映画『永い言い訳』西川美和監督トークショー「映画が原作小説を超越する瞬間」in青山ブックセンター
『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』の西川美和監督が、『おくりびと』以来7年ぶりの映画主演となる本木雅弘を迎え、直木賞候補となった自らの小説を映画化する最新作『永い言い訳』(アスミック・エース配給)が10月14日(金)より公開になります。
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)(本木雅弘)は、妻・夏子(深津絵里)が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。まさにその時、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族——トラック運転手の夫・陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。子供を持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝きだすのだが・・・
主人公の幸夫役に『日本のいちばん長い日』『天空の蜂』での演技が高い評価を得て、昨年度日本アカデミー賞最優秀助演男優賞等を受賞した本木雅弘。その他ミュージシャンの竹原ピストル、池松壮亮、黒木華、山田真歩、堀内敬子、深津絵里など、屈指の実力派俳優が脇を固め、ひとときも見逃したくない緊張感と豊かさにあふれた映画空間を創り上げます。
この度、9月25日(日)に青山ブックセンター本店にて、西川美和監督のトークショーが実施された。
盛大な拍手の中、登場した西川監督は、作家と映画監督としての創作活動の相違点や映画撮影時のエピソード等、あますことなくたっぷりと語った。
今回初めて、自ら綴った原作小説の完成後に映画作品の撮影をした西川監督。映画を作る前に、自由にスケッチするような感覚で小説の執筆をしたそう。小説の執筆は映画の制作とは違い、「予算や時間の制限等、現実的なことを心配する苦労がなかった。」と話した。また、映画には小説とは異なる展開も見られること、一方で、映画の中では描ききれないシーンが小説の中には描かれていること等、驚きの事実も次々と明らかに。小説も映画もそれぞれの見どころを楽しんで欲しいと語った。
また、自身の師匠である是枝裕和監督からは、映画の内容に関してあるアドバイスを受けていたことを明かした。「プロデューサーからはシーンのカットを言われることも多い中、是枝さんに見せると大抵シーンが増えてしまうから、製作陣からは見せないで!って言われるんですよね。(笑)」と話しつつも、そのアドバイスはとても必要だと話す。
そして、写真家の上田義彦氏に撮影を依頼した、幻想的なポスタービジュアルに関して問われると、「構想では絶対に会うことのない2つの家族がそろうというイメージを形にしたいなあと思ったんです。」「最初は写真館で撮るような正装をした家族のポートレート風にしようと考えていたのですが、撮影の一週間前に上田さんから『何か違う。映画の中のロケーションで良い場所はないか?』と連絡があり、急遽九十九里の海で撮影することになったんですよ。」とその撮影秘話を明かした。
また、会場からの質問で、小説で描いた人物が、生身の人間によって演じられることに関してどう思うか、と聞かれると「私にはけっして書けないような言葉が、生身の役者達が演じると出てくるんです。自分以外の人々との共同作業によって、自分の中から生み出したものを超越することに嬉しさを感じました。」と映画制作の醍醐味を語った。
会場にきていた女性からのリクエストでキャストの1人、池松壮亮について話す場面も。今回、本木雅弘演じる人気作家・津村啓こと衣笠幸夫のマネージャー・岸本を演じた池松。34歳2人の子持ちという当初の役柄の設定年齢を考えると若いのではという印象はあったものの、実際に会ってみて感じた内面の成熟度、過去の出演作品を観た際に感じた俳優としての凄みが決めてとなって起用につながったという。「池松さんは普段あまりお話されない方なんですよ。私は本当は池松さんと話したかったのだけれど、同じシーンに登場している本木さんが凄く話しかけてくるのでそのケアが忙しくて…(笑)」と撮影を振り返り笑いを誘った。
イベントの最後に西川監督は「『永い言い訳』は、本当に時間をかけて細部に渡り丁寧に作りました。小説を読んでいる人も、もう一度読んで楽しんで頂きたいし、映画も是非劇場で観て欲しいです。」とメッセージを送った。