元町映画館で映画『まっぱだか』アンコール上映&安楽涼監督最新作『灯せ』公開中!
寒さが一段と厳しくなってきた。
人恋しくなる季節にぴったりの映画『まっぱだか』が11/13(土)より11/18(木)まで元町映画館でアンコール上映中だ。
また兵庫県・豊岡劇場では11/25(木)まで上映、UPLINK吉祥寺で開催されるMOOSIC LAB[JOINT]にて12/5(日)、12/8(水)の上映が決定した。
開館10周年記念作品として元町映画館が企画・配給を手掛けた『まっぱだか』。
『1 人のダンス』『追い風』の安楽涼監督と『轟音』『いっちょらい』の片山亨監督が共同監督を務めた。今回の元町映画館上映では安楽監督の最新作『灯せ』が同時公開されている。
主演は『追い風』『いっちょらい』の柳谷一成さんと『みぽりん』の津田晴香さん。
●“あたりまえ”ということ
元町映画館の8月公開時に舞台挨拶で語られた言葉を振り返りながら作品を紹介したい。
舞台挨拶の名司会でお馴染みの元町映画館・石田さんは制作の経緯について、
「作品を作ってみないかと安楽監督と片山監督をそそのかして出来た作品です。こんな素敵な作品を作って頂いてスタッフの私としても本当に嬉しいです」
コロナ禍で、多くの人の“あたりまえ”の価値観が揺らいだこの1年。片山監督もその一人だった。去年の5月で一回目の緊急事態宣言下で脚本が書かれた。撮影も去年の夏から冬にずれ込んだ。
「脚本を書く時はいつもその時の自分の気持ちがすごく反映されてしまう。
あたりまえだったものが突然なくなってしまって、“あたりまえ”って何なんだろう。そういう気持ちにさせられまして」(片山監督)
●主人公・俊とナツコの造形のこと
去ってしまった彼女への思いが断ち切れず、あたりまえだった日常を反芻する日々を送る俊〈柳谷一成〉。自分に押し付けられるあたりまえに対する違和感が日に日に大きくなっていくナツコ〈津田晴香〉。そんな二人が出会い、少しずつ何かが変わっていく。
「大事なものが自分のそばからなくなってしまった時に認めたくないんですよね。認めてしまったら事実になってしまうから。わかってはいるんですけどそれをかたくなに否定したいと言うか」(片山監督)
「ナツコは自分に課せられた当たり前を否定したい人で。俊と対極の人間を描きました」(片山監督)
●俊を演じて気付いたこと
最初は俊のようなこだわりは自分にはないと思っていたという柳谷さん。
「あたりまえの語源を、片山さんはマジで調べたりして。脚本を読んだ時の印象は、そこまで僕はやらないなって思ったんですけど。実際に撮影入っていくとあまり違和感もなく演じたと言うか、僕も片山さんのエキスがあるのかなと思って」(柳谷さん)
●不器用な津田晴香さんのこと
「人間って誰しも本心と嘘があるんですけど、津田さんはすごく本心を隠す人だなって。生きていくために時には本心を隠さないといけないし、隠すのが下手なくせに一生懸命隠そうとしていたからすごく不器用な人だなーっていうのが第一印象です。
前作(『みぽりん』)では、本心が出てくる瞬間と嘘で入る瞬間が交互に来ていて、ずっと本心でやればいいのになって。本心の部分が僕としては凄く魅力的だったんですよ」(片山監督)
●“笑顔が可愛い”ナツコのこと
プライベートでも津田さんと親しいという石田さんは脚本を読んだときに、
「ナツコは津田さん自身だ」と思ったという。
脚本には普段の津田さんが実際に言われていることが落とし込まれている。
脚本に書かれた横山の台詞に「すごく嫌だな」と津田さんの心が反応した。
「普段はナツコみたいに笑ってごまかしていたって言うか、嫌という気持ちを見せないようにしていたんです。
実際に撮影入る前に言われたことをちゃんと受け止めて、自分が嫌だなあと思えば見ぬふりをしないで受け止めて、それを出そうって決めていたので。
私、自分のことが嫌だったんですけど、そうやっているうちに自分を嫌うことで本当に思っていることを殺していたことに気づけたのが大きかったなって思います」(津田さん)
●2人で監督するということ
「最初は片山さんの色が強い脚本だなってめちゃめちゃ思っていたんです。安楽監督が書き加えた後ですごく2人の色が混じり合ったなって思いましたよ」(石田さん)
映画の中で安楽監督演じる俊の友人・吉田が、俊に本気のビンタで気持ちをぶつけるシーンが印象に残る。
「ビンタは僕が書き足した部分。片山さんとは長い付き合いで。友人だからこそ分かるようになるめんどうくささと向き合うために何をしたらいいんだ、俺は?と思って。
僕の僕も監督として並ぶわけだから、片山さんの価値観だけがこの映画の中での正解では良くないなぁと思ったんですね。人がいなくなるって僕も経験があるし、今日来てくれた皆さんも多分経験したことがあるでしょう。そんな繊細な価値観を一辺倒にしたくないと思って、僕の価値観を書き足したんです」(安楽監督)
