イタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督の最新作で、“家族主義の国イタリア”、“人情溢れる下町ナポリ”というイメージを覆す、現代に生きる人々の心の闇を容赦なく描き切り、イタリア国内の映画賞を相次いで受賞した映画「ナポリの隣人」(配給:ザジフィルムズ)を 2 月 9 日(土)より岩波ホールほか全国順次にて公開致します。

公開に先立ちまして、1 月 31 日に飯田橋・神楽座にてトークイベント付き特別試写会が行われました。登壇したのは、映画化され大ヒットとなった漫画「テルマエ・ロマエ」の著者であり、長年イタリアに拠点を持たれ、漫画やエッセイでイタリアに関する著作を数多く出されているヤマザキマリさんと、ジャーナリストとして人が生きる上での新しいコミュニティの在り方を模索し、映画評論家としてもご活躍されている佐々木俊尚さんです。

登壇された 2 人は見終えたばかりのお客さんの顔を見るなり、「まだなんとも言えない顔をしてらっしゃいますね。」と微笑み合い、そんなお客さんの気持ち
を代弁するかのように佐々木さんが感想からトークがスタート。「はじめは家族と上手くいってないおじいさんの話で、隣人一家と心を通わせることで次第に変化していく“疑似家族”的な話なのかなと思っていたら、全く違った。想像にしない展開に、私も最後には茫然となって見終えた。これまでのイタリア映画に対しては人情喜劇のようなイメージを持っていたが、この作品はそうではない。」、「最近のイタリアではこのような“孤独”や“やるせなさ”を描くような作品が多いのか?」との佐々木さんの問いかけに、ヤマザキさんは「元々ネオレアリズモの映画を作ってきた国だからこそ、社会的な問題を美化するのではく、リアルに切り取ることが得意なのがイタリア。それを観客の人たちも見に行く土壌があって、自分たちが言葉に置き換えられないことを映画で確認するという意識がある。」と、イタリア人の映画に対する姿勢を最初に語ってくれた。

本作は、日本人が抱きがちなイタリアやナポリの“陽気で明るい”イメージとはかけ離れた、現代のリアルなイタリアを描いているため、ヤマザキさんがその現状もていねいに解説。たとえば、本作の舞台である「ナポリ」のイメージとしてよく挙げられる「家族」。しかしその「家族」という共同体も、今のイタリアでは社会に押しつぶされ、日本と同じように自殺に追い込まれてしまう人が老若男女問わずおり、家族間の事件や老人の孤独死も起こり始めている現状もあるとのこと。そのヤマザキさんの話を受けて、佐々木さんがこれからのイタリアはどうなっていくのか?と問うと、「向き合うしかないですよね。受け入れるしかない現実もあるんです。だからこそ、この映画のラストシーンはすごく印象的でした。」と語り、それに対し佐々木さんは「人間関係に苦しみ悩む姿をヨーロッパ映画らしく描きながらも、最後の終わり方は日本映画のような様相を持っていて、言うなれば小津安二郎の映画を少し彷彿とさせます。」と話し、ヤマザキさんも「私もそう思います。イタリア人は小津安二郎が大好きで、やたらと小津の話はよく出てきますよ。」と笑って応えた。またヤマザキさんは「イタリア人は、人間は歴史や時代の“波”の中にいるという感覚が強い。浮き沈みがあることは当然で、それ故に失望や絶望というネガティブな感情も自分の中に取り込んで、あえて楽観的になれるのがイタリア人。だからこそ本作を見て、俯瞰で今のイタリアの現状を捉え、このように素晴らしく描いてることこそが救いだと思った。」と力強く語った。さらに「日本人のステレオタイプなイタリア人像がひっくり返ると期待しているし、皆で是非語り合ってほしい一作。」とも話し、佐々木さんが「“リアリティを知る入口”として映画は本当に大事。本当のイタリアを知るという点でも、また日本に照射して考えても非常に奥深い映画だと思います。」と語ると、ヤマザキさんも「その観点で見てもこの作品は秀作だと思いますし、この映画を観られた皆さんは本当に良かったと思います。」と観客にも語りかけた。リアルなイタリアの現状を知るヤマザキさんの話を聞き、映画が作られた背景に日本と共通することの多いイタリアの話に深く頷く人が多くいた、非常に満足度の高い会となった。

監督・原案・脚本:ジャンニ・アメリオ / 原作:ロレンツォ・マローネ 「La tentazione di essere felici」
出演:レナート・カルペンティエーリ / ジョヴァンナ・メッゾジョルノ / エリオ・ジェルマーノ /グレタ・スカッキ / ミカエラ・ラマッツォッティ
原題:LA TENEREZZA (イタリア映画祭 2018 上映題「世情」) / 2017 年 / イタリア / イタリア語 / 108 分 / シネマスコープ / Dolby digital / 字幕翻訳:岡本太郎 提供:
ザジフィルムズ、朝日新聞社 / 配給:ザジフィルムズ 後援:駐日イタリア大使館 / イタリア文化会館 © 2016 Pepito Produzioni 公式サイト:www.zaziefilms.com/napoli/