この度、全米批評家協会賞や、ニューヨークタイムズ紙のベストブックに選ばれ、世界24か国語に翻訳され大ベストセラーとなった、アンドリュー・ソロモン著「FAR FROM THE TREE」を原作にしたドキュメンタリー映画『いろとりどりの親子』を11月17日(土)新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開いたします。
 10年をかけて、身体障がいや発達障がい、LGBTなど、親とは“違う”性質を持った子を抱えた300以上の親子に取材し、家族の本質を探った本書を、これまで数々の社会派ドキュメンタリー作品を手掛けてきたエミー賞受賞監督レイチェル・ドレッツィンが、深い感銘を受け映画化。自閉症や、ダウン症、低身長症、LGBTなど、さまざまな“違い” をどう愛するかを学んでいく6組の親子の姿を映しながら、マイノリティとされる人々の尊厳と権利に光を当てた本作は、しあわせの形は無限に存在していることを、私たちに気づかせてくれます。
 このたび、公開を今週末に控えた本作が、東京大学の学生スタッフが自ら企画運営する、障がい当事者やその関係者を講義に招いてそのリアルな息づかいや生活、人生に触れることを目的とした「障害者のリアルに迫る」ゼミにて特別上映されました。また、上映後、日本版「いろとりどりの親子」といえる、知的障がい・てんかん発作をもつ弟を持つゼミ受講者の学生と、そのお母さんをお招きしたトークセッションが行われました。

11/13(火)実施 「障害者のリアルに迫る」東大ゼミ 上映会+トークセッション詳細】

■登壇者:星さん親娘
      (知的障がい・てんかん発作のある息子を持つお母さんと、当事者の方の姉にあたるゼミ受講生)
■日程:11月13日(火) 上映会17:00〜18:30 トークセッション 18:40〜19:30
■場所:東京大学駒場キャンパス


 約30人の学生たちが集まった本日のイベント。映画の上映が終わり、会場が余韻に包まれる中、本日のゲストである星さん親娘が拍手で迎えられ、トークセッションが始まりました。
まず、お母さんから当事者である息子さんについて紹介が。「4人姉弟の3番目の息子が、知的障がいを持っています。言葉でのコミュニケーションができず、歩くことは出来ますが、うまく体を動かせません。小学校の頃から養護学校に通っていて、今中学生です。」
 また、映画の感想について、「映画の中で、自閉症の男の子の両親のインタビューシーンなどを観ながら、毎日を忙しく生きる中で忘れていたような、つらかった時期を思い出しました。赤ちゃんの頃や小学校に上がる前は、てんかんの発作が少しずつ出てきて大変な時期だったので。お母さんが『障がいを持って生まれてきたことで自分を責めた』というつらいお話もされていましたけれど、まさにその通りでした。つらいことも多くあったからこそ、こういう(スクリーンに映し出された笑顔の家族写真を見ながら)笑っている写真をたくさん残してしまったかな、という気もします。」と話しました。
 続いて、当事者の方の姉にあたるゼミ受講生へ。彼女にとって弟はどのような存在だったかを聞かれると、「私が年長のときに産まれ、彼が2週間ぐらい医療センターの親しか入れない部屋にいて寂しかったのを覚えています。小学校高学年くらいから、彼は周りや末の弟と違うのかな、と感じ始めました。また、中学校の頃からは、可愛い弟だけど、皆が思っている“普通”の子ではないと偏見を持たれるのではと思い、『みてみて』と自慢できるような感じではないと思っていました。」と、子ども時代のリアルな胸の内を明かしました。
 現在については、「大人になってきて、自分が弟を見る目は変わってきました。このゼミのお陰かもしれないけれど。週末は、3人で家の中で暴れまわるという遊びをしていて (笑)、おいかけっこしたり、バランスボールを投げ合ったり。中学校の頃に特別視していた自分を、今では何だったのかなぁ、って思います。」と、自身の考え方の変化を語りました。
 そういった変化のきっかけについて尋ねられると、「高校でパソコンの授業が好きだったので、漠然とその方面に行きたいなと思っていました。大学進学を前に、何がやりたいのかと考えたときに、『弟が話せないから、弟の思っていることを言語化して伝えられるものを自分で作れたら』と思い、そのとき弟の存在がポジティブなものに変わったんです。弟のおかげで自分の進路が決まったこともあり、感謝しています。」と照れて笑いながら語りました。
 次に、司会の方からお母さんへ「映画の中で、自閉症の男の子の両親がはじめは『障がいがなくなってほしい』と色々な治療をしていましたが、そのようなことはありましたか?」との質問があると、「『障がいがなくなってほしい』というか、(新しい)何かを獲得してほしい。歩けないときは歩けるようになってほしいとか、今は喋れないから、喋れるようになってほしいとか…。」と、一つひとつ言葉を探るように答えました。

