このたび、黒沢清監督が初めてオール外国人キャスト、全編フランス語で撮りあげた最新作『ダゲレオタイプの女』(10月15日(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開)が、今月8日から開催されている北米最大の映画祭である第41回トロント国際映画祭唯一の賞対象部門であるプラットフォーム部門に正式出品され、黒沢清監督、主演のタハール・ラヒム、ヒロインを演じたコンスタンス・ルソーが本映画祭へ出席。
9月11日、ワールドプレミアとなる上映前(現地時間16:30)に、舞台挨拶に登壇致しました。

ワールドプレミアの会場となったウィンター・ガーデン・シアター(劇場)は100年以上の歴史を持つ非常に由緒ある劇場。
1000席弱の客席は2階席まで満席となりました。客席には、ブライアン・デ・パルマ監督、チャン・ツィイーらの審査員の姿も。
上映前にトロント映画祭アーティスティック・ディレクターのキャメロン・ベイリーから、黒沢監督のフィルモグラフィが紹介されると、『CURE キュア』『回路』『トウキョウソナタ』といった代表作のタイトルが挙がるたびに、客席から歓声が上がり、いかに黒沢監督のファンが世界中にいて、新作を待ち望んでいるかという証となった。

大歓声のなか、黒沢監督が登壇。「初めて海外で撮った作品が、大好きなトロント映画祭でワールドプレミアを迎えることが出来、なおかつ、このような歴史のある劇場で上映できるとは本当に夢のようです」と黒沢監督の挨拶。
そして、「その夢の一緒に実現してくれたタハール・ラヒムとコンスタンス・ルソーです」という黒沢監督の紹介で、タハール・ラヒムとコンスタンス・ルソーが登壇し、一層大きな歓声に包まれ、上映が始まった。

上映後、エンドロールが終わると鳴りやまぬ拍手の中、3人が登壇し、Q&Aが行われた。
Q&Aでは、ファンが前列の席に詰めかける熱狂ぶり。キャスティング・ロケーションについての質問に黒沢監督は「主役のキャストは、日本にいるときから、自分のなかでは、タハール・ラヒムとコンスタンス・ルソーしかいないと、思っていました。合計50人ほどの男優・女優にも会いましたが、やはりこの二人しかいない、と決めました。屋敷のロケーションは、パリ郊外で非常に苦労して探しました。
結果的には、3つの場所を組み合わせて、一つの屋敷にしています」と答えた。
外国人監督との仕事について聞かれたタハール・ラヒムは、「言葉の通じない外国人の監督と仕事をするのは、時には難しいこともありますが、黒沢監督との仕事は、全くそんなことはなく非常にスムーズでした。監督は明確なビジョンがあり、なおかつ役者に対して、非常に敬意を持って接してくれる素晴らしい監督です」と笑顔で答えた。

ダゲレオタイプの写真撮影シーンについて聞かれたコンスタンス・ルソーは、「本当のダゲレオタイプの写真撮影ではありませんでしたが、8分ほど全く動かずに撮影しなければなりませんでした。あの8分間は自分の人生のなかで最も長い8分間でした」と撮影を振り返った。
次々に質問の手が挙がるが、残念ながらタイムリミットがきて、Q&Aは終了。終了後に劇場の外に出た3人を待っていたのは、サインを求めるファンの列。
黒沢監督もタハール・ラヒムも時間の許す限り、サインに応じていたのが非常に印象的だった。
また、上映を終え、「まるで魔法のよう!とても感動的で、素晴らしい演技、監督も素晴らしい!本当に驚いた!」(ヴァニティ・フェア誌)など、各誌の映画評でも黒沢監督新作への称賛が並んだ。

本作は、『岸辺の旅』で2015年カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞、先日行われたベルリン国際映画祭では『クリーピー 偽りの隣人』が正式出品され、好評を博すなど、世界中に熱狂的な支持者を持つ黒沢清監督の最新作。
世界最古の写真撮影方法“ダゲレオタイプ”を軸に、芸術と愛情を混同した写真家の父の犠牲になる娘と、“撮影”を目撃しながらも娘に心を奪われていく男の、美しくも儚い愛と悲劇の物語を描き出しました。
主役のジャンを演じるのは、数々の名匠の作品への出演が続くタハール・ラヒム。ジャンが想いを寄せるマリー役に『女っ気なし』の新星コンスタンス・ルソー、マリーの父であり、ダゲレオタイプの写真家をダルデンヌ兄弟作品で知られるオリヴィエ・グルメ。
そして、デプレシャン作品常連の名優マチュー・アマルリックが脇を固めます。

また、本作は、トロント国際映画祭のほか、釜山、シッチェス・カタロニア国際映画祭への正式出品も決定しており、今回のワールドプレミアを皮切りに、北米、アジア、ヨーロッパと世界中を『ダゲレオタイプの女が』席巻致します!
すでにベテランであるにもかかわらず、フランス映画界にとってはすごい才能を持った新人の登場とも言える黒沢清。

◆トロント国際映画祭 プラットフォーム部門◆
トロント国際映画祭は、今年で41回目を迎えるカナダ最大の都市トロントで開催される、カンヌと並ぶ北米最大規模の来場者数を誇る映画祭で、”オスカーレースの前哨戦”として世界中からの注目を集める。1999年には、「Spotlight: Kiyoshi Kurosawa」として、黒沢清監督の7作品が上映されている、同監督に馴染みの深い映画祭である。
今回、『ダゲレオタイプの女』が正式出品となったのは、トロント国際映画祭唯一の賞対象部門であるプラットフォーム部門。
世界で注目される監督の映画をセレクトし、芸術的に刺激的で、示唆に富んだラインナップを紹介することを目的に、40周年の節目である昨年新設された部門。今年の審査員は、ブライアン・デ・パルマ監督、チャン・ツィイー、マハマト=サレ・ハルーン監督らが務める。

なんて愛おしい映画なんだ!美しく、考え抜かれている。
ジャンル映画であり、映画の歴史への讃歌であり、そしてまぎれもない黒沢清作品だ。
——キャメロン・ベイリー(トロント国際映画祭アーティスティック・ディレクター)