6/9(土)、大阪市西区のシネ・ヌーヴォにて映画『見栄を張る』関西公開の初日舞台挨拶が行われた。

長編第一作目となる藤村明世監督の企画をCO2の助成作品として製作された『見栄を張る』。
売れない28歳の女優・絵梨子(久保陽香)が、姉の死により帰省した故郷で、姉が葬式で参列者の涙を誘う“泣き屋”の仕事をしていたことを知る。仕事の意味を知らないまま、“泣き屋”を始めた絵梨子だったが……。

製作にあたっては、和歌山県海南市や紀美野町、有田川町、大阪で撮影が行われ、主に関西のスタッフ、キャストが参加した。先行公開された関東では、夢をあきらめきれないヒロイン・絵梨子の葛藤が多くの観客の心を捉え、ロングランとなっている。

藤村明世監督は、
「本日は見て頂いてとても嬉しいです。こんなに多くのキャスト、スタッフの皆さんに集まって頂きまして、幸せだなと思っています。ありがとうございます!」と撮影した関西での公開でキャスト、スタッフが再集結した喜びを語った。

『見栄を張る』は、2016年に製作され、東京のユーロスペースにて2018年3月下旬~4月中旬まで公開されたが、好評を受けて現在もアンコール上映中となっている。藤村監督は、
「2年経つと色々変わるなって。なんと妊婦さんが二人もいて本当におめでたい映画だなと思って、凄く嬉しいです」と出産を控えた真弓さん、澤田由衣さんの舞台挨拶参加について笑顔で語った。

 

撮影中のエピソードについて、絵梨子の怖い叔母・聖子を演じた辰寿広美さんは、冬場の撮影の寒さとタイトなスケジュールを回想。作品については、「台本を読ませていただいた段階ですごく骨太な作品だなって。現在希薄になりがちな人間関係を密に描いた素敵なお話だなと思いました」

小学生の和馬(岡田篤哉)を残して亡くなった絵梨子の姉・由紀子を演じた真弓さんは、撮影中に和馬がご自身のお子さんとダブってしまい涙が止まらなくなったという。「監督に“泣かないでください”って言われても、泣いてしまって止められなくなったのが大変でした」

 

絵梨子の元彼・竜太郎を演じた時光陸さんは、年越しも合宿所で迎えるほどの過密スケジュールの撮影だったと語る。時光さんの出番の撮影は終わったが、スタッフの大変な様子に残ってスタッフ業を手伝った。
「和歌山のロケ地の方々が温かいおもてなしをしてくださりまして、現場にいた時から人々に愛される映画のようなと感じていて、東京でも再上映されているということで嬉しい限りです」
『見栄を張る』は日本国内だけではなく、ドイツ、アメリカ、オランダなど世界の国際映画祭で注目を集めている。
「全世界地球上で一人でも多くの人がこの映画を観て、勇気もらえたと思って頂けたら僕は幸せだなぁと思います。またキャスターのキャストの皆様と集まれるのも幸せですし、こうして見に来てくださる皆様がいてくれるのも幸せなことだと思っています。今日はお越し頂きましてありがとうございました」

叔母・聖子の娘でお見合いに5回失敗した美里を演じた・澤田由衣さんは、時光さんのコメントを受け、
「締めたね!と思って(笑)」
と劇場内みんなの気持ちを代弁し、笑いを誘った。
「年末撮影をしていたので、最後31日大晦日にみんなで宿舎に戻って来て紅白を見たのが楽しかったなって思い出です」と当時を振り返った。

 

ゴミ箱に捨てられた雑誌の表紙を飾る比留川かれん役の古妻朋瑛さん。
「撮影当時は中学2年生で あまり何も覚えてないんですけど(笑)」と語る古妻さんは現在アイドルとして活動している。
「アイドルの現場でも『見栄を張る』を観たって言ってくれるお客さんがいます。素敵な作品に出会えたことで、色々な人にも出会えて感謝しています。ありがとうございます!」

冒頭のオーディションのシーンで絵梨子に嫌味を言う女優を演じた南羽真里さんは、映画のクランクアップの日に撮影となった。
「皆さん仲がいい感じのところに行ってアウェイ感があったんですけど、『めっちゃ泣ける女優さんなんで』ってハードル上げて来られたんで大変でした(笑)」と振り返った。
藤村監督は、「すごい泣いてくださったので(笑)」と苦労を労った。

 

「私にはこの作品がすごいクリスマスプレゼントだったんですね」
と語るのは絵梨子のもう一人の叔母を演じた辻葉子さん。辰寿広美さんが高校の同級生で、クリスマスイブ前日に電話がかかってきて参加した。
「この作品がみんなに愛されてどんどん広がっていくのを肌で感じて、ちょっと鳥肌もののクリスマスプレゼントなと思ってます」

辰寿広美さんが演じた叔母と夫婦役の岩田徳承さんは、撮影ではただひたすらみかんを食べていたと振り返る。『見栄を張る』の公開以来の広がりについて、
「凄いことになってますよね。さっき改めて作品を観てたんですけど、今になってこれに出れて良かったなあという思いがふつふつと込み上げて来ています」

 

泣き屋を雇った喪主である社長婦人・佐々木響役の美村多栄さんは、ロケ地である和歌山の地元の方々の協力について、
「お近くのスーパーの方が、とても豪華なロケ弁を差し入れて下さったんです。夕飯はラーメン屋さんが差し入れしてくださるとなったんですが、撮影が終わって先に帰ることになって、有名な和歌山ラーメンが食べられなかったのが心残りです」
と思い出を語った。

和馬の父親の再婚相手を演じた小夏いっこさん(撮影時は小西いっこさんとして活動)は、『見栄を張る』が初めての出演作だった。
「凄く思い出深いんですが、撮影ではドキドキしてて細かいことはあまり覚えてないんですね」
大阪の撮影現場での和気藹々とした休憩時間を振り返りつつ、
「皆さんから和歌山楽しかった!ってお話を聞くと、和歌山に行けなかったのが残念だったなと思いました」

 

藤村監督は「2年半前に撮った時はこんなに多くの方に観ていただける映画になるとは思ってませんでした。多くのスタッフ、キャストの皆さんに支えられてこれだけ映画が広がっていって、大阪に戻って来れて本当に幸せだと思っております」
「『見栄を張る』、今後も愛される映画になるように頑張っていきますので、よろしくお願いします。本当にありがとうございました」と笑顔で舞台挨拶を締めくくった。

シネ・ヌーヴォでの上映は6/29(金)まで。ジストシネマ和歌山は6/15(金)〜6/28(木)まで。神戸・元町映画館は6/16(土)~6/22(金)までの上映となっている。

 

最後に6/12のシネ・ヌーヴォ舞台挨拶で披露された、『見栄を張る』に映画監督役で出演した岡田有甲監督が預かってきた撮影の長田勇市さんから藤村監督に向けたメッセージを紹介したい。

「映画には作者はいない。ただ重労働と多少の奇跡があるだけ」

アシスタント時代から数えて40年近く映画の現場で生きるベテランの映画人からのエールを受けた藤村監督。公開待機作として、是枝裕和監督が製作総指揮を務めたオムニバス映画『十年 Ten years Japan』の一篇を手がけており、今後の活躍にも注目したい。