この度、ロシアの芸術・文化を海外へ発信するプロジェクト「ロシアの季節」が日本で開催され、本日6月5日(月)に、ロシア映画の巨匠アンドレイ・コンチャロフスキー監督、主演女優のユリヤ・ヴィソツカヤが来日し、監督の最新作『パラダイス』のジャパンプレミア上映会を実施いたしました!※ロシアの季節公式サイト(http://russianseasons.org/jp/

本作は、第 73 回ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞し、現在も世界中の映画祭で 12 の賞に輝き、13 部門にノミネートされ、注目を浴びています。舞台は第二次世界大戦下のフランスとドイツ。立場の違う 3 人の男女、それぞれの視点で物語は描かれていき、やがて交差していきます。3人それぞれが、自身の直面していく過酷な現実をスクリーンに向かって語り出し、そのあまりにも強烈なメッセージは、観る者に時代を生き抜く強さとたくましさを教えてくれます。監督は、ロシアを代表する監督アンドレイ・コンチャロフスキー。監督作『暴走機関車』(85)は、黒澤明が執筆した脚本を元に製作され、ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞、日本にゆかりの深い監督です。
当日は、監督を務めたアンドレイ・コンチャロフスキー監督と、主演であり、監督の妻でもあるユリヤ・ヴィソツカヤが舞台挨拶に登壇、満席の劇場で、作品の魅力をたっぷりと語っていただきました!本作はこの上映会が日本初披露となるプレミア上映会となります。

【日時】6月5日(月) 舞台挨拶 18:30~19:00 ※上映前
【場所】TOHO シネマズ六本木ヒルズSC2(港区六本木 6-10-2 六本木ヒルズけやき坂コンプレックス内)
【登壇者】アンドレイ・コンチャロフスキー監督(79)、主演女優ユリヤ・ヴィソツカヤ(43)

満席の劇場にて、観客からの大きな拍手で迎えられるお二人。
コンチャロフスキー監督は、始めに「皆様にお目にかかれたこと、東京にいられる事をとても嬉しく思っています。」と優しく挨拶。続けて「「ロシアの季節」というプロジェクトの中で、私の映画作品を皆様にご覧いただけるという事は、私自身にとってもとても光栄なことです。」と、日本で自身の作品が上映される事の喜びを述べ、「今は政治的にとても複雑な時代ですが、芸術の分野が何かお互いを理解できる架け橋となれたらと思っています。私にとって日本文化は非常に近しいものです。私の祖父は画家だったんですが、その影響で小さいころから葛飾北斎や歌川広重などの浮世絵に親しんでいました。」と日本好きをアピールした。

続けて、主演で監督の妻でもあるユリヤ・ヴィソツカヤは、「私は東京に来ることをずっと夢見ていました。初の来日が、この『パラダイス』のプレミア上映会である事をとても嬉しく思っています。この度はお招きいただきありがとうございます。」と初来日の喜びと共に挨拶。また監督は、日本とロシアの国交について言及し、「私は、映画の他に、演劇やオペラも手掛けています。来年は日本におけるロシア年。ロシアにおける日本年という記念すべき年であり、その年に、チェーホフの三部作を日本で公演できたらと考えています。チェーホフの三部作では、私の妻でもあるユリヤも演じてくれると思っています。」と、演劇においても日本での公演に意欲を示した。今回の『パラダイス』を制作されたきっかけについて聞かれると、「映画監督には2つのタイプがあると思います。

1つは長編映画を撮るようなタイプの監督、もう1つは、演劇もやりながら映画を撮る監督。そういう監督は、コメディも、悲劇も、ドラマも撮ります。日本には偉大な黒澤明監督がいますが、黒澤さんは、コメディあり、悲劇ありの様々なジャンルを手掛けていました。」と、日本の巨匠黒澤監督を引き合いに出し、「丁度黒澤監督が『デルス・ウザーラ』を編集されていた時にお目にかかったことがあるんですが、しょっちゅう廊下に出られて煙草を吸っていたことを覚えています。私はその黒澤監督のそばをネズミのようにつま先立ちでひっそりひっそりと歩いていました。それから14年後に、フランシス・フォード・コッポラ監督から黒澤監督のシナリオを基に映画を撮ってみないかと提案をもらったとき、座っていた椅子から転げ落ちそうになりました。」と、黒澤監督とのエピソードを披露し、「以来、黒澤監督と色々とお話するようになりまして、監督は非常に図を描いて説明するのがお好きな人でした。『暴走機関車』という映画なんですが、車両はこうすべき、ああすべきだといつもアドバイスをくれました。また、黒澤監督は自らお寿司を握ってくれるという楽しい思い出もあります。」と話すと、観客からは驚きの声も上がった。

また、監督がどうしても伝えたいメッセージとして、「少し哲学的な話をさせていただきたいのですが、「悪の誘惑」という話です。みなさん幸せになりたいという気持ちを持っています。それはどの民族にとっても当たり前のことです。そしてどの民族もどうしたら幸せになれるのかという事を考えます。20世紀は様々な国が、どうしたらそれぞれの国が繁栄をするかを模索し続けた世紀でした。そして20世紀の悲劇、私が考えますのは、ある民族の幸せはまた別の民族を犠牲にして成り立ってしまった、それが20世紀の悲劇だと思います。そして、この作品のタイトルでもある「パラダイス」、すなわち、ある民族の天国を作るというのは、他の民族の「パラダイス」を犠牲にしなければならない、そういうような事が20世紀の悲劇だと思います。今も人々は理想のために酷いことをし続けています。それが私が唯一申し上げたい事です。」と映画に秘めた思いを明かした。

今回の役でを演じるにあたって苦労した点を聞かれたユリヤは、「不思議に思われるかもしれまんせが、私が演じた役は女優にとって非常に大きなプレゼントだと思っています。ですので、難しい事だったと仰いましたが、いまになってみれば難しかった事もとても良い思い出になっています。」と、熱く語った。監督の妻でもあるユリヤ。監督は家にいる時と全然違うのでしょうか。という質問に対し、「そうですね、職場での方が良い印象ですね」と話し、会場の笑いを誘った。続けて「監督は非常に俳優に愛を持って接する方なので、映画界でも演劇界でも彼と仕事が出来た人はとても幸せだと思います。同時に、アンラッキーでもあります。というのも、監督のあと、中々他の監督と仕事をしたがらなくなると思いますよ。」と述べ、笑みをこぼした。

一方、監督は、「ユリヤは大変な事もあったと思います。まさか映画で髪を五分刈りにするなんて思っても見なかったと思います。
2時間撮影現場に姿を見せてくれませんでしたから。」と彼女の苦労したエピソードを明かした。
トークの終盤には、コンチャロフスキー監督が、富士山をバックに黒澤監督と一緒に撮った写真パネルが登場。コンチャロフスキー監督からは、当時の思い出が語られ、「このあと、黒澤監督がウォッカを飲み始めたら途端に議論が始まりまして、レーニンを誉め始めました。ソ連に住んだことのないのに、レーニンが誰なのか知らないでしょと言ってみたら、腹を立てていました。」と笑うと、会場からも笑いが沸き起こり、終始、温かなトークショーとなった。