●友人“吉田”のこと
「吉田の存在に救われている観客の皆さんもたくさんいると思います。私もだいぶ救われました。よく言ってくれたっていう気持ちがすごくありました。“すぐ降ってくる”じゃないけど、そこがすごくいいな」(石田さん)
片山監督が描き出した価値観の背景を考えて、言い出すには相当な覚悟が必要だった安楽監督。
「書き直したいっていう話をするまでにマジで2か月ぐらいかかりました。これを言ったら片山さんものすごく傷つけてしまうかもしれないって」(安楽監督)
「ある日から反応が鈍くなったんです(笑)」(片山監督)
「クランクイン2週間前にやっと言いました」(安楽監督)
●マスター横山のこと
片山監督自身はナツコの勤務先のバーのマスター横山役で出演。付き合っているナツコに対して自分にとっての「ナツコはこうあるべき」を連呼してやんわり追い詰めてしまう。しかも悪気なく。
「横山というキャラクターは、ある一定の年齢を越えると人気があるんです。ある一定の年齢層より下は全否定なんですけど(笑)」(片山監督)
「横山は普通の人で、普通の人っていうのは一番残酷なんですね。見て見ぬふりができてしまうので」(安楽監督)
●主題歌「Walk With Dream」のこと
主題歌『Walk With Dream』を手掛けたLittle Yard Cityのヴォーカル&ギタリストであり神戸ブルーポートの店長でもある川内康寛さんを安楽監督と引き合わせたのが、元町映画館に勤務して3年、神戸ブルーポートには10年近く通っているという石田さんだった。
安楽監督の前作『追い風』で主演を務めたラッパーのDEGさんは、安楽監督の幼馴染。映画の公開に合わせてDEGさんのライブをやろうと紹介したという。
「その後ブルーポートのみんなと安楽さんが仲良くなって。今回ロケ地としての話は勝手に二人で進めていたから、すごく嬉しかったですね」(石田さん)
「今日映画を見るまでは信じてなかったんで。ドッキリみたいな感じで終わるかと思ったらほんまに流れてきた(笑)。映画の助けができていたら嬉しいです」(川内さん)
『Walk With Dream』が主題歌に決まったのはライブハウスシーンの撮影でのこと。DJのあっくんが流した中にこの曲があったという。
「めちゃめちゃ街の人達がアガっていたから、凄いなーって思って。川内さんは街に愛されているんだなって。あの一体感はあの曲だからこそ」(安楽監督)
「『まっぱだか』のリリース記事が出る5月14日にチラシができてブルーポートに渡しに行ったら、7年前の5月14日が丁度『Walk With Dream』が入っているアルバムの発売日って聞いて。河内さんが感慨深げに“7年たって映画主題歌になったわ”って」(石田さん)
アルバム『L.Y.C.』は映画の公開に合わせてタワーレコード、HMVにて取り扱い中となっている。
●『まっぱだか』元町ロケのこと
元町界隈で撮影された『まっぱだか』。神戸ブルーポートの他にも喫茶ポエム、バーのアンカーが物語の舞台として登場する。
アンカーのオーナー竹崎さんはナツコのマネージャー役で出演。
「横山さんがいやらしいことをいっぱいしていたアンカーのあのシーン、なかなかしんどかったんで、今後の営業に支障をきたすんじゃないかと思っています(笑)」
喫茶ポエムのオーナー山崎さんは俊のことを
「めっちゃ面倒くさいなあと思って(笑)。でも最後に吉田のだらしない体を見てほっとしました」
だらしない体で観る人を救った安楽監督。現在は撮影時より8 kgほど痩せたという後日談も。
●“あたりまえ”がなくなって見えて来たこと
「この映画はあたりまえがなくなったコロナ禍の始まりに生まれました。
辛いことがあっても友達が近くにいるだけでもいいし、何か言ってあげるでもいいし、言わなくてもいい。そういう友達が、僕は“あたりまえ”に隣にいっぱいいるんだけど、その大切さにコロナ禍で気づいて。そういった要素を映画に入れたいと思って柳谷さんとお芝居しました。
劇場にお客さんが来てくれるって“あたりまえ”じゃないし、凄いことだなって思っています」(片山監督)
【映画『まっぱだか』上映情報】
・元町映画館:11/13(土)~11/18(木)アンコール上映
・豊岡劇場:11/12(金)~11/25(木)
・UPLINK吉祥寺:MOOSIC LAB[JOINT]にて12/5(日)、12/8(水)
【短編映画『灯せ』上映情報】
・元町映画館:11/13(土)~11/18(木)
・池袋シネマ・ロサ:12/25(土)〜12/30(木)
(レポート:デューイ松田)