12月12日(土)。気持ち良く晴れた冬の空の下、新宿シネマカリテで『ア・フィルム・アバウト・コーヒー』の公開が始まりました。一番最初の上映は早朝からにもかかわらず、多くのコーヒーファンが寄せかけ、たちまちほぼ満席に。初日の上映前には作中に登場する下北沢の「ベアポンド・エスプレッソ」によるウェルカムコーヒーが振る舞われ、カップを片手に行き交う人々の表情はコーヒーへの愛に溢れていました。週末のどの回も満席に近い動員で、同時開催の青山国連前で開催され大盛況だった
「Coffee Festival」と合わせて本作を楽しむ方も多く見られ、コーヒーへの関心の高さが伺えました。
(Coffee Festivalについては、 公式サイトをご覧ください http://tokyocoffeefestival.co/)

●撮影は本当に不意打ちだった

田中:今日は朝早くから劇場に来てくださってどうもありがとうございました。『ア・フィルム・アバウト・コーヒー』をご覧になって今、みなさんは感動のるつぼの中にいるんじゃないかと思います。
 
——田中さんがこの作品に出会ったきっかけは何だったのでしょうか。

田中:きっかけというのはまったくなかったです(笑)。監督のブランドン・ローパーが所属しているサンフランシスコのAbocados&Coconuts.という映像制作会社がありまして、あるとき彼らがあるプロジェクトの撮影で世界を回っているときに「コーヒーってグローバルランゲージなんじゃないか」ということに気づいたそうなんです。日本のコーヒーシーンも撮りたいということになって、別の国での撮影の帰りに日本に寄ったのが彼らの最初の来日だったと思います。その1年後ぐらいに突然「ちょっと話したいんだけど」と監督から僕に連絡が来て、数日後にインタビューが始まっちゃった。撮影は本当に不意打ちだったんですね。

●誰が作っているかで味が変わってくる

——田中さんはニューヨークのサードウェーブを体験したと伺いました。当時の様子を聞かせてください。

田中:今もですが、1995年からNew Yorkに移住をしています。2000年代に映画にも登場したケイティ・カージュロという女性のバリスタと僕はエスプレッソの魅力に夢中になってました、のちに「サードウェーブ」と呼ばれるムーブメントの起源になるニューヨークのコーヒーシーンの中にいる事になった訳です。
 イースト・ヴィレッジという地区に僕の自宅があって、その近くにあった「Ninth Street Espresso」という店が、ケイティが働いていた「Counter Culture Coffee」の豆を使っていました。豆の品質以外にも、最後に味のバランスを調整する技術のバリスタの人材がもっと必要だということで、ポートランドとかシアトルの西海岸のバリスタを、引っ張ってきて、それで今のNew Yorkのコーヒーカルチャーができ上がってきたんです。—— それまでは、$1コーヒと呼ばれるNEW Yorkで有名な【コーヒーとドーナッツ】の習慣を、コーヒーの本来の良さを伝えた「サードウェーブ」の1年生のような時間でした。

——下北沢にある田中さんのお店「ベアポンド・エスプレッソ」についてお伺いしたいんですけど、ここで扱っているオリジナルのコーヒー豆はどこの産地のものを使っているんですか?

田中:「フラワーチャイルド」ですね。どこの産地,品種、プロセスに関しては、今のところシークレットなんです。
ただ、豆には一つ一つ個性があって、その個性のどこを使うかを研究するのにとても興味があるのです。  ベアポンドはそんな中で、ずっと一つのファームと一緒に6年間開発を続けてきています。同じファームで少しずつ条件を変えて豆を育てたり、プロセスを変えたり。そして、焙煎ポイントをちょっと変えたときに、その時の小さな違いを見抜けるか見抜けないかがすごく大切だと思うのです。時間はかかりますが、その違いこそが今後のエスプレッソの新しい神秘の何かが見えるのではないかと思っているんです。

●「Coffee people have to be sexy.」という言葉の真意

——映画の中に登場する「Coffee people have to be sexy.」という言葉がすごく印象的だったのですが、田中さんのおっしゃる「sexy」とはどういう意味なのでしょうか。

田中:僕の場合に限らせてもらうと、僕はニューヨークで働いていたときに日本人ということで人種差別を受けたり、見栄、妬み……そういう渦の中で普通の生活水準をキープしなければいけない状況がありました。でも、迫害を受けて泣いていても仕方ないし、見栄を優先したり、認めてもらおうとすると、どんどん自分の個性がなくなっていくということにあるとき気づいたんです。田中勝幸として生まれてきたのだから、自分自身の意見を堂々と言って歩いていきたい。 まずは自分自身をreviewして、自分らしく生きてみようと思ったんです。
当時ニューヨークでエスプレッソをやっていたヤツらには、すごく無邪気というか、動物っぽいというか、世間の価値観よりも,自分たちだけが分かる価値観を一番たいせつみたいなパッションがあったんです。自分もそのマインドを大事にしたいと心の中でふと思ったんです。そんな思いが映画のインタビュー中で不意に出てきたのが「sexy」という言葉だったんですね。裸のままで自分らしく進んでいこうよ、と。No1ではなくて、自分らしい特別な生き方をしたいと、僕はそれをコーヒーで表現しているんです。