満島ひかり、4年ぶりの主演作への思いを語る 『海辺の生と死』 完成披露上映会にてキャスト、監督による舞台挨拶実施!
『夏の終り』(13)以来、4年ぶりの満島ひかり単独主演となる映画『海辺の生と死』が7月29日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開となります。 本作は、太平洋戦争末期、自然と神と人とが共存し、圧倒的な生命力をたたえる奄美群島・加計呂麻島を舞台に、傑作「死の棘」を世に放った小説家・島尾敏雄と、その妻、島尾ミホ、後年、互いに小説家であるふたりがそれぞれ描いた鮮烈な出会いと恋の物語を原作として、奄美大島、加計呂麻島でのロケーションを敢行し、映画化を果たした作品です。
この度、6月27日(火)、テアトル新宿にて本作の完成披露上映会を実施!
島尾ミホをモデルとした主人公の大平トエを演じた満島ひかりをはじめ、トエの恋人で島尾敏雄をモデルとした朔(さく)中尉役の永山絢斗、島で慈父(うんじゅ)と慕われるトエの父親役の津嘉山正種、朔中尉の部下、大坪役の井之脇海、自分より若い上官に鬱屈した表情を見せる兵士役の川瀬陽太が舞台挨拶に登壇。越川道夫監督とともに、本作ロケを実施した奄美大島、加計呂麻島での撮影裏話などを披露。 島での撮影ならではのエピソードや企画当初から参加していた満島さんが本作への思いを多いに語るなど、盛りだくさんな舞台挨拶イベントとなりました。
◆日時6月27日(火)◆会場:テアトル新宿
◆登壇者:
満島ひかり、永山絢斗、井之脇海、川瀬陽太、津嘉山正種、越川道夫監督 MC/奥浜レイラ ※敬称略
MCの呼び込みで、満島ひかりさん、永山絢斗さん、津嘉山正種さん、井之脇海さん、川瀬陽太さん、そして越川道夫監督が舞台に登壇。満島ひかりさんは本日、薄桃色の着物姿(大島紬)で艶やかに登場され、満員のお客様からさらに大きな拍手で迎えられました。
MC:完成披露ということで、今日、初めて一般の皆様へお披露目となるわけですが、記念すべき最初のお客様である会場の皆様にまずはキャストの皆さんから一言ずつご挨拶いただきたいと思います。
満島さん:
こんばんは。満島ひかりと申します。(場内から声援も)今日は『海辺の生と死』の完成披露上映会にお越しいただき、中国・上海では上映があったそうですが、日本では初めてお客様の目に触れるということで少し緊張もしています。何かを感じて帰っていただけたらと思います。
永山さん:
朔中尉を演じました永山絢斗です。今日は足を運んでいただき、ありがとうございます。奄美という島に誘われてください。
井之脇さん:
大坪役の井之脇海です。本日はありがとうございます。見るだけでなく、身体で感じることができる映画になっていると思います。ぜひ感じて帰ってください。
川瀬さん:
隼人少尉を演じた川瀬です。奄美が舞台ということで、島そのものが登場人物でもある映画だと思います。どうぞ楽しんでご覧ください。
津嘉山さん:
(男性客からの大きな声援に)びっくりした(笑)トエの父親役をやらせていただいた津嘉山正種です。沖縄出身ということで、キャスティングされた大きな理由だと思うのですが、沖縄と奄美はだいぶ方言が違っておりまして、あまり役にたたなかった気もしております。今日はよろしくお願いします。
越川監督:
今日は本当にありがとうございます。島尾敏雄さんの小説とか島尾ミホさんの「海辺の生と死」は若いころから大切に読んできた作品で、これをやることになったときには“ほんとに俺やるのかなぁ”と思ったのですが、今日ここで映画がかかるんですよね、たぶん僕が一番びっくりしていると思います。
MC:ありがとうございます。ではここからはお一人ずつ伺っていきますね。主人公トエを演じた満島さん、沖縄のイメージが強いですが、ルーツは鹿児島・奄美にあると伺いました。今回はその奄美での撮影ということで、ほかの作品との違いはありましたか。
満島さん:
そうですね。撮影の合間に泊まっているホテルのロビーに祖母の弟が座っていて「撮影前にコーヒーでも飲んでいこうよ」となったりとか(笑)、そういうこともありました。満島家は奄美大島の生まれで、故郷での撮影になるので、感じるものも違いましたし、方言も沖縄で育った私には耳なじみがありましたから、ちょっと不思議でした。映画の撮影しながらも故郷に戻って、私は13歳で上京したんですけれど、故郷の生活をちょっとやり直しているような感覚もありました。
MC:島の代表として責任も感じて撮影されていたともお聞きしました。
満島さん:
方言とか島の風習とか文化などはスタッフの皆さんよりも知っているところがあったので、自分も勉強しながらスタッフとも交流して話をしたりしました。あと、島の人たちにどう受け入れてもらえるかなぁというのは大きくあって、私は奄美出身の祖母から踊りをよく習っていたので、島のおじいちゃんやおばあちゃんが奄美の島唄を歌っているような会合で、踊りながら中に入っていったら「あんたは島の子だね」と言って迎え入れてくれたんです、それは良かったです。
MC:それでは特攻艇隊を率いて島にやって来た朔中尉を演じた永山さんに伺います。いつ出撃命令が出るかわからない中で過ごす役どころですが、どんなことを意識して演じられましたか。
永山さん:
お話をいただいてから作品を読んだりしまして、現場に入ってからも島尾敏雄さんの詩集が本屋にたくさんあったので買いまくって、よく浜辺で読んでいました。読みながら、あぁこういう文章を書く人間の顔になれるかなぁ、なんて思いながら。
MC:監督に初めてあったときから坊主頭にされてきた、と伺いましたが、
監督:いつしたの?
