失語感を乗り越えて《木村文洋監督最新作『息衝く』関西公開記念~『へばの』上映》イベント開催! @同志社大学 寒梅館
※左から川村健一郎さん(立命館大学映像学部教授)、木村文洋監督、福間健二さん(詩人・映画監督)、田中誠一さん(出町座支配人)
7/2、京都・同志社大学 寒梅館クローバーホールにて《木村文洋監督最新作『息衝く』関西公開記念~『へばの』上映》のイベントが行われた。
川村健一郎さん(立命館大学映像学部教授)を司会に、福間健二さん(詩人・映画監督)、田中誠一さん(出町座支配人)、木村文洋監督が登壇した。
映画『息衝く』は、『へばの』(08)で原子燃料サイクル施設がある青森県六ヶ所村を舞台に、分断された家族と恋人たちの選択を描いた木村監督の最新作だ。『へばの』につながる物語でもある『息衝く』は、東京に生きる30代の青年たちを中心に、原発・宗教・家族を描くことで社会と個のあり方を模索している。
『息衝く』は関東地方の上映を経て、7/7より大阪/シネ・ヌーヴォ、7/14より京都/出町座、兵庫/元町映画館と順次公開予定となっている。
『へばの』が誕生するまで
『息衝く』公開を目前に行われた上映イベントだが、さて、何故京都なのか?
木村監督の映画制作のルーツは京都にある。98年に京都大学法学部に入学し、映画研究会で8ミリで映画を作り始めた木村監督。20歳で京都国際学生映画祭の運営にスタッフとして参加。日本全国の学生自主映画を集めて審査をする部門を3年ほど担当した。その後、京都を拠点に映画制作や上映も行っていた佐藤訪米監督に師事しながら、木屋町を中心に山本政志監督の映画宣伝も手掛けた。’03年、京都国際学生映画祭の委員長となり、当時審査員を務めた井土紀州監督と京都の学生で映画を作るという、『蒼ざめたる馬』制作企画を実現させ、この企画はその後『ラザロ-LAZARUS-』3部作へと発展した。
大学を卒業した2006年、自分の映画を作りたいと今の日本の現状を見る旅に出たという木村監督。当時日本最後の原発予定地都市計画が進められていた山口県上関町などを原発問題を取材する中で、自身の地元である青森県の六ヶ所村に原子燃料サイクル施設があることを知った。揺ぎ無い施設の状況を見て衝撃を受けたという。当時関西ではCO2を始め自主映画の機運が高まっており、いくつかの作品の助監督や制作を務めながら関西での制作も考えたが、原発問題を取り上げることで収集がつかない企画になってしまうことを危惧した。そんな中『ラザロ-LAZARUS-』の制作スタッフだった桑原広考さんの協力を得られることになり、東京に出て『へばの』の制作を始めた。
『へばの』は2009年にポレポレ東中野にて公開され、全国公開となった。第32回カイロ国際映画祭デジタルコンペ部門でシルバー・アワードを受賞、第38回ロッテルダム国際映画祭 bright future部門にて上映され、好評を博した。
木村作品は暴力的なのか?
