着て街にたったらその噂は瞬く間に誰もが話したがりますが、何らかのチャリティ行為をしてもそれは伝わりにくいものなんです。

Q.日本でもリストラの嵐が吹き荒れていますが、この作品を観て奮起されるお父さんが沢山いらっしゃると思いますが。
——ありがとう。二十年前なら起きなかったであろうことが起きてます。パリの市長が、自分自身ホモセクシュアルであったことをカミングアウトしましたしね。

Q.今作で主人公はホモであることを告白して馘首を免れたわけですが、それはコンドーム会社故にということなんでしょうか。フランスでの事情をお話いただけますか?
——トレヴィアン、いい質問です。まさにそのために、コンドーム・メーカーを選んだのです。本作の社長にしても、顧客を失うことを恐れての判断であって、これがトラックを作っていたり、建設会社だったりしたら取りざたされることはないでしょう。本作で工場の内部を撮影しようと思ったとき、実はフランス国内にはコンドームを製作しているメーカーがなかったので、日本の相模ゴムの工場を使ったんですよ。そうそう、私のロス在住の日本人の友人が本作を見て、結末直前日本人の視察団が出てくる場面は日本人が二人しかいない。他は韓国人ですねと言われたんですが、私が採用したときには皆日本人だと言ってたんですけどね(笑)。私には判断できなかったです。

Q.監督は楽しいコメディを沢山作られ、またそれぞれの脚本も担当されていますが、そうした面白いアイデアはどのように浮かんでくるのでしょうか?また、現在アメリカ在住とのことですが、それはどのような経緯でアメリカに移られたのですか、またそのことで作風の変化などあったのでしょうか。
——どこからアイデアが湧いてくるのかは、本当に不思議です。朝目覚めたとき、これはアイデアとして90分くらいで行けそうだと思えば、シノプシスに取り掛かるのです。
アメリカに住むことになったきっかけは、カンヌの審査員をつとめた時に、カッツェンバーグ氏(現ドリームワークス)から誘われたのが移住のきっかけです。それで私自身の感性に変わりがあったかというと、それはないと思います。人は大体16歳でほぼ構築されますから、それ以降入ってくるものは情報が増えていくだけです。私はそれ以前のもので作品作りに取り掛かっていると思います。

Q.撮影中のエピソードなどありましたら教えてください。
——そうですね、撮影中のエピソードとしてはダニエル・オトゥイーユのプロ意識に物凄く胸を打たれました。同じカットで37回撮影を行わなければならないところがあったのですが、その時に彼の手をとったら氷のように冷え切っていましたが演技を続けました。俳優とはかくも過酷な仕事なんだと感じさせてくれました。
それからジェラール・ド・パルデューの撮影に入る前夜、彼が翌日心臓の手術をするという連絡が入ったんです。驚いて病院に行くと、彼はあのようにとても大きいから、ベッドに裸で横たわっている姿は、まるで鯨のようでしたね。彼との仕事は4本目だったのですが、彼の「待って欲しい」という言葉に勿論私は7週間待ったんです。そして彼は、作品で素晴らしい演技を見せてくれました。彼は非常に大きな存在で、一方では女性的な一面も持っていて、それは大女優であるカトリーヌ・ドヌーブが「彼のようになりたい」と口にするくらいなんですよ。

Q.キャストの皆さんが本当に生き生きとしてましたが、脚本を書くにあたり宛書などはされたのですか。
——そう私もキャリアもつんできましたので、有名な役者さん達を選んで、この人ならこういう役という風に書いていきました。ヨーロッパで最優秀のドリーム・チームだと思います。

Q.ヨーロッパの映画の音楽とアメリカの映画の音楽では使い方が違うように感じますが、監督はどのようにお考えですか?
——アメリカ映画には確かに大量の音楽が使われている感じがしますね。1時間40分の長さのうち1時間は音楽が流れているみたいな。ヨーロッパの作品の場合、会話を大事にしそれにかぶる事を恐れる傾向があり、それほど大量には使わないのでしょう。アメリカ映画の音楽は、肉を食べるときの塩のようなもので、我々の映画ではケーキの脇に添えるチェリーのような感覚でしょうか。

なお、『メルシィ!人生』はシネ・アミューズにて、今夏ロードショー公開!。

(宮田晴夫)

□作品紹介
メルシィ!人生