永山さん:台本がすごく文学的だったので、これは東京で読んでいてもわからない、島にいってみないと、と思って、とりあえず頭だけ丸めようと思ったんです。
津嘉山さん:お会いしたとき、わからなかったんです、髪が伸びていて(笑)
MC:続いて劇中で主役のふたりをつなぐ役割を演じる井之脇さんに伺います。撮影の時、自然とシンクロする機会があったそうですね。井之脇さんの出演シーンになると必ず蝶々が飛んでいるというエピソードが出ているそうなんですが、ご本人的にも気が付くほどだったんでしょうか。
井之脇さん:
わからないんですけど、僕が現場に行くと必ず蝶々がいるんですよ。だから奄美には蝶がいるのが当たり前だと思っていたんですね。そうしたら、井之脇くんがいると、蝶がくるんだよね、と言われて。
満島さん:本当に、海くんが立っていると、後ろやこの辺(足元)にずっと蝶が本番中にいましたよね。
井之脇さん:
奄美の自然に触れ合えるのは嬉しかったし、海も吸い込まれそうな感じで、永山さんと川瀬さんと一日中海に行って遊んで、釣りをしに行ったりしました。自分たちなりには釣れたなぁと思って宿に帰ったら、満島さんがエライのたくさん釣っていたりして、楽しく自然と触れ合うことができました。
MC:満島さんが島唄を歌うシーンでも・・・。
満島さん:
そうなんです。フクロウが鳴いたり、鳥が鳴いたり、カエルも鳴くんですけど、その鳴き声が「ゲロゲロ」ではなくて「オエって」感じで・・・。
越川監督:それは奄美の固有種なんだよ。すごく良いシーンを撮ってる時にも鳴いてたね。
MC:川瀬さんは、永山さん演じる朔中尉の年上の部下役という屈折した役どころを演じられました。この物語における、いわば敵役的な役どころといいますか、島やトエに対して日本軍を象徴するような役どころですが、演じるに当たって何か意識されたことはありますか?
