アカデミー賞女優ヘレン・ミレン主演最新作、クリムトの名画をめぐる感動の実話を描いた映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』が11月27日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、シネマライズ(本作の公開を最後に閉館)他で全国公開いたします。

この度、公開を記念して雑誌「美術手帖」と「bitecho」による読者向けの特別試写会を開催、上映後に美術評論家の山田五郎と、「美術手帖」編集長の岩渕貞哉を招いたトークイベントを実施いたしました。

本作を「面白かった。役者も素晴らしいし、映画として非常に楽しめた。」と絶賛した山田は、元となった裁判についても「事件自体は当時から新聞で知っていた」と明かしつつ、「その事件の担当弁護士ランディが、作曲家シェーンベルクの孫だと言うのは知らなかったので、驚いた。映画を観て色々と調べました。」とコメント。
また、オーストリアへの留学経験もあることから、「オーストリアは狭い国なのに、ウィーンだけ極めて特殊な場所だと感じた。東の端のウィーンと西部の町とでは、街の文化的な気風が違うんです。あと、ウィーンは猫の町なんですよ。イメージとしては京都に似ていますね。」と物語の舞台であるウィーンについても解説。
一方で、「ウィーンはヨーロッパの文化の中心としてのプライドもあった。そういう意味で、オーストリア政府が大切にしている名画をアメリカに渡すことになった結果は屈辱的だったんじゃないかな。」と明かした山田は、「ただ、この映画では若干オーストリアが悪者に描かれていて可愛そうに思ったところもあった。劇中ウィーンの人々が旗を掲げてナチスを歓迎したシーンは、オーストリアだったからロケが可能であったと思う。時を経て、過去を改めて見つめ直そうと政府が考えたのかもしれない。ドイツなら絶対無理な気がします。」と本作を「本当に色々なことを考えさせられる映画」とも評しました。

また、物語の中心となる絵画「黄金のアデーレ」に関しては「”黄金のアデーレ”は、クリムトを代表する、”ゼセッション“と呼ばれるウィーン分離派の1作品。分離派というのは、ルネッサンス時代続いたアカデミズムという、所謂それまでのヨーロッパでの普通の絵画から分離して、新しいものを生み出していこうという運動のことですが、この分離派は実は日本の影響をとても受けている。クリムトをはじめウィーンの画家は、パリなど他の場所の画家に比べて職人性がすごく高く、”ゼセッション“についても、美術と工芸の融合がメインでした。例えば、印象派の絵画は、日本の浮世絵をそのまま写すといった直接的な影響を与えているのですが、”黄金のアデーレ”を観ると、アデーレ・バウワーの顔と首周りに関してはほとんどオーソドックスな書き方ですよね。絵そのものというよりは、日本が影響を与えたのは、むしろ金の装飾です。金碧障壁画や唐草模様などは非常に日本の影響を受けていると思います。クリムト自身も美術学校を出たわけじゃなくて、工芸学校出身なのでもともと職人性が高いですしね。」と解説いたしました。

最後に、「美術作品は実態のある物だという側面を、この映画を通してすごく感じました。人の人生を豊かにしたり、狂わせたりする不思議な力を持った特殊な物であるという。絵画には秘められた物語がある。」と語った山田は、「美術作品は美術館で観るものと考えている人がほとんどだと思いますが、美術作品は買うものでもあるんです。ですので、ぜひ皆さんも美術作品を買って楽しんでみてほしい。そうすることで絵の見方も変わってくるし、この映画を観た時の感じ方も違うと思います。」締めくくり、集まった観客から温かい拍手を受けながらイベントは終了いたしました。