 「ふたりにとって彼は障がい者ですか?」という質問には、お姉さんは「私にとっては、障がい者より、弟。周りに自分のやりたいことを説明するときに「私の弟は障がい者で…」と話したりはします。ただ、どちらなのかと問われたら、絶対、すごく可愛い弟です!」と明るく答えました。また、お母さんは、「難しいですね…。例えばものすごく目が悪い人にとって、目の良い人と同じ世界を見ている訳ではないし、人から『こんな風に見えている』と言われても分からないのと同じ。本人は障がいだと思っていないかもしれないけれど、こっちがそういう風に見ているだけだと思います。」と答えました。
 最後にお母さんから学生たちへ、「息子がいたことによって、福祉というものがすごく身近になり、考えるようになりました。いわば息子が私の先生という感じで、色んなことを教えてくれたし、世界につなげてくれたと思っています。福祉や介護は、専門的に勉強した人がする訳ではなく、そんなの全く(経験が)なくても、できる人はできるし、関われる人は関われるし、一緒に遊べる人は遊べる。そういう世界の方がいいかなと思います。だから、この映画を見て、身近に感じてもらって、一緒に生きてもらえたらと思います。」とメッセージが送られました。
 学生のひとりからは、「ハッとさせられることが沢山あった映画でした。どのエピソードにも共通して見られたのは、その人を見て、ペースを合わせて、相手の立場に立って考えることが必要だということ。でも相手はいわゆる“普通”の人じゃないからどうすればいいんだろう。と、そこが障がいになっている部分だということ。お二人のお話を聞いても同様に思いました。その解決策は、僕には正直思いつきません。例えばお姉さんの言うように、相手の考えを言語化できる機会を開発できたら少しは近づけるかもしれないけれど、自分は相手じゃないから相手のことは(根本的には)分からない。でも繋がりたいっていう気持ちは絶対ある。という中で、僕たちはもうちょっとだけ視野を広げるというか、電車で見かける人とか、家族とか、自分と繋がっている隣の人たちにちょっとでも想いを馳せるようにしたらいいんじゃないかな、と思いました。」という感想があがり、熱い拍手でイベントは幕を閉じました。

【「障害者のリアルに迫る」東大ゼミについて】 
「障害者のリアルに迫る」ゼミは「『障害』というテーマをタブーなく語る場を作りたい」という思いから2013年より活動を続けています。
ゼミには主任講師として野澤和弘先生(毎日新聞社論説員)、熊谷晋一郎先生(東京大学先端科学技術研究センター准教授)をお迎えして、また毎回の授業にゲスト講師として全盲ろうやALSなどの難病といった目に見える『障害』の当事者、LGBTQsや依存症の方などの目には見えない『障害』の当事者、そして支援に携わる方々をお呼びしています。2016年にはぶどう社より「障害者のリアル×東大生のリアル」が出版され、累計1万部を突破しました。


監督:レイチェル・ドレッツィン 
原作:アンドリュー・ソロモン著「FAR FROM THE TREE Parents, Children and the Search for Identity」
音楽:ヨ・ラ・テンゴ、ニコ・ミューリー
2018年/アメリカ/英語/93分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/原題:Far from the Tree/日本語字幕:髙内朝子
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©︎2017 FAR FROM THE TREE, LLC 提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド