6/10(土)に、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品、河瀨直美監督作『光』の大ヒット御礼舞台挨拶が新宿バルト9にて行われ、カンヌ国際映画祭参加のため、同劇場での初日舞台挨拶に登壇できなかった河瀨直美監督と永瀬正敏が、カンヌ以来初の二人での都内舞台登壇となり、満員の来場者との上映後の質疑応答で大いに盛り上がりました。


映画『光』 大ヒット御礼舞台挨拶概要
■日程:6月10日(土) 13:25ー13:50(上映後)
■会場:新宿バルト9 スクリーン5(228席) (東京都新宿区新宿3丁目1-26新宿三丁目イーストビル11階)
■登壇者:河瀨直美監督(48)、永瀬正敏(50)*敬称略

本作は視力を失いゆくカメラマン・雅哉(まさや)と、単調な日々を送っていた美佐子(みさこ)が、ある仕事をきっかけに出会い、最初は反発するものの次第に惹かれ合うという、河瀨(かわせ)監督が挑む珠玉のラブストーリー。雅哉がやがて見えなくなる事を知りながらも、互いの心を見つめようとする、切なくも希望を感じさせてくれる物語。

それでは、お二人からご挨拶を伺いたいと思います。お二人とも、お帰りなさいませ。(会場から拍手)

河瀨「ただいま。カンヌ帰ってきたのはもう5月30日なのでもう10日ほど経っているんですが、やっと時差ボケも抜けてきた中で、今日は東京に戻ってきました。自分の映画がこの映画館で、こういった形で映画と一緒に戻ってこれたこと、感動を噛み締めております。カンヌでの上映とは違い、映画館で上映すること、このスクリーンという平面から滲み出てくる、みなさんと同じ人生と同じように存在している雅哉と美佐子が、かけがえのないものをもたらしてくれます。そして、たくさんのこの映画に登場したものたちと、今日はみなさんと一日過ごしてもらえたら嬉しいな、と思っております。どうもありがとうございます」

永瀬「永瀬です。今日はありがとうございます。そうですね、5月30日に帰ってきてだいぶ経っていますが、僕はまだ時差ボケです。(笑)こんな声ですいません。いかがだったでしょうか?(会場から拍手)嬉しいです。明日も観にきてください(笑)」

司会「何度でも観にきて頂きたいですが、この作品は、先日行われました第70回カンヌ国際映画祭で、見事エキュメニカル審査員賞を受賞しました。おめでとうございます。(会場から拍手)この賞の説明を簡単にお伝えすると、人間の神秘に満ちた深遠さを表した映画を表彰する、というものです。実は、カンヌでの結果を樹木希林さんにお伝えした際に希林さんからこんなメッセージをいただいております。
『河瀬監督の表現力は成熟していますね。今回の作品もそうですが、これからもいい映画を撮ってくれると思っています。私は離れたところで見守っています。樹木希林』ということでした。河瀬監督は、このコメントに対してどう思われますか?」

河瀨「ありがたいです。あと、長い説明があったということですが、私は、この受賞理由の前半が好きで『人間の精神的苦痛および弱点、そして可能性に焦点を当てた作品』という点が、まさに自分が永瀬くんに演じていただいた雅哉を通して、表現したかったことでもありますし、視覚障がい者の方々が見つける光、それが”可能性”の部分だと思いますが、具体的な光ということではないかもしれませんが、私たちの心の中に宿る光。これは、人生生きているといろいろあって、視覚障がい者だけでなく、人生の中で味わう苦悩や弱点ということ、誰もそんなに強くないから、そういう中で弱点を乗り越えるという、可能性を見出すような”光”を表現したかった。この混沌とした時代の中で、人が人を否定したり、人が人を殺めるような社会であって、どんな状況であってもそのようなことが起こらないような社会にするには、どうしたらいいんだろうと、またそういうことを映像で表現できるには、どうしたらいいんだろう、と思います。でも、そこを鉄砲とかミサイルとかを使わなければいけない人類って、一体なんだろう、ということを日々考えながら、でもそんなことを考えながら、単純に私は足元に広がる、手のひらに乗るだけの幸せを守りたいと思うだけでもあり、そういう思いが根本として、源として、この映画に昇華して表現されています。
でも、この映画って『よかったー。どら焼き食べたい!』とはいかない映画、口コミが広がりにくい映画でもあります。もちろん、興行成績や来場者数が多い方がいいですが、それ以上により多くの方に深く届けば、それが一番嬉しいことなので、こういった賞も嬉しいですし、希林さんが「河瀨の映画が成熟している」と言ってくれたことも、最近全然聞くことがなくて。今は「河瀨、カンヌ。うん、そうやね」
ということを言われる、でもそれを続けることの表現者としての苦しみもあるので、希林さんの言葉は非常にありがたいと思います」

司会「永瀬さんは、公式上映で感極まって泣いていらっしゃって、その映像が全世界に広がっておりましたが、永瀬さん照れないでくださいー!、現地では海外の方からの反応を色々と聞く機会があったかと思いますが、いかがでしたか?これは印象に残ったなということはありますか?」

永瀬「いろいろありますね。僕は、一昨年の『あん』の出品を含めてカンヌは3回行っているのですが、こんなに忙しいカンヌはなかったですね。僕は写真を撮るので、いつもブラブラするのですが、今回は街を歩くと人に呼び止められて、とても丁寧に作品の感想を伝えてくれる人たちがいたり、どんどん声を掛けられて、僕でさえこんな状況だったので、監督なんて本当に、街を歩けないですよ。
河瀨監督は、本当に現地でいろんな人に声を掛けられてました。でも、その中でもスペイン人の記者に「この映画は、すべての人に対してのラブレターですね」と言われて、記者からのインタビューだったのですが、ちょっと感動しました。あとは、『雅哉はどんどん目が見えなくなって闇に入っていくのに、同時に光が近づいていくような、クロスオーバーが素晴らしい。今のこの世界にはこの映画が必要だと思います』と言われて、『そういうことを考えてお芝居されたのですか』と言われてハッとしました。すいません、そんなこと考えもしませんでした。僕はただ雅哉を演じただけなんです」

