『50年後のボクたちは』 音楽のプロが教えてくれたなるほどしっくり感!「カセットテープ特有の“たわみ”が 少年2人の心情や旅を彷彿とさせる」
この度、ドイツの大ベストセラー小説を、『ソウル・キッチン』『消えた声が、その名を呼ぶ』の名匠ファティ・アキンが実写化した『50年後のボクたちは』が大ヒット公開中!「こんな経験したかった!」「心から大好きだ!と言える映画にめぐりあえた」などSNSでも反響が大きく、“今観るべき映画”の一本となっています!
そして6日(金)には公開を記念してビームス創造研究所クリエイティブディレクターでありライターの青野賢一さんと映画のサントラをこよなく愛するDJ ユニットサントラブラザースのひとりで音楽ライターの渡辺克己さんを迎えてトークイベントを行いました。
【開催概要】
日程:10月6日(金)19:10~の回、上映後 / 20:44~21:06
会場:ヒューマントラストシネマ有楽町(千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F)
トークイベント登壇ゲスト:青野賢一さん(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/ライター)
渡辺克己さん(サントラブラザース/音楽ライター)
メガホンを執ったのは世界三大国際映画祭の全てで主要賞を受賞する名匠 ファティ・アキン。
誰もが通過する、永遠には続かない14歳という一瞬の煌めきを瑞々しく捉え、かつての自分を想い出させてくれる爽やかで切ないロードムービーが誕生しました。
【青野賢一さん(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/ライター)コメント】
無謀、無計画、無免許、無食(?)____ないものだったら全部ある、14 歳のアナーキーな旅。
夏休みが終わっても50 年後まで続く旅。
この度開催するトークイベントでは、先駆けて本作にコメントを寄せた青野賢一さん(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/ライター)と、映画のサントラをこよなく愛するDJ ユニットサントラブラザースから渡辺克己さん(サントラブラザース/音楽ライター)をお招きし、劇中の音楽とその効果についてじっくりとお話し頂きました!
<イベント内容>
☆少年ランナウェイものに名作多し!あなたの期待も上回るはず!
雨にも負けず来場したたくさんの映画ファンを前に登壇した青野さんと渡辺さん。
「ビジュアルからして清々しい映画だなという印象で、正直そこまで期待していなかったんですけど、ふと観たら、中々沁みるものがあるなと思いました」と青野さん。
渡辺さんはサントラブラザースの自己紹介から「僕たちは映画のサントラをかけまくるDJ3人組で、ちょうどこの映画の公開日にもこの作品の劇伴をメインにイベントをしました。ぼくたちはこういう映画を“少年ランナウェイもの”と呼んでいるんですが、ここまで旅に重きをおく作品はあまりなくて、『スタンド・バイ・ミー』(87/ロブ・ライナー)『動物と子供たちの詩』(72/スタンリー・クレイマー)くらい。とても考え深かったです」と歴代の“少年ランナウェイもの”と並び楽しめる作品だと語った。
☆カセットテープだからこそのたわみがまた良し!こだわりのリミックス「渚のアデリーヌ」渡辺さんは持参した本作のサントラやリチャード・クレイダーマンのレコードを見せながら「このイベントに立つということで、劇中の音楽とか色々見直してみたんですよ。原作でも明記されている曲とそうでない曲とか。原作ではリチャード・クレイダーマンの他に、片想い中の女の子が好きなビヨンセとか、マイクが好きなザ・ホワイトストライプスとか、色んなジャンルの曲が使われています。
映画になるとDJでもあるファティ・アキン監督の選曲もプラスされていて、ダンスパーティーのシーンにメーガン・トレイナーの曲が使われていたりトムトムクラブが入っていたり。サントラ好きには聞きどころがたくさんあります」と劇中に使用される曲、原作から引っ張ってきた曲、と熱心に解説。
青野さんは思い入れのある曲について「後半のシーンに流れるトムトムクラブ、あのタイミングで流すの、最高じゃないですか?僕はあのシーン好きですね。あとは「渚のアデリーヌ」についても言うと、カセットテープ特有の巻きが甘い時に起こるたわみが彼らの旅を彷彿とさせたり、心情を思わせる部分があると思います」と一瞬では聞き逃してしまいそうなカセットテープの“たわみ”についても触れた。
「時代なのか、最初にリチャード・クレイダーマンって言えなくてフランス語の発音でリシャール・クレイダーマンって言っていたのもおかしくて、あとはキャラクターの造形に合わせてリミックスしているから音と映像がリンクしていましたね」とリチャード・クレイダーマンの「渚のアデリーヌ」がただ流されているのではなく、少年2人のための“たわみ”と“リミックス”が意図的にされていることに触れた。劇中で多用される「渚のアデリーヌ」が何度もかかる曲ながら、耳に煩わしさがなく、時代錯誤でもなく感じるのには、そんな作り手の愛情がこもった一工夫がされているようだ。
☆原作者ヘルンドルフがマイクで、アキン監督がチック。2人のタックで完成した映画劇中でオマージュされている映画についても触れる渡辺さんは「『イージー・ライダー』(70/デニス・ホッパー)とか『インディペンデンス・デイ』(96/ローランド・エメリッヒ)とか、ちょくちょく映画の小ネタが挟まってくるんですよね。原作本「14歳、ぼくらの疾走」の前書きにはトッド・ソロンズ監督の『ウェルカム・ドールハウス』(97)の一節が引用されていたりして、ヴォルフガング・ヘルンドルフはかなりのシネフィルなのではと感じました。そのヘルンドルフ、実は映画が完成する前に病で亡くなっているんですよね。
そういう病と闘う孤独な悲しみがなんとなくですけどマイクに繋がる部分があって、僕はマイク的なヘルンドルフを、チック的なアキン監督が映画化に導いた、映画と同じようなナイスコンビ思えてきます」と熱弁を振るった。
最後に青野さんは「この映画は成長を見守っていく感じの物語ではありますが、作り手の音楽や映画への愛情はたっぷり詰まっていることで青臭さが気にならない一作になっています」と、最初の感想に戻るようにベタ付きのない清々しい一作と締めくくった。