爽やかに晴れ渡った映画祭3日目の15日(金)。“コンペティション”部門では、ギリシャのヨルゴス・ランティモス監督の『ザ・ロブスター』とハンガリーのラズロ・ネメス監督作『サン・オブ・サウル』が正式上映。特別上映作品は名匠ウディ・アレン監督の『イラショナル・マン』。“ある視点”部門には、アイスランドのグリームル・ハゥコーナルソン監督の『ラムズ』、インド映画の『ザ・フォース・ディレクション』、韓国のオ・スンウク監督の『ザ・シェイムレス』が登場。“シネマ・ドゥ・ラ・プラージュ”部門では黒澤明監督の『乱』が上映されている。

◆ギリシャの気鋭ヨルゴス・ランティモス監督が豪華キャストを起用した怪作『ザ・ロブスター』でコンペに初参戦!

 2009年に“ある視点賞”を受賞した『籠の中の乙女』で世界中の注目を集め、2011年の『アルプス』でヴェネツィア国際映画祭脚本賞を獲得したギリシャの気鋭監督ヨルゴス・ランティモスのコンペ初参戦作『ザ・ロブスター』が朝の8時30分から上映され、11時から行われた公式記者会見に出席した。
 一定の年齢に達した独身者は全て逮捕され、ホテルに移送される近未来。そこで45日以内に結婚相手を見つけられなかった独身者は自分の好きな動物に姿を変えられ、森に放逐されるという“掟”が遵守されていた。ある日、ホテルに連行されたダビッドは、好きな生き物は“ロブスター”だと答えた。やがて日々が刻々と過ぎる中、伴侶を得るための滑稽な努力に嫌気がさした彼は森の中に逃亡。“掟”に反逆するグループの一員に加わるが……。
 ディストピア的未来社会を描いた『ザ・ロブスター』は、国際的な豪華キャストを起用し、英語で撮り上げたシニカルなSFラブストーリーで、実に奇想天外かつシュールな物語の展開に思わず惹き込まれてしまった。音楽も実に印象的だったが、ダビッド役のコリン・ファレルが劇太りした姿で登場したのには驚いた。

 公式記者会見には、共同脚本も手掛けたヨルゴス・ランティモス監督、プロデューサー3人、俳優のコリン・ファレル(ちゃんと元の体型に復帰!)、レア・セドゥ(反逆団のリーダー役)、レイチェル・ワイズ(近眼の女役)、アリアーヌ・ラベド(メイド役)、アンジェリク・パポウリア(ハートのない女)、ベン・ウィショー(足を引きずる男役)、ジョン・C・ライリー(喋り方の変な男役)が登壇。
 現在はイギリスに拠点を置いているヨルゴス・ランティモス監督は、その独特な世界観が俳優たちに支持されていたので、キャスティングには全く苦労しなかったと言う。撮影はアイルランドで行ったそうで、会見は和気あいあいとした雰囲気の中で進行。本作は“孤独”についての映画だという監督に対し、レイチェル・ワイズは、「ナルシズムを感じさせるロマンティック・フィルムよ」とコメント。昨日の『テール・オブ・テールズ』に続き、2度目の会見出席となったアメリカの芸達者な性格俳優ジョン・C・ライリーは「これはプリズン・ムービーさ!」と述べ、会場の笑いを誘った。

◆監督デビュー作『サン・オブ・サウル』がコンペに選出されたハンガリーの新鋭監督ラズロ・ネメス!

 12時30分からはハンガリーの新鋭ラズロ・ネメスが監督&脚本した衝撃のホロコースト映画『サン・オブ・サウル』の公式記者会見に出席した(正式上映は16時から)。
 1944年のアウシュビッツ収容所。同じ収容者でありながら、特別労務班員としてナチスのユダヤ人殺戮を補助し、ガス室送りとなった同胞の後処理にあたるハンガリー人捕虜のサウル(ゲザ・レーリヒ)は、幾重にも重なった裸の死体の山の脇での労務に明け暮れていたが……。スタンダードサイズの画面、フィルム撮影、フィルム上映された本作は、主人公のクローズアップを多用した意図的カメラワークが絶大な効果(阿鼻叫喚の地獄絵図はフレームの奥で繰り広げられるがため、おぼろげに認識出来る程度にしか映らない!)を発揮する、まさに傑作で、本作が長編第1作目とは思えない完成度の高さに舌を巻かされた。

 本作の公式記者会見に登壇したのは、ラズロ・ネメス監督、共同脚本家のクララ・ロイヤー、2人のプロデューサー、撮影監督、編集者、言語アドバイザー、主演のゲザ・レーリヒと共演男優2名。
 狂気にとらわれて表情を失い、全く怯まずに無謀な行動をとる主人公の焦燥感を見事に表したゲザ・レーリヒは豊かな髭を満面にたたえて登場。何と彼の本職は俳優ではなくニューヨーク在住15年のライターだそうで、映画の中では気付かなかったが、やけに甲高い声の持ち主だった。
 カンヌの“シネフォンダシヨン”の助成を受け、パリで映画の勉強を続けたラズロ・ネメス監督(1977年ブダペスト生まれ)は、ドキュメンタリーから本作の着想を得たとコメント。彼は会見での質疑にも英語とフランス語の両方に即応する才人で、劇中でもドイツ語とハンガリー語に加え、地域毎に異なるイディッシュ語のそれぞれを用いるなど、“言語”には非常に拘ったと語り、出演俳優もルーマニア、ポーランド、ドイツの各国から起用。メインキャラクターが喋る言語が異なる撮影現場は、まるで“バベルの塔”状態だったらしい。また、出演陣からは体力的にも感情的にもハードだったのはガス室の床掃除のシーンだと明かされた。
(記事構成:Y. KIKKA)