司会「ラブレターですか」

永瀬「そうなんです、そんなことを言うような風貌ではないんですよ。普通のおじさんなんですが、ニコニコしながら感想をズバリ言ってくれました」

司会「なるほど。では、これから会場の皆様さんからの質問を受け付けたいと思います」

観客「とっても素晴らしい映画をありがとうございました。実はこの映画を観るのは2回目なんです。劇中で、もう一本映画がありましたが、あの映画はどのくらいの長さで撮影をされたか、またこの映画2作がシンクロしているように見えたのですが、雅哉の目が見えなくなってきて「そこに行くから!」と言われた意味を教えてください」

河瀨「あの映画は、モニター会のシーンを撮る前、本編を撮る1ヶ月ほど前に撮影して、20分ほどの映像でまとめましたが、モニター会ではあの映画を使って、ドキュメンタリーのようにモニター参加者の意見交換の様子を撮っていたので、モニター参加者にもわかりやすいように、きちんと物語も作って撮りました。」

永瀬「この映画で雅哉には自分の心が軋む音が、ずっと聞こえていたんです。美佐子は追っかけるばかりだったので、雅哉から行こうと、追いかける立場になろうと思って、最後にあの言葉が出たんです。ちなみに、映画は『その砂の行方』という名前の映画です」

河瀨「上映、するんです!」(会場から「えー!」の声が挙がる)

観客「素晴らしい映画をありがとうございます。思い出しただけで涙が出ちゃいます・・・。この映画を作るにあたって、気をつけていた
こと、また映像全体が透明感のある映像だなと思ったのですが、どうやって撮影されたのか、また監督はどうやって映像制作を勉強
されたのか、お聞かせください」
河瀨「実は今回、撮影監督には、初めて映画を手がける監督(=百々新さん)を起用しました。撮影監督は、過去に木村伊兵衛賞などを受賞する素晴らしい方で、私が学生の頃から知っているんですが、前作『あん』の時に、スチールカメラマンとして参加していただいており、その時に、彼の眼差しが私と同じ目線で、すぐにキャッチしてくれていて、そのスピード感が私と合っていたので、今回起用しました。なので、一部の方からは画の切り取り方がスチール的と言われたこともあります。また、制作(映画ではポスプロというのですが)は全部フランスでやっています。フランスのスタッフがすべて、カラコレしています。彼らが客観的に、日本的な色味を作り出してくれました。また、映画制作については、18歳から20歳まで、ビジュアルアーツという専門学校で学びました。主に、8ミリでの制作をしていたんですが、そこから『萌の朱雀』という作品を当時中学生だった尾野真千子を起用して制作、今に至ります。私たちの時代は、撮影現場について修行するような時代ではなかったので、自分で勉強しながら”普段から、何をみてどういう話をするのか”というようなことが、私にとってはとても大切だと思います」

観客「素敵な映画をありがとうございました。私はNHKの番組でこの映画を取り上げていたのを見て、観ようと思いました。そこで、永瀬さんが弱視のキットを使って演技に挑まれたと伺いましたが、私は全盲なので、弱視の気持ちを教えてください」

永瀬「雅哉はかすかに見えていて、特に右上が見える状況だったので、微妙に見える辛さなどを感じていたんだと思います」

河瀨「そうなんです。雅哉の完全に見えなくなるところにいけないという苦しみを感じてもらいました。その中で、“執着” ということに対して
表現できればと思いました」

観客「映画『あん』はとても感動し、本作では前作を上回る感動を感じました。永瀬さんを2回起用した理由を教えてください」

河瀨「惚れたからです」(会場から拍手)

司会「この映画は永瀬さんのために作られたのですか?」

河瀨「永瀬さんのためではない、ですが・・・。(笑)抜き差しならない、映画への愛がある方です、みなさんご存知かと思いますが」

ここでサプライズゲストとして、実際の映画にも出演されている田中正子(タナカマサコ、44歳)と、永瀬さんが雅哉を演じるにあたって色々とお話を伺ったという、大谷重司(オオタニジュウジ、59歳)が花束を抱えて登壇。田中さんは、この映画を観るのは3回目。
田中「撮影している部屋の空気、映画への愛が蘇ってきて、(3回目の鑑賞でしたが)涙がボロボロ出てきて大変でした。素晴らしい映画をありがとうございます」
河瀨「実は、正子さんのシーンに関しては、セリフがなかったので、正子さんが映画で発したセリフはまさに正子さんの言葉です。映画というものの中に横たわるものを捉え、そして『想像力というのは、大きな大きな世界なんだ。言葉でそれを小さくしないでほしい』ということをいってくれたことで、この映画が成立しました(涙)」
永瀬「大谷さんです。僕は、大谷さんからいろんなことを教わり・・・。(涙)ありがとうございました」
大谷さんは最近、新しい才能に気づき、今年の7月に開催された世界ベンチプレス大会でチャンピオンになりました。「メダルは4個目なので、そんなに感動してはいません(笑)」と言って、世界記録で優勝したということで会場を驚かせた。
大谷「この映画は、自分の分身のように、随所で痛みを共感する場面がたくさんあって、すごくいい映画であるとともに、永瀬正敏さんはかっこいいいな、と思いました」

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