川瀬さん:
この人も何かのきっかけで、そういうものを信じないと生きていけなかったんだろうな、という心持ちでやっていました。あと、当時の特攻艇があった洞窟が今もそこにあって、他にもセミの音とかカエルの声とか、たぶんそのときから今も変わらないわけじゃないですか、本当にそこで演じられたということは東京で勉強する以上に意味があったと思います。
MC:トエの父親を演じた津嘉山正種さんに伺います。トエの一家は琉球貴族の血を引く家族とのことですが、ご自身も沖縄出身ということで、演じやすさ、それとも逆に演じづらかったことなど、ございますか?撮影中のエピソードがあれば教えてください。
津嘉山さん:
最初私は役にたてるだろうと思っていったんですが、奄美の言葉は全然違いまして、気候とかは変わりないんですが、方言だけは違って、私も方言指導を受けました。ちょっと戸惑いましたね。(といいながら、沖縄の方言で少し会話を披露しつつ)これならば満島さんとも会話ができるんだけどね、考えていたよりも大変でした。
満島さん:
奄美大島でも、各集落によって言葉が違って、島尾ミホさんが住んでいた(オシカクという)集落に住んでいる人でもTVなどの影響でもう話せないと言われたので、今回は島尾敏雄さんミホさんの息子さんである島尾伸三さんにお母様の話していた口調を思い出してもらって、セリフを全部読んでいただいた。それを聞きながら、ミホさんの声とか感じて面白い体験でした。
津嘉山さん:
私の役は島で慈父(うんじゅ)と言われるんですけど、尊敬をこめた意味なんですね、でも沖縄では“うんじゅ”は単なるあなたの敬語なんですよね。そんなことも監督と話したことを覚えています。
MC:そして、本作が『アレノ』に続く長編監督作第2作目となる越川監督、この原作はずいぶん前から大事に読まれてきたものと伺っていますが、映画化するに当たってまず何に心を砕いたか、教えていただけますか。
越川監督:
若い頃は、トエと朔ふたりのある種ロマンティックな恋物語ができるんじゃないか、と思っていたんですね。でも、50歳もすぎて色々経験もしてきたりすると、この人たちはどういう風に日常を暮していたんだろうか、出撃しなかった朔とトエがどういう風に家に帰ってきたんだろうか、と。戦争は背景にしてるのですが、この映画は軍隊のほうから見る映画ではなく、島のほうから見る映画で、島の在り方が中心にあって映画を作っていきました。
MC:ここで改めて、今回、『死の棘』で知られる島尾敏雄と妻のミホさんの出会いの頃のお話しということで、一般的には特にミホさんは狂気というか、そんな言葉で説明されることも多い女性です。演じられた満島さんにとっては、どんな女性なんでしょうか。
満島さん:
愛に生きた方だと思います。島に暮らしていて、早いうちに一度東京に出て、そのあと戻ってきて戦争中でもハイヒールとスカート翻してかえってきたそうで、島の子供たちはハイヒールなんか見たことみないから、みんな玄関先に見に来たくらいだそうです。かたや都会にくると、南の国から来た神秘的な女性だね、と言われていた。だから、彼女の居場所はずっと“愛”だけだったのではないか、と。「死の棘」も読んで、彼女の描いた「海辺の生と死」を読んで演じても思ったことですが、私自身、同じようなところがあって近いなぁと。誰かを愛することによって、こんなにパワーが眠っていたとは知らなかった、自分が誰かを愛することによって世界が変わるなんて思わなかった、という現実にもつながる女性の話だと思ったんですね。「死の棘」に通ずる、こちらが愛をたくさん注いでいる時に、男の人がふと現実や戦争をみたときにヒステリックになってしまう、そういう場面は、この映画の中でもなんとなくうっすら感じるところがあるのでは、と思います。
MC:では最後に満島さんと越川監督からこれから映画をご覧になる皆様に一言ずつお願いいたします。
越川監督:
今日はどうもありがとうございました。今日、虫の話が出ていましたけれど、鳥の声や虫の声がいっぱい聞こえると思います。トエはそういう中で生まれ育ったので、それが撮れなければ島にならないな、と。 僕はずっと島とお話をしながら、この映画を撮っていたように思います。それに今日ここにいる5人だけが東京から行った俳優で、それ以外は全員奄美の地元の人たちが、子供たちふくめて出演してくれました。ぜひ奄美の子供たちの姿を観ていただければと思いますし、それが戦争というもの対する反発だったかとも思っています。ぜひそういうところをご覧いただければ嬉しいです。
満島さん:
島尾敏雄さんミホさんは自分たちが出会った頃から最後の時まで綴ってきた夫妻ですけれど、これまで皆さんおそらく島尾敏雄さんの作品を目にすることが多かったのではないかと思います。島の側から描いたミホさんの作品はみんなに共通するようなおとぎ話のような世界で、今は色々な映画がありますが、自分の祖母の世代の方や戦争を知っている方、昔の秘密ごとを知っている世代の方たちがどんどんいなくなっている中で、その方々に話をきけて、少しでも触れて直接感じることができるうちに、その方々の記憶の中にある世界をどうにか映画の中に映せないだろうか、と思って、越川監督と始めた企画でもあります。
私は最初の時からこの映画に参加していますが、映画には、他では映らない、綺麗ではなくて美しい、怖いではなく恐ろしいものが映ると信じています。そういうものをみんなで優しく撮ろうとした作品です。島の人たちのお芝居も素晴らしく、子供たちに、「トエ先生は、好きな人のために死のうとするんですか」と聞かれたので「そういう話だねー」と返したら「だめだよ、そんな男はやめなさい」というような、そんな感受性豊かな子供たちも出てくれました。
越川監督が島の時間を大切にして作った映画です。蝶々も鳥もたくさん映っています。最後まで楽しんでいただけたらと思います。