現在渋谷で絶賛公開中のチベット仏教の巡礼を描いた『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』。
昨日、公開中の劇場にてトークイベントをおこないました。

名字がない、虫も殺さない。チベット的知恵に感心。
高所対応血液にもビックリ!

チベットの11人の村人が“五体投地”という地面に体を投げ出す礼拝を繰り返しながら、2400kmもの距離を1年かけて巡礼する姿を描いた『ラサへの歩き方〜祈りの2400km』。
公開以来、その驚きの映像に盛況が続いている。この日のトークゲストは、映画に登場する村人と同じカム地方の在日チベット人のロディ・ギャツォさん。本作の字幕監修にも協力している。

■2016年7月27日(水)18:30の回上映終了後、 シアター・イメージフォーラムにて開催。

チベット伝統服で登場したロディさん。夏物だというが、日本なら冬でも暖かそうなフェルト地。
ロディさんの故郷は、富士山よりも高い標高4080m!夏でもフェルトのような厚手の服でちょうどいいそうだ。映画では、富士山より高い、つまり空気が薄い場所で“五体投地”を繰り返す村人の姿に驚く観客が多いが、ロディさんは「最近の研究でチベット人の血液に特殊な遺伝子が見つかった」とチベット人の血液が“高所対応”になっていると説明。日本に来た当初は、逆にあまりの標高の低さに気持ちが悪くなり、「富士山に登ってみたら、身体がとても軽くなって、チベットにいるような気持ちになり、以来7〜8回登っている」というエピソードも披露。

 チベットの暮らしがいかに仏教をベースにしているか。映画でもよくわかるが、ロディさんは「チベット人に名字がないのも仏教の教えのあらわれだと僕は思う」そうだ。昔はチベットにも名字やお墓があったが、チベット仏教が入ってきてからしだいに名字もお墓もなくなったという。その理由は、名字があると他者との間に仕切りができて家や権力への執着が強くなる。だから名字がない。
また、チベット仏教の輪廻転生の考え方として、「亡くなったら、また生まれ変わるのでお墓も要らない」。
間もなく日本はお盆だが、先祖が戻ってきたりしたら「あぁ、まだ生まれ変われないなんて生きてるときにどんな悪い事したんだろう」とチベット人なら怖がってしまうと話して笑わせた。仏教は一切衆生、生きとし生けるものすべてを大切にする。もしかしたら虫だって、家族の生まれ変わりかも知れない。だから、「映画の中にも出てくるけど虫も殺さない」。

 また「日本に住んでいると会社や仕事を生き方の中心にしている人が多いと感じる。それも良いことだけど、仕事に失敗するとすごく落ち込んでいる。でも、チベットではそういう考え方をしない。失敗しても家族や見えないものが繋がっているから大丈夫。落ち込んだり暗くなったりしない。頑張る事はいいことだけど、色々な価値観があるから、お金や物だけじゃない。目に見えない大切なものがいっぱいある」とチベット的な考え方を伝えた。

 そして、チベット人から見たこの映画の良さは?と聞かれ、「まず中国の政治も、チベットの政治も、どっちの政治にも関わっていないのがとても良いと思った。政治がないから誰でも見られる。だから特に中国の人たちには見て欲しい。チベットの人の価値観や、生き方、考え方がとても良くわかると思う。チベットの問題はアメリカ、日本、ドイツなどの支援を受けて解決するのではなく、チベット人と中国人が理解し合って、問題解決することが必要。こういう映画があれば、そこから会話が始まるきっかけになると思う」と語った。 
『ラサへの歩き方』は香港や上海の映画祭で上映され、中国の観客にも大好評。秋には中国本土での公開も決まっている。

イメージフォーラムでの今後のトークイベント
8月 7日(日)13:20の回 諸岡なほ子さん(『世界ふしぎ発見!』ミステリーハンター)
8月11日(木・祝)13:20の回 渡辺一枝さん(作家)