福間さんは改めて『へばの』を観た感想を語る。
「久しぶりに見て、すごい良かった。こんなに良かったかなっていうくらいに、びっくりしちゃったんですけどね」
そのひとつは『息衝く』とのつながり方にあるという。
「映画でも社会でも、3.11以降こういう真剣勝負っていうのはどれだけ挑まれてたんでしょうか」
さらに福間さんは、
「思い切りのいい表現が連続している。何年も経って観て、生きているものがたくさんある映画こそが、自主映画。本物の映画っていう意味としてね。作った作品に対して後から弁解をする人もいるんだけど、そういうことは言わない映画っていうのかな。そういうぶつかり方に今感動しているし、気持ちのいい映画だなという気がしました」
一方、出町座の田中さんは、
「木村監督ってこう見えてすごい凶暴な人でもあるんで(笑)」と語る。それは木村映画の特徴でもあり、福間さんが思いきりの気持ち良さととる部分が、田中さんにとっては意図しないものが出てくる感にヒヤヒヤするという。
「こういう段取りで、こういうストーリーでという大前提がよく分からないですよね。多分お客さんからも言われると思うんですけど、それに対して、普通は説明すると思うんですけど、でも映画でそこを分かりやすくしようと思ってないところとか。安全地帯の曲が、フルコーラスでかかるのが未だにどういう意図なのかさっぱりわかんない(笑)」
『へばの』を観る人が、おそらく必ず話題にするであろう曲の使い方について壇上が盛り上がる。
そして川村さんは暴力的な場面として、再会した2人が海辺に止めた車の中でセックスする場面を挙げた。
「車がたどり着く時まで、車窓からの暗黒のような風景。車が端にたどりつき、カメラが正面から二人を切り替えして写すと、車の窓ガラスには青空が反射している。そういうのに暴力を感じるんですね」
一方では映画の物語世界の中で時間の経過も感じるし、同時に作り手の意図も感じるという。普通の話法から見ると傷と言えるが、傷に見えず、むしろ魅力と言えるものが狙いであったのかを聞かれた木村監督は、
「カメラマンの高橋和博さんは引きの画を撮ることが多いんですが、こちらが頼んでもなにかを抜いたり、寄ったり、ということはあまりしない。絵作りに確固としたものがあるんですね。青森のあの海岸っていうのが3分経つと天気が変わってしまうようなところで、それに対し広く構えることで、青森の特有の気候や変動が写ったんだと思います。」
川村さんは、福間さんが評価した原発との向き合い方を受けて語る。
「『へばの』ってプルトニウムが肺の中に入る。その傷が遺伝子レベルで後へ残っていくというのが物語のモチーフになっていて、震災を経て今もなお、痕跡のリアリティが伝わってくる作品になっているからこそ古びてない。痕跡そのものをテーマにした映画だったなと思いますね」
福間さんも言葉を継ぐ。
「この映画は、少なくとも3.11以降に対する何かに対して負けてない作品だって思う。そこがこの映画の生命だなと思いますね」
自分の意思ではないところで存在するものへの葛藤
木村監督は、そんな『へばの』と対になる物語である『息衝く』について観客に向けて語る。
「最初にあったのが、六ヶ所村を初めて訪れた際の、何もいまから言えないという失語感だったんです。」
原発の完成され尽くした施設が、木村監督自身が親から与えられた信仰に重なったという。映画の中では、親から受け継いだ信仰により世の中を良くしたいと活動する主人公たちが、成長するにつれ自分なりに考えを深めていき、自分たちの行動に疑問を持ち始めるが、軌道修正ができなくなる姿が描かれている。
「2006年当時は『へばの』の対になる話として構想していたに過ぎませんでした。実現できる企画とは当時、誰もが思えなかった。金銭的なものや世の中の要請がない中で何か続けていくっていうのはなかなか難しいことで、世の中に異議申し立てしたり運動を続けたり、信仰するっていうのもそうだと思うんですよね。そういったヒリヒリしたものは僕自身の人生が投影されたものだと思います。特殊な環境にある主人公たちの話ではあるんですけど、見てくれた方に重なるものや繋がるものがあればいいと思っています。自分の映画を京都で公開するのは今回初めてのことなので、ぜひ見ていただきたいと願っています。よろしくお願いします」
『息衝く』関西・中部地方の上映期間は次の通り。
大阪/シネ・ヌーヴォ 7/7~7/27
京都/出町座 7/14~7/27
兵庫/元町映画館 7/14~7/20
愛知/名古屋シネマテーク 8/4~8/10
『息衝く』の公開に合わせ、『へばの』再公開も決定!
大阪/シネ・ヌ―ヴォXにて7/21~27で上映予定となっている。
(レポート:デューイ松田)