10 月 12 日(木)YEBISU GARDEN CINEMA にて映画『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』特別試写会が行われました。
<見られたい自分><理想の自分>様々な分身を生み出すことによって、結果的に本当の自分を見失っていってしまう主人公ネリー・アルカン。上映前にはブルボンヌさん(女装パフォーマー/ライター)、ナジャ・グランディーバさん(ドラァグクイーン)をお招きし、女性の複雑な深層心理を様々な視点から語るスペシャルトークショーが行われました。レポートは下記の通りです。

21 世紀フランス文学界に彗星のごとく現れた実在の作家ネリー・アルカン。わずか 36 歳の若さでこの世を去った彼女の、愛と激情の人生を綴った映画『ネリー・アルカン 愛と孤独の淵で』が 10 月 21 日から公開されるのを記念して 12 日、YEBISU GARDEN CINEMA にてスペシャルトークショー付きの特別試写会が開催された。
トークショーを行なったのは、新宿二丁目を飛び出し様々な雑誌で連載を抱える女装パフォーマーのブルボンヌと、関西を中心にドラァグクィーンとして活動するナジャ・グランディーバ。東西の女装界を代表する二人は、15 年以上の親交がありながらもツーショットで公式に登場するのは初めてとのこと。
劇中でミレーヌ・マッケイ演じる主人公のネリーは、自身の経験を基にした小説を執筆し、世間からセクシーアイコンとしての姿を望まれるようになる。その期待に応えようと、彼女は世間を騒がせるセレブを演じ、やがて自分を見失っていく。さらに過去の自分と、小説の世界に投影した自分の分身<ペルソナ>によって、現実の世界が侵されていくのだ。
作品を鑑賞したナジャは、最近のテレビでは観ることが少なくなったダイレクトなエロ描写に衝撃を受けたと語りはじめ、「台詞ひとつひとつに意味が込められていて見逃せなかった。こんなに集中して映画見たのは初めて!」とすっかり本作の虜になったことを明かした。一方でブルボンヌは、ネリーの人生観が心に響いたとうっとりしながら「人生においてすごく大事なことを教えてくれる作品」と表現。
劇中で様々な姿を演じ分けているネリーと同じように、プライベートでは「男性」として生活をし、パフォーマンスとして「女性」を演じる二人。「よく男性の気持ちも女性の気持ちもわかるって言われるけれど、本当は女性の気持ちはあんまりわからない。だから、女性を演じているというよりは、自分のやりたいことをやらせていただいているだけ」と本音を語るナジャ。働いていたゲイバーのパーティで初めて女装をした時から「周りと違う目標を持って、周りの目を気にせずにやってきた」と振り返った。
また、Instagram をはじめとした SNS の普及によって、一般人にも演じ分ける機会が増え、「インスタ映え」という言葉のように「自分を盛る」ことが主流になっている昨今。ドラァグクィーンとして自分を盛ることに長けた二人ではあるが、普段の生活では SNS 映えをするような生活をしていないという、意外な一面を明かした。
しかも「盛る」こととは逆行して、テレビに出るたびに化粧が薄くなってきたと告白したブルボンヌは「現実から乖離した自分を作って、“いいね!”をもらうことが自分の価値だと考えてエスカレートしていく時代は、周りの評価を気にしてしまうネリーと同じ」と作品につなげ、「だからその点でこの映画は“いましめ〜”」と、どこかで聞いたイントネーションで会場を盛り上げた。