現在、第二次世界大戦後ドイツで民主主義を叫び、20世紀の「芸術」を変えた伝説のアーティスト、ヨーゼフ・ボイスのドキュメンタリー映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』がアップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、横浜シネマリンほかで公開中です。

3月10日(日)、アップリンク吉祥寺での上映後、DOMMUNE主宰の現在美術家、宇川直宏さん、インディペンデント・マガジン「HIGH(er)magazine」編集長のharu.さん、カルチャーイベント&マガジン「Making-Love
Club」主宰と編集長を務める中川えりなさん、カルチャーを通して社会的な課題に向き合うクリエイター3名をゲストにしたトークイベントを行いました。

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■日時:2019年3月10日(日) 19:30の回上映後
■会場:アップリンク吉祥寺(東京都武蔵野市吉祥寺本町1-5-1 吉祥寺パルコ地下2階)
■ゲスト:宇川直宏(DOMMUNE主宰・”現在美術家”)、中川えりな(「Making-Love
Club」主宰・編集長、モデル)、haru.(「HIGH(er)magazine」編集長、モデル)
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映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』は、既存の芸術概念を拡張し誰もが社会の形成のプロセスに加わるべきだと訴えた「20世紀で最も偉大な芸術家」とも称されるヨーゼフ・ボイスの芸術と知られざる”傷”を、膨大な数の資料映像と新たに撮影された関係者へのインタビュー映像で明らかにするドキュメンタリー。

3月10日、アップリンク吉祥寺にて公開記念のトークイベントが行われ、DOMMUNE主宰の現在美術家、宇川直宏さん、インディペンデント・マガジン「HIGH(er)magazine」編集長のharu.さん、カルチャーイベント&マガジン「Making-Love
Club」主宰と編集長を務める中川えりなさん、それぞれがカルチャーを通して社会的な課題に向き合い情報を発信し続けるクリエイター3名が登壇した。

宇川直宏さんは最初に「僕は、80年代、なんとなくセゾンカルチャーの文脈でヨーゼフ・ボイスの事を理解していた。セゾンカルチャーとはバブル経済の真っただ中に、高度経済成長を終えた後の“モノ”から“情報”を売るというパラダイムシフトを生み出した文化構想。“因習から解き放たれた自由で豊かな文化”をプランニングし、そこに現代アートも組み込まれていた。そんな西武資本が支えていた文化の動き」とボイスの芸術が日本に持ち込まれた時代背景を振り返った後「だから、若い世代がどのようにこの作品を観たのか非常に興味深い」と述べると、haru.さんは「私はボイスが大きな影響を受けている人智学者シュタイナーが唱えたシュタイナー教育の学校に通っていたので、ボイスの言っている事が何も不思議ではなかったです」とボイスが身近な存在であった事を明かした。

また中川えりなさんが「ボイスは、7000本の樫の木のように、千年単位で残る作品を考えていた。原発問題のように、多くの人間は自分が生きている間の事についてしか考えていないけど、ボイスは違う。見ている世界が違うと感じ、追いつかないといけないと思いました」と鉱物や植物や対話を作品にするボイスの作品の素材について言及すると宇川さんは「中川さんがおっしゃる通りで、それはアートとデザインの違いの本質を示している。デザインは機能美がある故、社会にコミットする。もちろん、それらは、ゆくゆくはアートと呼ばれる可能性があるけど、アートとして普遍的な強度を保つには100年経過しても消費されないものでなければいけない」と深くうなずいた。

本作の冒頭、ボイスは“向う側に匿名の観客へ”とカメラに向かって語りかけ「何かを伝える時、一番いいことは”同時に全員に届く”ことだ」と持論を述べる。宇川さんは「この言葉こそ社会彫刻のコンセプトが根底にあること。私たちはこの言葉について考えなければならない。今日、DOMMUNEを主宰している僕と、社会的なイシューに積極的に関わってZINEを創っているharu.さんと中川さんがブッキングされたのは、すごく理解ができる。それは僕たちが今世紀的社会において”社会彫刻”と呼べる活動をしているからだと思う。DOMMUNEも匿名的な観客を相手に“同時に届け”、それらを受けた人々がいかにそこで共有した意思を拡散してもらえるのか?そんな社会的ネットワークをデザインしようとしているんだと思う」と熱弁。現在は、カルチャーイベント「Making-Love
Club」をオーガナイズし、同タイトルのZINEを発行する中川さんは「政治の話を政治の話として取り上げても対立は越えられないと実感し、一人一人が考え発信することを訴え続けています」と答えた。
宇川さんが「僕はこの作品を観て、ボイスは本当はデザイナーになりたかったんだと思った。つまり社会彫刻とはソーシャルデザインのことだと思う。デザイナーがデザインする上で把握する必要があるのは「世の趨勢(すうせい)」。だから大衆からの見えない意思を様々な動向から読み解く能力が必要となるけど、しかしボイスはアーティストなので、実はその能力がないから一人ひとりと対話しようとして破綻してしまう。寧ろその危うさこそが、ボイスの魅力なんだと思う」と独自の見解を述べると、haru.さんは同意したうえで「私もどちらかというとボイスと同じで、“すべてのアートを繋げるための仲介者になるための修行がしたい”と大学院の面接で話したら教授から“私は君のやっている事が最初から分からない”と返されてしまった」と自分のエピソードを語った。宇川さんは「新しい理論を作ってそのフォーマットを作っていくことこそがアーティストだとボイスは唱えたのだが、DOMMUNEはlife
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artをコンセプトに掲げ、このようなプラットフォームを作って、全てのキャリアを絶って地下スタジオに籠城しこれまで9年間続けてきた。君もやっとアーティストになれたねって今ならボイスに言ってもらえると思う」とまとめた。

最期に会場の参加者から、今回のトークイベントやTHE
M/ALLのテーマとなっている「音楽×アート×社会をひとつにつなぐ」の音楽性についての質問が出た際、宇川氏は映画に挿入される、ボイスのデュッセルドルフ芸術アカデミーでの教授陣を前にした「サウンドポエトリー」と言えるパフォーマンスについて「最も抽象的な表現だと思う」と言及すると、haru.さんが観客席にいた音楽家、山川冬樹さんがいる事を指摘し、意見を聞く事に。山川さんは「僕は宇川さんと真逆の事を感じて、ボイスのあのパフォーマンスを見てあれほどに具体的な声はないと思った。コヨーテになりきっている。大学は自由を教える場のようでいて、制度を教えている場でもあるので、それに抗うボイスの姿勢に感銘を受けたんですが、ボイスは固い場面であえて最も具体的なコヨーテの声というものを出したのかなと思いました」と答えた。宇川さんは「具体的な記号から捨象し、共通な要素を種として表現する…その表現フォーマットを抽象いうならば、つまり人の言語で語らず、情感のみをコヨーテになりきって伝えようとしたボイスは、その純度において究極の抽象だと僕は感じているのです」と返した。

監督・脚本:アンドレス・ファイエル
撮影:ヨーク・イェシェル
編集:シュテファン・クルムビーゲル、オラフ・フォクトレンダー
音楽:ウルリヒ・ロイター、ダミアン・ショル/音響:マティアス・レンペルト、フーベルトゥス・ミュル/アーカイブ・プロデューサー:モニカ・プライシュル
出演:ヨーゼフ・ボイス、キャロライン・ティズダル、レア・トンゲス・ストリンガリス、フランツ・ヨーゼフ・ファン・デア・グリンテン、ヨハネス・シュトゥットゲン、クラウス・シュテーク

配給・宣伝:アップリンク
字幕翻訳:渋谷哲也
学術監修:山本和弘
宣伝美術:千原航
(2017年/ドイツ/107分/ドイツ語、英語/DCP/16:9/5.1ch/原題:Beuys)

公式HP:
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